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巡礼者たち6

高本淳

 アッサン・モンジールの石段にうずくまり目覚めた半脳でキーフを待ちながらブリムの別の半脳はうとうとと夢を見ていた。
「……そうしていったんは失われた科学技術を取り戻した後、人類は二度とそれを手放すまいと誓った。彗星の落下は明日にもまた起こり得る。人間たちが学んだのは文明を支える諸設備を広範囲に分散していてはいけないという教訓だった。それらは可能なかぎり身近にコンパクトなものとしてまとめられなければならない。そこで彼らはまったく新しい方法を試みることにしたのだ。ウエアラブルな科学文明――それが『サポーター』だった」
『ジョー』と呼ばれるデスマスクの声が記憶のなかから蘇っていた。「……衝撃の冬に続く海侵の時代、人間は三つのグループに分かれた。ここエデンに代表される地上のシェルター群。アダック、アトランティスの深海におけるそれら。そしてシェルター外の見捨てられた多数――彼らの間の軋轢と闘争についていま語るつもりはない。わたしはそれらを散々この目で見てきたのだからね。ポイントはその過程をへるうちに人類がノマドとシチズンという二つのライフスタイルを持つグループに不可避的に分かれていったことだ。
 ノマドは水棲人の系譜につらなる。水没した大陸の平野部に進出した彼らは海が退いたのち地上に適応するためにサポーターの原型を開発する必要にせまられた。後に原形質内核変換器官を持つ人造幹細胞によってサポーターは自己増殖可能な亜有機体にまで進化した。この時点でウエアラブル文明はノマドという完成形を見たのだ。もともと彼らはその居住環境から社会集団ではなく家族や個人単位で行動する傾向があった。無尽蔵の海洋プランクトンを利用できるなら狩猟や農耕といった集団作業は不要になるからだ。ノマドたちはワールドワイドソニックウエーブで結ばれつつも孤立した両棲ほ乳類となったが、同時にそれは環境と調和する生き方でもあった。ちょうどきみたちが今現在そうであるように」
 ――しかしそれならなぜノマドたちはシチズンたちと争い、彼らを地上から抹殺し、最終的にこの星を後にしなければならなかったのか? 自らの眠りを見つめながら目覚めたもう一方の意識でブリムは考えた。――人間の歴史という劇の終幕にいったいどんな事件がおこったのだろう? ……たぶんそれを知ることが、ぼくたちの巡礼の目的なのだ。

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