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分かれ道

舞火

「来たのか?」
「ああ」
 額の汗を拭いながら出てきた卓也に慧が素っ気ない返事をする。
 あの日には少年だった慧ももう40歳だ。それなりの貫禄もついて、采配を振るう様は教祖らしくなっている。だがどこか冷めた表情を見せるのは相変わらずだった。
 それがふりだと卓也が気付いたのはいつだったろう。
 力に媚びる人達から精神を守る術はその身に染みついて、もう消えることはない。
「大変だな、教祖様も」
 笑いかけると、慧も肩の力を抜いて諦めたように苦笑を返す。
 他の誰もわざわざ訪ねてこないこの場所に慧が来る理由を、卓也はよく知っていた。
「ここは……順調か?」
 途切れた話題を繋げるように、慧が装置を見上げた。
 年を経ていろいろな装置が停止する中、未だ動き続けるメタンガス発電システムも、さすがに老朽化が進んでいる。
「俺の目の黒いうちはね」
 ──どんなことをしても動かし続ける。
 そう慧と約束したのはいつだっただろう。
 だからこそ、慧は実行に移した。

 もう……15年も経ったのか……。

 外は焼け付くような暑さのうえに湿気をかなり含んでいて、不快指数は室内より高い。
 色の少ない風景は見ていて和むものではなかったが、それでも卓也と慧は、ぼんやりと眺めるのが好きだった。
 もっとも見ている物と言えば、土の色と大差無い岩を積んで作った墓だ。それが幾つも列を成していた。
 あれは、15年前。
 立て続けに死者が出て、墓の数が一気に増えた年。
 スサノヲが落下した後に起きた諸々の影響でも死者は出たが、それよりもはるかに多かった。故に疑問の念を抱く者もいたけれど。
「お前がちゃんと教祖をやり始めてから、ここは落ち着いたな」
「……一人でゲームも飽きたからな……」
 あの時、慧は閉じこもるのを止めた。
 供物のない墓の群れはひどく寂しげで、その中でも一際大きな墓が慧の父親の物だった。
 彼は全てを知っていて、死を選んだ。
 何もかも慧のやりたいようにすればいいと言って、満足げに笑っていた。

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