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日記2007/3/3

中条卓

ようやく春めいてきた。暖かくなったかと思うとまた寒さがぶり返してがっかりする日もあったけど、冬はようやく終わったようだよ、とお父さんも言っている。なんて長い冬だったんだろう! 去年の前半はシェルターから一歩も出られなかったし、死の灰が降り止み、放射能が弱まってようやく外に出られたと思ったら、8月だっていうのにコートと手袋がいる寒さときたもんだ。鳥はいなくなるし、木も草も枯れてしまって、ほんとにこのまま世界がおしまいになるかと思った。

倉庫から出してきた木組みのおひな様をタツロウと飾った。身長5センチの顔もないおひな様だけど、家の中が明るくなった気がする。明日は花を探しに行こう。どんな小さな花でもいいからおひな様に飾ってあげたい。

夕飯のあとでお父さんが重そうな段ボール箱を抱えてきた。誕生日のプレゼントだよって。いったいどこからと思ったら、君たちの18才までの誕生日のお祝いはちゃんと用意してあるんだ、なんて相変わらず用意周到なお人だ。箱を開けると新聞紙にくるんだ汚い(ごめんなさい)石が出てきた。細長くて平べったい石が全部で17個。石にはAとかBとかアルファベットが書いてある。お父さんは暖炉から何本か薪を持ってくるとテーブルの上に2列に並べ、その上に石を載せ始めた。Eと書かれた長いものから順番に…

「わかった、楽器だね」
「そう、木琴でも鉄琴でもない、石琴かな」
「でもどうして石なの」タツロウが聞いた。
「こいつなら何万年でも保つじゃないか。ガラス質だから酸性雨にも強いしな」

お父さんが生まれた香川県の特産でサヌカイトというのだそうだ。(さぬきって書けないや。書けない字がふえていくばっかり)
サヌカイトは澄んだ暖かい音がした。みんなで順番に、おぼえている曲を片っ端から叩いて演奏した。作曲もしてみたくなった。

打ち鳴らす春の知らせやサヌカイト 真史(←17と言えば俳句だよね)

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