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タンザニア 12/24/2005

高本淳

 南中まぢかの太陽はじりじりと大地を焼く。風も止まってしまい広大なンゴロンゴロの草原を取り巻くクレーターの影は陽炎のなかにゆらめいている。木陰からわずかにつきだされた銃の先端は火傷するほど熱くなっているはずだ。……まもなく世界の終わりを迎えるっていうのに、なんだって俺はこんな場所でこんなことをしている? むっとする熱気と草いきれのなかに腹ばいながらデビッドは何度めとも知れぬ自問をくり返した。
 突然、銃声が聞こえて彼は現実に引き戻された。左手――彼らの車の方向だ。しまった!……どうやら予想とは違う方向に密猟者たちは移動していたらしい。飛び起きると銃を構え身を低くして走った。
「……大丈夫か? ジョモ?」
 相棒は脚を血に染め座り込んでいた。「すまんドジをふんだ。逃がしてしまったな」
「気にするな」彼は手早く手当てをすませ救護センターのヘリを無線で要請した。
「内股の筋肉を貫通している。しばらく休業だな。だが運がよかった。あとわずか弾がそれて動脈を傷つけていたら危なかったぜ――お前としたことがな」
「ちくしょう……目が合ったら撃てなかった。俺の弟ぐらいの歳だったんだ」
「子供か……この辺りの村のやつらだな。はぐれ象に畑を荒らされたかで頭にきたんだろう。他所者ならこちらも遠慮なくやれるんだが――事情がわかるだけに辛いところだ」
「しかしあいつらもバカだよ。せっかく苦労して象をしとめたところでこの彗星騒ぎで象牙の買い手なんて見つかりっこないのに……」
 デビッドはうなずき、それからくすくす笑いだした。
「なにが可笑しいんだ?」
「考えてみろよ。バカと言うならおれたちだってそうさ。こうして生命がけで動物たちを守っているけれど、もし今日あの星が落ちてきたら? ……たぶん『衝突の冬』でまっさきに餓死するのはここの象たちだよ」彼はそうして彼自身の野生の王国を見渡した。
「たぶんおれたちも密猟者たちも――誰もみなここにいる動物たちと何も変わらないのかも知れないな。最後の日が来るまでありふれた日常の暮らしをつづけるだけなんだ……」

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