インタビュアー:[雀部]
- 嶌田あき著、あすぱら装画
- アルファポリス文庫
- 814円、Kindle版407円(税込)
- 2025.12.12発行
宇宙の渚――それは、高度30000mにある地球大気圏から宇宙への入り口。天文部に所属する女子高生、澪は、学校に届いたという怪しいメールの噂を耳にする。それは、謎の数字の羅列だったが、メールを解読していくなかで、今は亡き澪の姉が「宇宙の渚」の撮影に挑んだ際のある数値だった事を知る……
雀部
今回のブックレビューは、昨年(2025/12/12)アルファポリス文庫から『あの日、君が目指した空の果てへ』を出された嶌田あき先生です。
嶌田先生初めまして、よろしくお願いいたします。
嶌田
はじめまして、嶌田あきです。こちらこそよろしくお願いいたします。
インタビューを受けるのはまだ慣れていないので、うまくお答えできるか少し緊張していますが(笑)、楽しみにしています。
雀部
実は、昨年烏丸紫明先生の著者インタビューをさせてもらうまで、アルファポリスというレーベルを知りませんでした(汗;)インタビューは、嶌田先生が二人目なんです。
嶌田
アルファポリスは確かに、書店でもオンラインでも棚の場所がわかりづらかったりして、読者として出会うきっかけが少ないレーベルかもしれませんね。
ウェブ小説プラットフォームとしても「知る人ぞ知る」マニアックさがあって、それが割と居心地いいとも思ってますね。
雀部
確かにカクヨムとかに比べるとマニアックなのかなあ。←そもそもウェブ小説プラットフォーム自体をよく知らないですが(汗;)
本書は、敢えて分類すると「理系青春ラブコメもの」でしょうか。人気とか読みやすさからいうと不利な理系の青春物を書かれて、ライト文芸大賞の「青春賞」を受賞されたのは凄いですね。
嶌田
「理系青春ラブコメ」、言われてみると確かにそうですね(笑)。
書いているときは「理系」を前面に出そうというより、好きな科学の話題と青春の感情が自然に混ざり合う場所を探していた感じです。理系といっても私がテーマやモチーフに据えるのはそんなに小難しい話ではなくて、むしろ青春の切なさや高揚感をより鮮明に描くための小道具、くらいに考えています。
それに、テーマとしての科学以上に、研究や開発といった「科学の営み」そのものって、スポーツやゲームに負けないくらい人の心を打つ物語に満ちていると思っていて。主人公が気球を打ち上げて成層圏の撮影に挑む、という設定にはそういう気持ちも込めました。
「青春賞」をいただけたのは、そのあたりが伝わったのかなと嬉しく受け取っています。
雀部
ウェブ小説って、「転生・スローライフ・追放・VRMMO・成り上がり・悪役令嬢・ハーレムもの」あたりが有名どころと思ってました。特に「悪役令嬢もの」は孫娘が大好きであります(笑)
そんな中で嶌田先生の『あの日、君が目指した空の果てへ』が評価されて出版の運びになったことは、なんか嬉しいです。
ご自身の学生時代の体験が、ストーリーに活かされているとかはあるのでしょうか
嶌田
実は学生時代に理科部だったとか天文部だったとか、そういうのは特になくて、直接モデルになった出来事もないんです。
雀部
嶌田
ただ「あの瞬間にしか持てなかった熱量」みたいなものは、過去の体験から引っぱってきているのかもしれません。
何かに没頭しているときの時間感覚の歪みとか、思ったとおりにいかないことへの歯がゆさとか。青春ってひとりひとり全然違う形をしていて、どれも同じじゃないですよね。
だから私は、自分が体験していないことを「もしこんな出来事が起きたら」と妄想して、物語として実現させている感じです。私にとっては、青春そのものがSFなんですよね(笑)
雀部
SFファンのためにあるような言葉です(笑)→「青春そのものが SF」
アルファポリスの小説部門には、嶌田先生名義で 「うちの魔法使いは方程式が解けない」「もっと早く、伝えていれば」 「網野さんの星屑生命研究室」「#星色卒業式 ~きみは明日、あの星に行く~」「月夜の理科部」等の作品が置いてあるのですが、一番好きなのは「網野さんの星屑生命研究室」なんです。
「青春という名のSF」を一番体現していると思うし、お好きなテーマが全部詰まってるしで。あ、ヘリコプターによるカプセル争奪戦もスリリングでした。
嶌田
ありがとうございます、「網野さんの星屑生命研究室」を挙げていただけるのはすごく嬉しいです。あの作品は自分の好きなものを気兼ねなく詰め込んだ感覚が強くて、書いていて一番楽しかった作品のひとつです。
実は少し前に書いた作品を視点人物も主人公も設定もプロットも大幅に改稿したものなんですが、普通は改稿で削ぎ落として物語のメッセージ性を高めるものだと思うんです。でもこの作品はむしろ好きなものの密度が上がってしまって、おもちゃ箱みたいになりました(笑)。
ヘリコプターのカプセル争奪戦も、書きたいシーンのイメージが先にあって、物語の方をそこに合わせて曲げていった感じです。「青春という名のSF」は自分が一番大事にしたい軸なので、そう読んでいただけたのは励みになります。
雀部
少し前に書かれた作品って、カクヨムにある「君のなくした火星」のことですよね。最初、「網野さんの星屑生命研究室」の前日譚かと思って読み始めたらだいぶ異なってました(汗;)
嶌田
そうです、「君のなくした火星」です。よくぞ見つけてくださいました(笑)。
あちらの網野は研究者ではあるものの隕石ハンターではなく、主人公側から見た外面しか持たないサブキャラクターでした。メインには隕石ハンターのヒナというキャラクターがいて、改稿ではその二人を悪魔合成してメインキャラクターにした感じです。キャラクター名は引き継がない方がよかったかもしれませんね。
ただ同名のキャラクターを別作品に出すパラレルワールド感が好きで、自己満足なのはわかりつつ、ついやってしまうんです。「プラネタリウムみたい」にも、実は別作品と同じ名前の登場人物が出てたりします。
雀部
嶌田
よくぞ気づいてくださいました(笑)。あの短編はさなコン(日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト)に向けて書いたもので、冒頭の文章が固定されていて、それをどう料理するかを競う形式なんです。
謎かけとして使ってみたところ、いろいろな方に斬新だと言っていただけて嬉しかったです。
雀部
おっと、さなコン応募作だったとは。
カクヨムのほうで一番面白かったのは、最新作の「確率78%の奇跡」(1026/3/18)。これはなんと株式会社QunaSys主催「量子×SFプロトタイピングNEXT~万博編~」優勝作品なんですね。SFプロトタイピングは、最近よく話題に上ります。
嶌田
ありがとうございます。SFプロトタイピングは科学技術を起点に「ありうる未来」を物語として描く手法なので、私にとっては理想的なセットアップです。純粋にSFやファンタジーで構想すると、物理的にありえなかったり実現が30世紀くらいになってしまったりしがちなんですが、「ありうる」という制約がいいガードレールになってくれます。それに、科学技術そのものより、それが実現したときの暮らしや社会の変化に焦点を当てられるので、読者の共感を得やすい。青春を描くにはまさにそこが肝なので、相性がとてもいいんです。
雀部
SFプロトタイピングと青春SFは、相性が良かったとは。考えてみると確かにです。
これは、年代物の量子コンピュータを駆使して、虹予報に挑む高校生の話なんですが、ライバル校の最新量子コンピュータに対抗して、色々な工夫で挑むところが特に面白いです。MS-DOS時代のPCを使っていた作家の先生方にインタビューをする際に、コンベンショナルメモリの話とか、「autoexec.batとconfig.sysで色々工夫してたよね」とかいう話で盛り上がるのと同じですね(笑)
嶌田
制約の中でどう知恵を絞るか、というのは時代を超えて胸が熱くなるテーマですよね。実はこの作品、「人生は量子コンピュータみたいだ」というちょっと突拍子もない思いつきから書き始めました。エラーがあるから新しい発見がある、100%完璧じゃないからこそ美しい。そんな量子コンピュータの不確実性と高校生の可能性を重ね合わせた感じです。スペックで劣る主人公が仲間の協力や工夫で格上のライバルに勝つというのは「柔よく剛を制す」の王道構図で、古今東西たくさんの作品に出てきますよね。それだけ人の心を打つ普遍的な何かがある、ということだと思っていて、量子コンピュータという道具立てでそれをやってみたかったんです。
雀部
嶌田先生の面目躍如といったところですね!
あと、「ブラックホールをよろしく」はよくわからないけど、最新の知見が満載で凄いです。
一読者としては、完全に置いていかれてますが(大汗;)
嶌田
「なんか見た」という読後感は、ある意味狙い通りかもしれません(笑)。
ブラックホールはSFではよく登場するガジェットですが、どうしても壮大なスペースオペラになりがちで、それ自体がメインテーマになりがちですよね。
もちろんそれだけ魅力的な存在なのですが、私が書きたいのはブラックホールをとりまく人々のドラマのほうです。そこで、できる限り身近なところに引き寄せようと、「ホログラフィー原理」という最新の仮説や、量子コンピュータ上でのブラックホール再現実験などを足がかりにしました。これまで理論の産物でしかなかった量子重力理論が実験で確かめられる物理学になりそうで、個人的にも期待している分野なんです。SFプロトタイピング的なガードレールがあったからこそ生まれた作品だと思います。
雀部
へぇ~、そういうところまでAIの利用で知見が広がっているんですね。
今回はお忙しい中、インタビューに応じて頂きありがとうございました。
次回は、バリバリのハード青春SFも読みたいです。あ、なるたけお手柔らかにお願いします(汗;)
嶌田
こちらこそ、隅々まで掘り起こしていただいてありがとうございました。
少し恥ずかしいような、でも嬉しいような気持ちです(笑)。ハード青春SFのご期待に添えるかどうかわかりませんが、ただいまポストアポカリプスものに挑戦中なので、お楽しみに。
雀部
ポストアポカリプスものも大好物なので、首を長くしてお待ち申し上げます(笑)
[嶌田あき]
[雀部]
1951年生、歯科医、SF者、ハードSF研所員、コマケン所員、元ソリトン同人