柏沢蒼海先生ブックレビュー
インタビュアー:[雀部]
おっさんエージェント
『未経験なのにスカウトで、謎の組織のエージェントになっちゃいました!』
  • 柏沢蒼海著/九頭見灯火装画
  • ミケーネ文庫
  • pdf版1500円
  • 2025.11月発行

謎と危険ばかりの仕事に、銃と怪異と女の子。
 主人公は無事に『退職』できるのか!? 黒服エージェントのモブが大活躍? 世界と生活と……女の子の命を守るために戦う、アクション始動!!

『Last Valkyrie(上・下)』
  • 柏沢蒼海著/九頭見灯火装画
  • ミケーネ文庫
  • pdf版、上下各巻1500円
  • 2026.6月発行

料理人のパイロット訓練生と人工的に産み出された少女兵が――今、邂逅する!!
 戦争は、コロニーは、そして……レストラン〈フェー・ルトリカ〉の命運はいかに!?!?

Last Valkyrie
雀部 >

柏沢蒼海さま、お久しぶりです。
 前回、「Journey Home」(『東京銀経社アンソロジー いつかあの空を越えて』収録作)インタビューの時には大変お世話になりました。今回もよろしくお願いします。 

柏沢 >

どうもお久しぶりです。前回は人生初のインタビューだったので、ご迷惑をお掛けしたかと思います。
 また機会を頂けて、とてもうれしいです! 今回も頑張ってお答えしていく所存です。
 よろしくお願いします!

雀部 >

今回、『未経験なのにスカウトで、謎の組織のエージェントになっちゃいました!』と 『Last Valkyrie(上・下)』を読ませて頂きました。この二作は分類するなら、近未来のSFと遠未来のSFですよね。それより前の三作(ファンタジーと現代物?)とは毛色が違うように感じたのですが?

柏沢 >
今回取り上げていただいた2作に関しては、普段の創作ルーティンである「企画書から作る』流れで書いた作品です。
 元々はWEB(カクヨム)で連載していた作品なのですが、完結後にある程度の期間が経ったため、製本+電子販売に移行しています。
雀部 >
わかりました。カクヨム掲載からの電子版販売のながれなのですね。
柏沢 >
「ミケーネ文庫」で販売している作品の中で、この2つ以前の物は基本的にWEB連載を想定して組んだ作品ではないため、根本から違います。
 『サバイバー・テスタメント』はWEB用ではなく、自分の活動である「ミケーネ文庫」用に書き上げた作品であるため、「面白さ」に関して何のギミックも入れていません。
 こちらの作品は活動に関連している「ミケーネ書店」があり、僕の地元である秋田県羽後町をイメージした舞台となっています。色々取材し、それとなく盛り込みました! 
雀部 >

なるほど、それで現代物なのですね。
 私の住んでるところも田舎なので、何か親近感が(笑)

柏沢 >

「未経験なのにスカウト(以下、おっさんエージェント)」は企画としては、「MIB(もしくはSCP)のパロディ」と「社会人と学生ヒロインの恋愛」を掛け合わせたものでした。
 超能力バトル物の作品とかにしれーっと出てくるモブエージェント、もしくは組織の戦闘員、その視点で描いた作品になります。

雀部 >
怪獣も相手にするから、『怪獣八号』みたいな話かと思えば、もっと地味な「正義の味方側のショッカー戦闘員」なので、おっとっとと思いましたよ(笑)
柏沢 >
この辺りは『SCP』のコンテンツや『クトゥルフ神話』の影響だと思います。
 通常火器で倒せない相手との戦いの方が実は主軸なんですが、エピソードとして書き出してみると対人戦が想定しているより多くなっているような気がしますw
 個人的には錯乱した主人公がせっせと武器を集めて廃工場に逃げ込む話が好きです。絵面的には映画『コマンドー』のそれなんですけどね……  
雀部 >
『コマンドー』は、娘をさらわれたシュワちゃんが無双する話ですよね。
 カミさんの大好物であります。『ランボー』系も好きですが(笑)
 おっさんエージェントの日常を細かく描写することによって、リアリティが増し感情移入もしやすくなるという、柏沢作品の面白さの原点ですね。 
柏沢 >
一方、『 Last Valkyrie 』はWEBのメカ物・戦記物の課題を克服する企画として考えました。
 戦争物の旨味といえば、戦闘シーン。それ以外は言わば繋ぎでしかありません。
 その『繋ぎ』の部分で読者が離れてしまうという話をよく耳にします。
 そこで、日常シーンが多く展開できる「潜入工作」というシチュエーションに、あえてグルメを副題に盛り合わせることで面白さという旨味成分を添加できるのではないかと考えました。
雀部 >
「敵側の潜入工作員」にスポットライトを当てたところがミソですね。
 こちらは、「グルメ探求記、SF風味」もしくは「グルメを追求する操縦士は、ガンダムの夢を見るか」の趣で面白かったです(笑)
柏沢 >
潜入物と言えば、「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」は鉄板です!
 個人的にはもはやメジャータイトルになってしまったゲーム『アーマードコア』のノベライズである「ARMORED CORE FORT TOWER SONG」も外せません。
 実は『Last Valkyrie』は上記の2作の展開を切り貼りして織り込んでいます。
 敵側の最新鋭機を使ったり、大量破壊兵器の使用が示唆されたりとかですね。
 コロニーはガンダムというより、マクロス(描写的には7やフロンティア)の造形感を意識していました。コロニー天蓋がガラスではなく、水になっていたり、民間向けの宇宙港が人工海になっているとか……
 生産している食料、どの食材をどれくらい加工しているか、と色々考えました。
 僕の頭の中にいる宇宙移民は魚をそのまま食べたりしないっぽいんです。
 どうでしょうか、「スペースはんぺん」とか「スペースちくわ」みたいな加工食品。魚肉ソーセージって、意外とSFしてると思うんです。
雀部 >
魚肉でソーセージというところが(笑)
 一周回って「刺身としか思えない練り製品」も未来にはできそうですね。
柏沢 >
ゲーム・アニメで展開しているバンダイナムコのコンテンツ『 SYNDUALITY Noir 』の世界観では、3Dプリンターで寿司を作ってたりしますからね。
 SFお馴染みの人工タンパクをどこから作り出すか、考えてみると面白いと思います。
 そういう意味では、プロテインバーの「SOYJOY」も形を変えればSF飯ですよ!!
雀部 >
たしかに、大豆蛋白の使い道は無限ですね(笑)
 SFの世界では、生命体も3Dプリンターで作っちゃってますし。
 『Last Valkyrie 後編』で、突如クルマのレースが始まったのであれれと思いましたが、これは、単に『イニD』をやりたかったのでしょうか?(笑)
柏沢 >
はい、『頭文字D』です。大豆=豆腐ですからね。こちらでは醤油作ってますけど。
雀部 >
あ、大豆=豆腐か、そこまでは気がついてなかった(汗;)
柏沢 >
この章に関しては、やりたいことを全部やろうという気持ちで書いてました。
幻の料理となった『ラーメン』を作ろうと奔走する主人公たちに引っ張られた感じですかね。
カーレーシングを描写する小説があまりにも見つからないので、必死に書きました。あんまり上手く書けた気がしません……
雀部 >
レースというと、いまやってるアニメだと『MFゴースト』くらいかな。これも、しげの先生だな。
 私たちの世代だと、高齋正先生の一連のレースSFを思い出しますが、世代が違うか(大汗;)
(『ホンダがレースに復帰する時』で始まったマツダ・ニッサン・トヨタ・三菱がレースに挑む物語。)
 大学を卒業した頃が『サーキットの狼』(とスーパーカー・ブーム)が全盛で、さらに昔の話です(汗;)
柏沢 >
作中序盤から電気自動車を出したりしていたので、その延長線上で世界観から逸脱することはないとわかっていましたし、『ヌードル・ウォー』という章そのものが漫画『美味しんぼ』のラーメン戦争というエピソードをオマージュしたものでもあるんです。
 実際、『美味しんぼ』の方でも車の話がしれっと出てきますし。
雀部 >
『美味しんぼ』は、ずっと連載を読んでいたのですがそのクルマの話はころっと忘れてます(恥;)
 ラーメンに関しては、『ラーメン再遊記』で上書きされちゃったからなあ(汗;)
 食全般に関する蘊蓄も大変面白かったのですが、ひょっとして調理師の免許を持たれたりしてるとか?
柏沢 >
対決する相手のラーメン屋がキッチンカーみたいに車両を使った屋台を出したり、それに対抗するために主人公サイドも同じことをしたり……他にも有名な「ラーメン三銃士」が車から出てきたりと、このエピソードを通して車が結構使われてるんですよ。
 ちなみに、自分は食材で遊ぶくらいで料理が得意なわけではありません。
 得意料理はビーフステーキとチリコンカンです。最近は無水カレー作りまくってます。
雀部 >
さすがに「ラーメン三銃士」は覚えてます(笑)
 チリコンカンは、ちょうど昨日の朝に食べました。私にとっては、西部劇飯ですね。
 カレーは、お好きだと思いましたよ。書き方に情熱がこもってましたから(笑)
柏沢 >
米が無いのでカレーライスにはしませんでした。
 コロニーでは水は重要な資源なので……とは言ったものの、人工海もあるし、農業プラントもあるコロニー群という設定ですから、やろうとしたら米も作れたかもしれません。
雀部 >
無水カレー、濃厚でおいしいです!最近は、ナンと一緒に食べることが多いなあ。
 レティシアの好きなハンバーガーにも、こだわりがあるように感じられましたが……
柏沢 >
初めておいしいと感じた料理は特別なものになると思います。
 彼女にとって、ハンバーガーとダイナーレストランとの出会いが世界が色付く瞬間だったのは間違いありませんからね。
雀部 >
それはクロエと通ずるところがありますね。二人ともクローンだし。
 クロエ(ジュリエット・ナンバー)が、いわゆる人間らしくなっていくの と、カールが人間兵器に近づいていくのが対比されていて読み応えがありました。
柏沢 >
優しさを持つ人間こそ、自分を追い込めるのだと思っています。
 ストイックさとか根性とか、そういうのも重要なのでしょうが、僕が思うに誰かのために戦う人間が最も怖い存在のように思えます。
 カールは最初から誰かのために、仕事やパイロットをしていました。
 その結果、何もかも失って、それでも誰かのために戦う。何も捨てるものが無くなった時、人間はようやく自分を削っていくのだと思います……というのが自分なりの英雄論ですね。
雀部 >
最近、「無敵の人」が時々話題になっていますが、「愛」とか「友情」にすべてを賭けることが出来る人は強いですね。
 今回もインタビューに応じて頂きありがとうございました。 
 また、柏沢さまの更なる「英雄譚」を読ませて下さいませ。
柏沢 >
あんまりヒーローっぽいキャラクターを好んで書いたりはしませんが、いつかは英雄譚……書きたいですね!
[柏沢蒼海]
秋田県にしがみつくように創作を営んでいる物書き。
「ミケーネ文庫」を立ち上げ、地元の書店に作品を置かせてもらっている。
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ミケーネ文庫:ミケーネ文庫公式ショップ
[雀部]
1951年生、歯科医、SF者、ハードSF研所員、コマケン所員、元ソリトン同人
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