インタビュアー:[雀部]
- 渋皮ヨロイ著、綾森けむり装画
- ヨロイのストア
- 1200円(税込)
- 2026.3.25発行
【収録作】
「およそ三匹」(蟹) ,「ゆ」(猿),「届いたらびっくり、ゴリラでした」(ゴリラ) ,「ホットサマー」(宇宙人) ,「あるもの全部」(パンダ) ,「安寧」(白鷺),「ほめてのばす」(キリン) ,「国宝ちゃん」(天狗),「墓標」(首相) ,「ここにはすべてがある」(金メダリスト) ,「ぺーす」(神様) ,「水曜の誤配」(蟹)
【おまけ】
「訪問するマイクロノベル(おまけ)」
雀部
今月のブックレビューは、渋皮ヨロイ先生の『異類訪問譚~みんな、うちにやってくる~』(2026/3月刊)です。
「X(Twitter)」でフォローさせて貰ったら、この本が面白いというツイートが流れてきていて購入のきっかけになりました。
渋皮先生、初めまして。よろしくお願いします。
渋皮
はじめまして。先生だなんて恐縮ですが、どうぞよろしくお願いします。
雀部
先日本屋でブラブラしていたら、『多類婚姻譚』(凪良ゆう著)という本が平積みになっていたので「おっ?これは……」と思いパラパラとめくってみたら、人間同士の話でした(汗;)
この『異類訪問譚』という題名にされたのは何故でしょうか。まあ、題名通りの話なのではありますが(笑)
渋皮
これまで書いてきた自作を一冊にまとめようとしたときに、受け身の話を書くことが多いというか、そればかり書いているんですけど、日常に何か変なことが(作品の冒頭で)起こって、少しずつずれていく、みたいな型がもう手癖になってて、その中でも「なんか変なやつが家に来る」パターンだらけじゃないか、と気づいたんです。
なので、タイトルはこれでいこう、と悩むことなく決めました。でも字面からして固そうなイメージなので、ちょっとやわらかいテイストが出せるように、サブタイトルはちゃんとつけておこう、と思いました。
雀部
それで、『異類訪問譚~みんな、うちにやってくる~』という題名になったのですね。まあ芥川賞の『異類婚姻譚』が有名ですので、個人的には固いイメージはなかったです。
渋皮
本谷有希子さんの『異類婚姻譚』は大変衝撃を受けた大好きな作品です。
雀部
『異類婚姻譚』やはりお好きでしたか!
『異類訪問譚』の冒頭に載っている「およそ三匹」(蟹)では、日本語を話す蟹がでてきますが、一方的に話すだけで、まったく会話にはなってませんね(笑)
これは狙って書かれているのだと思いますが、人間同士なら理解を求められてしまう場面でも、相手が異類(異種族)ならなんとなく許される感があって面白いです。
渋皮
「およそ三匹」についてですが、そもそも私の作品ではディスコミュニケーションっぽい様子を描くことが多いと思います。人しか出てこない話でもそうなので、異類となったら、基本的に会話成り立たないですよね……不全が前提となっている、という有難い(?)設定になるからこそ、異類を出しがちかもしれないです。
雀部
異類だけでなく、人間が出てくる「墓標」(首相)と「ここにはすべてがある」(金メダリスト)もありますが、何か変です(笑)
渋皮
「墓標」も金メダリストが出てくる話も、相手が人間とは言え、物語設定がやっぱりどこかずれてますね。
雀部
人間とはいえ、やはり「異類」なのでズレてないとおかしいですから(笑)
最初と最後の短編に(蟹)が出てきますね。どこかで「蟹」がお好きだと書かれてましたが、どこがお好きなのでしょうか。やはり味?(笑)
渋皮
子供のころから蟹は好きでした。御馳走、って感じがしますね。焼いても茹でても生でも何でも好きです。大人になってからは蟹味噌も好きになりました。
可能ならば(懐事情が許すのであれば)延々食べていたいです。そもそも、あのビジュアルは「異星」の生き物っぽさもあって、異物として出しやすい気がします、絶対会話通じないよな、っていう安心感がありますよね。
雀部
会話が通じないように思えるのが安心感に繋がるとは、確カニ変です(笑)
「note」の「自選の10」からたどって色々と読ませてもらっています。
「僕はたけのこを傷つけない」は、何か二人が言いそうで笑いました。稲葉さんが岡山県出身なので、元々よく聴いていたというのもありますけど。
渋皮
これは西崎憲さん主催のブンゲイファイトクラブの別形態というか、同時期に行われるこちらは有志の方が開いてくださるイグBFCという、くだらない小説を争う大会があって(イグの定義は人それぞれとは思いますが)、それ用に書いたものです。作品内では普段あまり固有名詞を出さないのですが、こういう形式のときは思い切り使わせてもらっています。大喜利小説みたいなものを極めたいと思っていた時期に書いたものなので、無理やりな設定で、とにかくフリップを出す、という形式でイグを表現してみました。
雀部
イグBFCで、渋皮先生がライバル視されている吉田棒一先生の「飯塚」、ムチャクチャ変で、ぶっ飛んでますね。へぇ~と感心してしまいましたよ(爆笑)
渋皮
「飯塚」は衝撃でした。脚が速すぎて笑えてくる、みたいな意味合いで、おもしろすぎて笑える、という異様な状況を、あの日、我々は目にしたのです。すべてをなぎ倒すような姿がめちゃくちゃかっこよかったです。
棒一さんとは同郷ということもあり、その後、仲良くさせてもらっているのですが、飯塚の衝撃のままに「大疾走」を続け、どんどん活躍されていて、友達としてもうれしく、大いなる刺激をもらっています。
棒一さんと正面でぶつかって勝てる自信はなかったですが、できればイグが盛り上がっているうちに優勝したかったですね。
雀部
なんと同郷だったとは。それは奇遇というか、頑張りがいがありますね。
「自選の10」の中では、「ゴリラを焼く」と「メロウイエロー」が特にすきです。
「ゴリラを焼く」は、妻が未来にタイムトラベルして、ゴリラになって帰ってくるという話なのですが、ラストの大量のバナナとともに焼き場で焼却された黄色い煙を見ているシーンが特に印象に残りました。
渋皮
「ゴリラを焼く」は、かぐやSFコンテストで「未来の色彩」というテーマで募集された際に書いたものです。SFをほとんど通ってこなくて書けるのか不安でしたが、これも大喜利のお題と捉えて、挑戦してみました。SF要素に関しては未熟でお恥ずかしいのですが、無知無学ゆえにインパクトは強いものが描けたと思っています。
そういう経緯もあって、さなコンなどのSF寄りの公募用にも楽しんで書かせてもらっています。九頭見さんのアンソロジーにも(こちらはSF以外も募集と明言されていますが)、遠慮せず、自分なりの作風をぶつけることができました。
「メロウイエロー」は「エッチな小説を読ませてもらいま賞」という企画があって、それで特別賞をいただいたものです。雀部さんにこちらの作品も気に入ってくださってうれしいです。
雀部
「メロウイエロー」に出てくるボーリングの黄色いボールは、かなりエロい!(笑)
「ゴリラを焼く」も黄色ですが、お好きな色ですか。
私、レモンイエロー好きなんです。人生初愛車に黄色のクルマを買おうとして猛反対されました。結局ホワイトに(汗;)
渋皮
「メロウイエロー」はいかに具体的な性描写をしないで書くか、いかにいやらしそうに書かないか、を意識した「えっちな」小説なので、そのうえでエロいというご感想は大変ありがたいです。
黄色は子供のころ、決して好きな色ではなかったですが、段々歳を取るにつれて、見ていて元気が出るというか、目を引くようになりました。メインでイエロー一色の服を着るような勇気はありませんが、差し色に黄色があるとうれしくなります
雀部
昔黄色いシャツを持ってましたが、今は赤とか黄は全く持ってないです。歳です(汗;)
「ポスタル・サーヴィス」も読みました!
あまり知られてないかもですが、切手さえ貼っていればそれがスルメでも落ち葉でも郵便物になるんですね。不条理感が良いですね、一部のフランス映画に通ずるものがあるかも。
渋皮
ありがとうございます!
不条理、という感想とか評は別名義で書いていたときから(というか、書き始めた当初から)結構言われます。そもそも異類の訪問自体が不条理の極みですし、カフカのような、ずるずる不条理の波に呑まれて前にも後ろにも進まない、進んでいるのかわからない、みたいな話を書けたらいいなあ、という気持ちは常にありますし、自分なりの「不条理」の書き方を見つけたいと思っています。
雀部
不条理というか不思議というか、さなコン応募作の
「セイレーン」は、“「ひも理論」に挑戦した”、と書かれていて、どう挑戦したのかなと読み進めていくと、紐のように細く長くなる男とその家族の物語だった(笑)。
うっすらと伝わっくる、普通とは違う親子の情愛が、不思議だけれど何か好ましくも痛ましくもあり、心ざわめく作品ですね。
渋皮
ありがとうございます。喪失感みたいな手触りの作品を書くのは好きなほうだと思うのですが、何を失ったのか、それをはっきりさせないような描き方は、いかにも自分らしいな、と思います。
雀部
こうして読んでいくと、不条理の中にもふと紛れ込んでしまったような感情移入できる部分が少しでもあると、わたしは凄く共感を覚えて面白く感じる気がします(汗;)
そういう作品も増やして頂きたいという願望を秘めつつ(笑)
渋皮
はい、近年、SF的なものへのアプローチも試みている中で、「少し不思議」というアプローチがいかに自分の書き方と親和性が高いかを意識するようになりました。「少し」の入口から、「かなり」とか「いよいよ」とか「あまりにも」不思議、という領域へ入っていくような、そんな作品もどんどん書いていきたいです。
雀部
あまりにも不思議に加えて、あまりにも理不尽にも挑戦して下さいませ(笑)
[渋皮ヨロイ]
新潟県の下の方(上越地方)出身。東京都在住。小学5年生のときに「ヨロイちゃんは3番目に好きだよ」とこちら的にも3番目に好きな子から告白されました。放課後の理科室でした。相思相愛の大切な思い出を胸に、みなさまの3番目くらいに好きな小説家になりたいです。
https://note.com/donerkebab
[雀部]
1951年、岡山県に生まれる。歯科医、SF者、ハードSF研所員、コマケン所員、元ソリトン同人