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ままとはぐれた女の子の話

doru

 アパートに母親と小さな女の子が住んでいました。母親はたいそう娘をかわいがっておりました。
 ある日、彗星が地球に近づいてきて水びたしになると聞き、母親はできるだけたくさんの食物を手にいれようと外出しているところに、自暴自棄になった男たちに襲われてさんざんえっちされたあげく首をしめられて死んでしまいました。
 娘は家にあった食物を食べながら母親を待ちましたが、何日たっても母親が帰ってこないので寂しいのとお腹がすいたのが一緒になって泣きながらままぁままぁと呼んでいます。でも母親は死んでいますからいくら呼んでも帰ってきません。
 娘は勇気を出して安全な家から暴徒が荒れ狂う外の世界へ出ていきました。そして人のいない場所に落ちていた行き先不明の小包を一つ持って家に帰りました。その中には人形とお菓子がたくさん入っていました。娘は人形をそばに置き話しかけたり抱いてあやすふりをしたりしながら、お菓子を食べて飢えをしのぎ数日過ごしました。
 数日後、もう食べるお菓子もなくなったので、娘はまた何かないかと外に出ましたが、彗星が落ちてきてあたりは水びたしになってしまいました。
 子供は浮いたり沈んだりしています。まわりの大人たちも助かろうといろいろやっていますが、だんだん力つきてその数は少なくなっていきます。このときになってはじめて、娘は人形を家に置いてきたこと悔やみました。自分がいなくなったらもう世話をしてくれる者がだれもいないからです。母親がいない寂しさを娘は人形の世話をすることで紛らわしていたのです。
 ぷかぷかしているうちやがて服に水がしみこんで娘はとうとう沈んでしまいました。するときゅうに目の前が明るくなって、いつのまにかお花畑のなかに立っていました。服もすっかり乾いているしお腹もすいていません。見ると川むこうに母親が立っていて笑いながら手をふっています。娘が駈け寄ろうとするとスカートをひっぱるものがいます。見るとあの人形がたくさんの仲間をつれて足にとりついています。えーん、歩けないよ。ままぁ、ままぁ、と泣いているうちに女の子は息をふきかえしました。
 起き上がってみると水はひき見渡すかぎりどろにうずもれた世界がつづいていました。

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