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極軌道 1/01/2006

高本淳

 旧型シャトルを『0系』と呼ぶのは日本人だけに通じるジョークだろう。帰還準備中のその中で手元の携帯端末をのぞきながら早瀬はしきりに頭をかしげていた。神林が背後に漂い寄っても気づかないほどの没頭ぶりだ。
「どうだ? クラッキングの成果は……」
「わあ、びっくりした! 人聞きの悪いこと言わないでくださいよ――システムの稼働状況を自分なりにチェックしているだけです。正規の手段じゃないのは認めますがね」
「それをクラッキングってんだろ」
 以前、作戦指揮官から閉め出しを食らったとき、ささやかなリベンジとして彼が密かにシステムに忍び込ませたウイルスソフトのことは仲間内での公然の秘密だった。
「それがね、ここ数時間連中の動きがどうも妙なんですよ。アドラーのやつ地上基地へアクセスして以前の古いプログラムをもう一度ロードしています」
 神林は眉をしかめた。
「まさか苦心して組み上げたレーザー冷却用プログラムをアンインストールしようっていうんじゃあるまい? スサノヲが舞い上げた粉塵を凝集降着させるのはいまや一刻を争う作業だぞ」
「そうですよね。でもそれだけじゃありません。ここんとこ見てください――三分前、衛星制御モジュールにコマンドコードが送られてるんですが、単なる姿勢制御じゃない。軌道修正指令です」
「いったいぜんたいどういうことだ?」
「ざっと数値を見た感じですが――」
 早瀬は端末ですばやく計算してから小声で言った。
「たぶんミラー衛星のひとつをシベリア上空から北大西洋にもっていくつもりだと思います」
「なんだって?」
 神林が唖然としてつぶやいた直後、またごとりという鈍い衝撃が機体をゆらした。スサノヲが黄道面に大量にばらまいた氷塊は極軌道上にもすくなからず存在した。
「迎撃用プログラムを再インストールするってことは最大出力でレーザー照射するってことですよね? もう撃つべき彗星はないはずなのに――なんかキナ臭くないすか?」

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