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東海岸沖 01/01/2006

高本淳

 その眩い閃光の柱が突き立ったとき、『カリーニン』の受けた被害は運悪くそちらを見ていた若いイリノシェンコ一人だった。なにかの理由で照準がずれレーザービームは左舷半海里の海面を直撃したのだ。それでも水蒸気爆発にともなう衝撃波は巨大なハンマーのように船殻を打ち鳴らし、視力を失って泣き叫ぶ水兵を抱きかかえたクルーたちはハッチから滝のようになだれ込む海水に半ば押し流されるようにして艦内に待避した。
 急速潜行のきちがいじみた騒ぎが一段落した後、セルゲイはそれらの報告を聞きながらひとり奥歯を噛みしめていた。艦長として米国がレーザー衛星を使用する可能性を当然計算にいれておくべきだったのだ。自責の念はやがて激しい怒りに転じ彼は微かに震える手を握りしめた。奴らは――この艦と乗組員たちに卑劣な不意打ちを仕掛けてきたのだ!
「艦長!」
 彼は副長の紅潮した顔を黙ったまま見つめ返した。
「――この期に及んでまだミサイル発射を躊躇っているのですか?」
 彼は息を深く吸い込むとかろうじて身内の荒々しい激情を押し鎮めた。
「落ち着け、イワン。……なぜかはわからないが、ともかくやつらは致命的なミスを犯した。われわれを一撃で撃沈することに失敗したんだ。あの兵器は――」セルゲイは指を上げいまだに耐圧船殻を通して聞こえる鈍いとどろきに相手の注意をむけた。「音波探知を不能にする点では爆雷の比じゃない。いまごろ青くなって敵は本艦の所在を探し回っているはずだ」
「だからこそ――いま反撃すべきなんです!」
「ちがうな。だからこそいまは音をひそめ相手に本艦の位置を知らせないようにするんだ。なぜなら、イワン――」セルゲイは反論しようとする相手を制してつづけた。「われわれの任務の最終目的はあくまで抑止力を通じての祖国の防衛だからだ。けっして怒りにまかせて核の応酬をスタートさせることじゃない!」
 そのとき傍らのスピーカーからソナー担当士官の緊迫した声が聞こえた。
「艦長! 後方間近にスクリュー音。まっすぐこちらにむかってきます!」

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