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K 12/25/2005

高本淳

 闇のなかで目覚めた。ほんのわずかの間をおいて意識を失う直前の出来事が思い出され、あわてて身を起こそうとして全身を襲う激痛にKはうめいた。
「あ、気がついた」
 傍らで声が聞こえた。少年か、あるいは少女――身辺にこんな声の持ち主は心当たりがない。その事実が彼を不安にさせた。おそらくかなり長い間人事不省におちいっていたにちがいない。
「ここはどこだ?」かすれた声をしぼりだすようにしてKはたずねた。
「どこって……とても文化的なとこですよー」皮肉っぽい含み笑いとともにべつの声がわってはいった。「BUNKAMURA、オーチャードホールの入り口んとこ。ねえ、ねえ、おじさん、動いちゃダメ。ちょっとお、まだ無理だって!」
 それでも歯をくいしばって半身を起こしたKに相手は半ばあきれたように言った。「ガレキんなかに埋もれていたんだよ! しかしタフだねー。K1ファイターかなんか?」
「そうかもしんねえな。いい身体している。担いでくるのが大変だったなあ」
 とつぜんおだやかな笑いのまじった初老の男の声が聞こえた。
「友彦のおっちゃん。ホームレスやっている。偶然通りかかってあんたを運ぶのに手貸してくれたんだ――せいぜい恩に感じておいたほうがいいよ!」
「なぜ助けた?」Kのつぶやきに周囲はいっしゅん黙り込んでしまった。
「なんかキャラ怖いなあ――腕にヘンな傷あったし。ねえ、おじさん、そのすじの人ですか?」「よしなよ……ナオコ。質問が素直すぎ」
 やりとりからかなり若い少女たちらしいとKが見当をつけはじめたとき、いちばん最初に聞こえた声が自己紹介した。
「なぜかほうっておけなかったんだ。あたしはナオコ、こっちがミホ。むこうでぐったりしているのがアヤ――えっと、おじさん、名前あるんでしょ?」
「明かりはないのか? なんでこんなに暗いんだ?」
「暗いって――」しばらく続く無言のとまどいのあとで声は言った。「明るいじゃない。エントランスからあんなに光がさしこんできてるよ。おじさん……見えないの?」

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