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巡礼者たち10

高本淳

 突然樹上から落ちてきた網に身体の自由が奪われたとき、海棲哺乳類であるブリムの心の一部は本能的なパニックに陥りかけた。しかし彼という存在を形づくっているもう一方の領域、バイオメカニズムが素早く働いて体内に大量のベータエンドルフィンを注ぎ込み、自分自身を傷つけてしまうような愚かな行動をとる寸前に思いとどまらせた。すでに彼の身体は地上十数メートルの高さにつり下げられていて、枝々を素早く飛び渡る小さな影たちの手でめざましいスピードで空中を運ばれていたのだ。いま暴れ万一網が切れたらなすすべなく大地に叩きつけられるに違いなかった。
 宿主が落ち着きを取り戻したのを確かめて『サポーター』はおもむろに変態を開始した。甲殻類に似た脚が縮退し引き込まれブリムの身体はのっぺりした紡錘形に変化した。放熱用のヒレも消え細胞内元素転成で生まれる余剰熱は特別な蓄熱器官にいよいよのときに用いる武器のための動力として蓄えられはじめた。
「聞こえるか? キーフ、どこかそのへんにいるのか?」高鳴る胸を落ち着けようと努めながらブリムは緊急用の暗号コードで呼びかけた。
「聞こえるよ。じっさいのところきみのすぐ後ろを運ばれているんだ」
「……ご同様か」わずかな希望が失われたものの、むしろこののんびりした連れ合いの存在は不思議に彼を安堵させた。「ふう……あざやかな手口だったことは認めなきゃならないな。洗練されて組織だっている――不幸中の幸いは『さすらえるサポーター』の手に堕ちたわけではないらしいってことだ。そもそも生命が目当てならそもそもこうして手間暇かけて生け捕りにはしないだろうからね」
 身動きかなわないなかで視界に入る範囲の情報をせいいっぱい集めてブリムは判断した。襲撃者たちは小柄の人型サポーターをまとっている。異様に長い手足を使って枝から枝へと巧みに移動していた。一見きゃしゃな生物だが総重量半トンの彼を軽々と運ぶ膂力とその数を考えれば到底あなどることのできない相手だ。
「あんまり喜ぶ気にはなれないよ。もっと悪い運命かもしれないじゃないか」あいかわらずキーフは悲観的だ。「……部族の儀式で生け贄にされちゃったりして」

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