第五章 超銀河団を超えるトラブルバスター

第六十四話 銀河最終戦争後……

 稲葉小僧

その銀河には主要な種族が2つ。

それぞれの主星は遠く離れていたため、最初はお互いを知ることもなく2つの種族は探索し、時には別の種族と友好を結び、はたまた敵対的・好戦的な種族であれば征伐し、それぞれの領土や領域は発展・拡大していった。

とある偶然により、それぞれの領土の最先端となる星系で強大な2種族は出会うこととなる。

それぞれ主義も主張も信念も違う2つの種族が最初に行うのは、穏やかな接触。

最初は、それぞれの言語を習得するため互いの国語辞書ファイルの交換から始まる。

数ヶ月後、互いの言語を習得したら次の段階が始まる。


「ようこそ、**銀河連邦の最先端領土へ。新しい同胞の連邦加入、歓迎したいと思います」


それに対する相手種族の返答は、こうだった。


「こちらこそ、ようこそ**銀河帝国の新規領土へ。我が帝国への編入要請、ここでは簡単に返答できませんが前向きに検討いたします」


ん? 

連邦国家体制と帝国体制。

誰が見ても考えても、どうしたって双方、相容れる存在ではない。

しかし、どちらも銀河を半分近く支配・領有する巨大な星間文明だ。

もしも戦いとなれば双方がダメージを負うのは避けられない状況となる。

まかり間違えば、最悪、共倒れとなりかねない。

連邦、帝国、どちらも頭を抱えこむ。


「大統制官! 帝国のことはどうするつもりですか?! 政治的に相容れない強大な種族と貿易だけやってても埒が明きませんよ! 我が方の植民都市で彼らの貿易船が何をやっているのかご存じないとは言わせませんよ!」


議会で真っ先に野党から主席統制官へ質問が出る。

名指しされた主席統制官、困った顔を隠そうともせずに返答する。


「議員のご指摘どおり、帝国の貿易船の乗組員たちが、あちこちで引き起こすトラブルや面倒は、こちらの耳にも入っています。ですが……外交官特権というやつで彼らに対して最大の罰は連邦領土から追い払うことだけなんですよ。今は戦争状態ではないので外交官権限を持つものに対し拘束や裁判の権限は、こちらにはありません。同じことが相手方にも言えるのです……」


同じ頃、こちらは帝国議会。


「皇帝陛下! 連邦からの要求を携えた連絡船が到着したとのことですが、こちらの方針を聞かせていただきたい! いったい、いつまで、あんな無礼な平民商人たちにやりたい放題させておくのですか?!」


皇帝は自分から証言したり返答することは避け、側近を呼んで伝える。

側近が証言・返答台へ向かい、言葉を発する。


「陛下のお言葉である。余は帝国の威厳を連邦にも受け入れてもらいたいと思っている。しかし、早急に力づくで要求を通してしまえば、それは相手の面子を潰し、引いては帝国と連邦の大戦争にも繋がりかねない。余は民が戦に巻き込まれることを望まぬ」


最初は、これでも良かった。

しかし、連邦と帝国の貿易が増えていくにつれ、互いの貿易用宇宙船だけでは足りなくなってくる。

とは言うものの、そうは問屋が降ろさぬ、政治体制の全く違う種族同士の貿易。

そう簡単に倍倍などと増やせるものではない。

必然的に発生し、爆発的に増える密貿易船。

利益だけを追求する密貿易船が扱うのは違法薬物や違法な移民たち。

連邦で食い詰めて帝国でリカバーしようと目論むもの、その逆に帝国で失敗、平民に落とされた者達が連邦で名誉回復しようと願う。

もちろん帝国も連邦も、お互いの人員交換数は制限しているが密出国・密入国者は、その桁が違ってくる。

そのうち違法密貿易船に対し強力な取締まりをしろと、ついに強硬策を取る帝国。

その初めての取締まりで捕まったのが非常に拙い立場の人間。


「官姓名を言ってください」


との呼びかけに応えて、


「元宇宙軍少将、ワイゼンシュタインである。私は連邦の主義と主張に同調するものだ。黙って行かせて欲しい」


この件は帝国議会に知られ、大騒ぎとなる。

元少将の違法出国と移民の件は闇に葬られ、元少将は幽閉される。

同じようなことが連邦側でも発生し、お互いに疑心暗鬼(スパイや軍事機密漏洩)に陥る。

まだまだ戦争とまではいかないが、その火種はだんだん大きくなっていく。


帝国も、そして連邦も双方ともに小規模な戦いだけで終結させ、後は有利な交渉で済ませる予定だった。

帝国も連邦も、そのつもりで交渉団の準備と人選、交渉内容の詰めすら行っていたらしいことは後の資料発掘で分かっている。

双方が勘違いしていたことは唯一つ。

わが方の戦力のほうが優れているだろうから、圧倒的とは言えないまでも小規模戦争で勝てると思っていた……

この点に尽きるだろう。

実際には小規模(惑星一つか、拡大しても星系の一つか二つ)戦闘だけでは収まることなく戦線は拡大していく。

気がつけば双方ともに引くに引けない百近いほどの星系が戦争に巻き込まれていた。

あっちで有利に戦っている戦線があれば、こっちで押し込まれようとしている戦線がある。

隣同士の星系で、あっちは勝っているが、こっちでは負けている状況。


もはや帝国も連邦も軍を引いてしまった星系から戦線が崩れることが戦線地図からも理解できてしまうため双方ともに人員、兵器、弾薬、エネルギーを伸び切っていると分かっている戦線に底なしで注ぎ込むしかない状況となった。

これがイデオロギーや主張という観念的なものでも一致できているなら、まだ双方で一時でも矛を収め、話し合いに持ち込むことはできただろう……

しかし帝国と連邦の主張とイデオロギーは全く相容れることがなかった。

同じ銀河の生命体とはいえ、これほどに社会基盤やイデオロギーが違うと、お互いがエイリアンのように思えてきて、もう解決方法は相手を叩き潰すしか無いと双方の民までもが思うようになってくる。


百年続く大戦争は終わりを見せることすら無いように見えて、双方の政府や大統領・皇帝も、この決着は相手の文明を絶滅させること、それだけだと方針を変える。

恐ろしい計画が、それぞれの軍内部で立てられていく。

帝国ではスーパーノヴァ並みのガンマ線量を爆発的に発する超ガンマ線ミサイルが開発開始となり、連邦では星系の太陽エネルギーを集約して一つの星に照射するという太陽エネルギー砲の開発計画がスタートする。


お互いの計画は超のつく技術領域のため、なかなか進まない。

そんな互いの計画が遅れる中、あっちでは帝国側の戦線が崩れ、こっちでは連邦側の星系が白旗を上げたりすることとなる。


「余の帝国が負けることは許さぬ! 開発途中でも良い、例のミサイルを戦線投入できないのか?」


半ば自暴自棄になった皇帝が発した言葉は取り消されることなく開発チームへ届く。


「目標値の一割ほどのガンマ線発生量ではあるが、それなら十発も発射すればよいではないか!」


恐ろしい目算で開発途中のミサイルは量産される。

片や連邦も恐ろしさでは負けていなかった。


「太陽エネルギー砲、計画の15%ほどの集約程度にはなるか。では、それで帝国の重要星域を焼き払えば良い」


こちらも恐ろしいテクノロジーを積んだ専用宇宙艦が開発・量産されることとなる。

開発と量産体制が整うのに、それから五年の歳月が流れ、とうとう、その時が来る。


「さあ! 皇帝陛下の命令である。目標は我が軍を悩ませ続けている**星系の首都星! 超ガンマ線ミサイルを雨あられのように降らせてやるが良い!」


あまりにといえばあまりに酷い作戦が艦隊司令官の命令ではじまる。

一方、別の方面では、


「太陽エネルギー砲搭載艦、揃いました! 大統領命令により、これより//星系に向かい、これを自分の太陽エネルギーで焼き尽くしてやります!」


こちらも酷さにおいては負けてない。


数日後、双方の目標星系に生きている生命体の姿は見られなくなった。

片や多量のガンマ線にて体細胞を破壊され、眠るように死んでいる生命体の山。

こっちでは地表のみならず地下1kmにまで届くような熱エネルギーが星を襲ったため建物も生命体の痕跡も、植物すら生きていた痕跡ごと焼き尽くされてしまい緑の星が焼け焦げあとしか無い星となる。

被害報告が遅れたこと(どちらも生命体は全滅状態のため、被害報告はひどく遅れてしまう)と自軍兵器のあまりの成果に酔った双方に、悪魔の囁きが……


「これを使って相手の首都星系を急襲してやれば……それとも、一気に敵軍を全滅させてやろうか?」


一気に敵を全滅という妄想に酔う双方の政府は必殺武器の量産にかかる。

それには双方ともに十年という年月が必要だった。


途中、自軍の星域が全滅したという報告も届くのだが、もう妄想の世界に突入した双方の政府や皇帝・大統領の目に入ることはない。

責任者の目に入る前に握りつぶされたレポートは、闇から闇へと葬り去られることとなる。

ちょっとした休戦期間の間も、敵に対する憎しみばかり増大させるキャンペーンを行う双方の政府。

そして、来るべきものが、とうとうやってくる。



最悪の未来が見えた時、双方の政府と民衆に、それは甘美な未来と見えた。


「とうとう殲滅兵器の量産化に成功しました! 我らの勝利と敵の殲滅が確約された今、局地戦での勝利や敗北に意味はありません。今から一年後、殲滅兵器を積んだ大ロボット艦隊をもってして、広大である敵勢力の全てを焼き尽くし、生命の影すら見えぬ過去の文明と化すように、カーペットをめくりながら害虫の巣を退治していくように敵勢力を根絶、殲滅していくこととなるでしょう!」


ほぼ同じ文言を帝国皇帝と連邦大統領が、ほぼ同時期に発した。

あまりに広い文明圏であり、それぞれの民も多いため、敵の主張と味方の主張を同時に聞くなどということもできず(敵の電波や通信は双方とも翼賛メディアばかりのため、ブロックしていた……)互いが互いの質の悪いパロディのようなものであることも分からずに互いの敵の殲滅へと、まっしぐらに突き進んでいく。


一年後、壮大なる壮行会(ロボット艦ばかりだが最終指令つまり「敵を殲滅せよ!」という命令はロボット司令官には下せないので、双方の最高司令官、皇帝と大統領が下す)が催され、これで安心して帝国も連邦も、お互いの敵がいなくなると一安心。


しかし、壮行会から数ヶ月後。

ここは連邦と帝国が数日前まで最前線として戦っていた星系のいくつか。

不思議なことに、ほぼ同時に帝国軍も連邦軍も兵や艦隊を当該星系より引き上げる。


「和平条約が結ばれたか、それとも休戦して交渉が始まるのか……」


一安心して、これで元の生活に戻れるかと期待していた矢先。


「司令! 見たこともない大艦隊が我が星系に侵入して来ます!」


それは生命体の乗艦していないロボット艦隊。

ロボット頭脳には感情も知性もなく、ただただ命令を実行する半知性のようなものがあるだけ。


「敵勢力があれば、それを殲滅せよ。敵が抵抗するなら、それも殲滅。敵に味方するものあれば、それも殲滅対象だ」


つまりはロボット艦隊に敵と認識されれば容赦のない殲滅攻撃の対象となるだけ。

絨毯爆撃のように、片や超ガンマ線ミサイルの雨を星系内へ際限なしに打ち込み、片や自星系の太陽エネルギーを数百万倍に収束した熱線として星系内のありとあらゆる星へ浴びせかける。


当然、星系軍にも宇宙船はあり、抵抗勢力は存在した。

だが、そんなものは超ガンマ線ミサイルや太陽ビーム収束砲の敵ではない。

瞬時にして民間宇宙船団も宇宙軍も殲滅され、跳躍航法を起動できたのは1%にも満たない。

その、かろうじて逃げ出せたごく少数の軍艦や民間宇宙船も、自軍勢力の別星系に立ち寄ると……


そこに見る別の地獄絵図。

故郷は、こうして無人となったのかと思えるようにミサイルは死人の山を作り、ビーム砲は焼け焦げ跡のみを残し、双方の攻撃後に生命体など無く、動くものは風くらい(ビーム砲では全てを焼き尽くしているため、風で動くような紙切れ一つ無い)

広大なる勢力を持つ2つの文明圏、帝国と連邦は、それでも数百年は殲滅されない。

殲滅艦隊を造り出し、それを敵に向かって放ってしまった愚かさを実は帝国も連邦も数十年後には知っていた。

知ってはいたが、もはや、その殲滅命令の取り消しを行うのは現実的に無理。


その理由。

お互いの首都星が互いの殲滅艦隊により最優先の攻撃目標としてセットされ、初撃の次に攻撃されて殲滅。

命令を下した皇帝も大統領も殲滅された中に入っていたため、もう命令の取り消しができる生命体はいなくなったためだ。


百年後、連邦も帝国も互いに手を取り合っていた。

もう両勢力の生き残り全てを合わせても1億人もいない。

主義主張が違えども手を取り合わなければ生きのびることさえ難しくなっている現在、昔は敵でも今は同志。


銀河の片隅で細々と小さな星系数個で小さな星間文明を営んでいたが、そこへ久々に獲物を見つけたロボット艦隊が! 

あっちでは超ガンマ線ミサイルが成層圏の更に上から雨のように降ってくる。

こっちでは容赦のない超高熱ビームが、瞬時にビルも地下の退避壕すらも焼き尽くして無人の星と化す。

逃げるしか無い人々は、たとえ逃げ道がなくとも、なんとかして眼の前の死から逃げようと足掻く。

宇宙軍の兵士たちは民間宇宙船を一隻でも逃がす余裕を作るため、必死になって戦う。


最後の戦いとなった、最終的に数万人しかいなくなった、たった一つの星には、もう戦うための宇宙軍も兵器も無かった。

人々は祈るように死んでいくか、焼かれていく。

生命体の全滅を確認した双方の殲滅艦隊は、今度は敵の認識を変える。

超ガンマ線ミサイル艦隊は太陽ビーム収束艦隊を、逆も同様だが、それぞれのロボット艦隊が敵だと認識。


互いの必殺武器を放つ! 

超ガンマ線がロボットに効くかどうかは知らないが、その爆発力は艦を貫くに充分な威力。

かたや太陽ビーム収束砲は宇宙艦など問題なく融解させる。

その双方が相打ちとなるのに一時間もかからなかった……

ここに、銀河を二分して栄華を誇った二大文明は、何も残さず終焉を迎えた。

その文明が未来へ繋ぐべき何物も残さず、互いが互いを食い合って消滅するかのように、その銀河は死の銀河となる……



お互いがお互いを殲滅し尽くした死の銀河。

最終戦争の成れの果ては、こういうもの……

という最悪の状況の化石のような銀河へ、その巨大な宇宙船は近づいていた。


「しかし、我が主。選りにも選ってですね、近隣銀河の生命体全てから、死神が支配している銀河だから行かないほうが良いと忠告された銀河ですよ。まあ1万年を越す過去の話ですから信憑性は薄くなっているのでしょうが、あえて火中の栗を拾うような行動に出なくとも、トラブルを抱えながら必死に頑張ってる生命体の棲む銀河は、まだまだあるんですよ。無人となって長い歴史を過ごす銀河に何の用があるんですか?」


「まあ、そうは言うがな、プロフェッサー。無人になって長いとはいうものの、それまでは活発な生命体や文明があったんだ。生き残りが少しでもいるなら助けてやりたいし遺伝子バンクが残されていれば活用して生命体を復活させることもできる。ともかく俺達が出来ることは何かあるはずなんだ。そこに救える命があるのなら広い銀河にただ一つだったとしても救ってやりたいんだよ」


「救う、助けるで数万年ですか……我が主は、とことんお人好しと言うか何と言うか……考え方が、もう管理者とか神のレベルになってませんか?」


「別に俺自身、何も変わってないと思うけどなぁ……自分にできる範囲の命しか救えないし、目前の銀河だって一万年ちょっと早く来たら救えた命も多かったとは思うけどな……でも管理者や神になりたいとは思わないぞ。彼らは彼らの次元で様々な仕事をし、救える文明や世界、宇宙の可能性なんかを修正してるんだろうが俺は目の前の救える命を救いたいだけなんだ。自分を管理者の次元にまで高めたいとは思わんよ」


「面白いですよね、マスターは。ここまで宇宙の管理者に近いようなことを成し遂げてきて、それでも管理者にはなりたくないと言う。ちなみに、いくら不老になってても、その肉体は、いつか滅びますよ。相対的に不死に近いはずですが完全な不死じゃありませんから、この宇宙船のクルーはアンドロイドやロボットクルーを除けば最長でも100万年の寿命はありません。マスターが望むなら私の予備ボディに意識構造を移し替えるのは可能ですが、それで出来上がった存在がマスターそのものだと言う結果にはならないと思われます」


「ほぅ……面白い意見だな、フロンティア。俺が意識を完全コピーしたロボットボディを造った場合、それは俺だと認識しないと?」


「はい、肯定します、マスター。その理由ですがコピーしたものがチューリングテストでマスターと寸分に狂いがないと判断されても、そのボディにはテレパシーやサイコキネシスの能力がないと推察されます。加えて、恐らくですがマスター特有の第六感や閃きのような直感力も持たないだろうと。私、ガレリアも含めガルガンチュアを構成する全てが、そのコピーボディを拒否するでしょうね」


「フロンティア、お前、えらく人間的になってきたな。そんなアナログ思考を許容できたっけ?」


「いえ、マスター。アナログ思考ではありません。あなたという存在と数万年に渡って付き合い続けてきた結果です。マスターという存在は何にも代えがたい。これは私だけでなくガルガンチュア構成の4隻全てが認めるでしょう。恐らくですがシリコン生命体すら、マスターに代わってガルガンチュアを運用できうるとは思えません。あなたという存在は真の意味でガルガンチュアに欠かせないものとなっています」


「そんなものかねぇ……俺がトラブル解決に失敗して不幸にも亡くなった場合、例えば郷が次のマスターになると思ったんだがな」


「いや、郷では主の代わりにはなり得ないと私も思うぞ」


え? 

今のはガレリアか。


「例えば主砲の使用禁止命令にしてもだ。主の思う主砲の禁止と郷の思う主砲の禁止では恐らくだが深いところで違いがあるだろう。私は長いガルガンチュアの運用には、その奥深い違いが先々に明確な命令の違いとなるように思われる」


「ガレリアとの付き合いも長いからな。銀河団を渡る直前か、ガルガンチュアになったのは。まあ郷と俺の思考が根深いところで違うってのは理解できるな。俺は本当に怒りが突き上げてこない限り、力づくで物事を解決しようとは思わないが郷は少し違う」


「えー? 師匠が力づくの解決に消極的? そう言われれば、そんな気もするけれど……でも結構な回数、力づくで解決してますよね」


「いや、郷よ。このガルガンチュアの実力を真に理解すれば全てのトラブルを力づくで解決するなど朝飯前のことだと分かるだろう。主は本当の意味でガルガンチュアを構成する全ての宇宙船を理解している。通常はマスター権限を持つものだけが許される情報開示を主だけが許されている。郷も様々な情報を持っているのだろうが、その情報は、まだまだ主と比べると浅いものだ。銀河団探査船を四隻合体させて、さらに超銀河団すら渡航する力を持つ宇宙船などというものが、どう考えても一つの星の神とやらより大きな力を持つと思わないか?」


郷は、その意味を少しだけ理解し、冷や汗を流す。


「ガレリア、それは下手をすると、この宇宙船ガルガンチュアが神にも悪魔にもなり得るという……」


「最悪の結果で言うと、そうだ。主はガルガンチュアとなった現在も、この極秘情報だけは誰にも明かしていない。これを明かすということは、この宇宙を破壊するかも知れない可能性に希求するからな」


「ガレリア、そこまで。それ以上は言うな。マスター権限として情報開示のリミットまでは良いが、それ以上の極秘事項の存在は話すことも禁ずる。これはだな、マスター権限を持つものだけが見ることも所持することも、そして、その恐ろしさを克服することも自分だけでやらなければいけない。郷、マスター権限というものは、それほど重いんだよ。郷が持つマスター権限は郷専用の搭載艇母艦のみ。これも重いぞ、実はな。興味があれば搭載艇母艦のマスターコンピュータに聞けば良い。その情報の重さに耐えられるのなら、いつかガルガンチュアのマスター権限を譲る可能性もあるかも知れん」


「分かりました、師匠。一度、搭載艇母艦のマスターコンピュータに聞いてみます……俺に、その資格があるかどうか、か……」


段々と近づく無人の銀河。

郷には、それにも増して、慣れているはずのガルガンチュアに絶対の秘密情報が隠されているという事実があるのに気づいた自分が気づかぬうちに冷や汗を流していることに今さら気づく。


「ガルガンチュアは惑星と一緒か。どこまで探っても届かぬ秘密が隠されているというのは、ロマンでもあるが……恐ろしくもあるな」


最終戦争で対立してる種族、その補助種族や友好種族が全滅したって銀河へ到着。

例によって超小型と小型搭載艇を今回はガルガンチュアの可動可能全数の半分、情報収集へと回す。

これは、もしかしたら生き残りの種族もあるかも? 

という可能性があるため。


それから半年ばかし後。

帰還した搭載艇たちには、この銀河で生き残っている種族は無いと断定できるだけの情報をもたらしてくれた(非常に残念なことだ)。

ガレリアの搭載艇で地中捜索が可能なものもけっこうな数があったので可能な限りで地底都市への避難をした種族で生き残りがないかと思っていたが……見つからなかった。

徹底的に殺し合ったようだな、これは。


ガレリアからの報告では星系の一割ほどで地底都市や海底都市に避難した痕跡が見つかったらしいが、そこに見られたのは化石化した骨や焦土化した都市の跡。

どういうレベルの憎しみと怒りが高まれば、ここまで徹底的に相手を殲滅しようと思うかね? 

とてもじゃないが俺や他のガルガンチュアクルーにも理解不能だ。

あ、生命体が何も無いということじゃないのは確認済みだ(お察しの通り、プラズマ生命体は生存していた。彼らに対してはガンマ線も影響は与えられなかったようで)


「意見を良いでしょうか? マスター」


「あ、ああ、聞かせてくれ。ガルガンチュアとして4体の人工頭脳の検討会が終了して推論という形での結論が出たんだろ? 代表してフロンティアが語ってくれれば良いよ」


その推論、というか結論に近いもの、そいつを聞いて、遥かな昔に起きた事件と哀しい戦争に、俺達はやるせない思いを抱く。


「少しづつですが遥か昔に起きた絶滅戦争と、その理由を書き残した石碑があっちこっちの星系に残っていたため、それらを統合して造った話となります……まずは、この銀河には、はるか昔に強大で、ほぼ同じくらいの領土をもつ、相反する2つの政治形態をもつ銀河帝国と銀河連邦がありました……」


2つの政治形態が相容れないものだったため、お互いの領土問題もはらんだ帝国と連邦の戦いが次第に大戦争となり、周囲の補助種族や友好種族まで巻き込んだ銀河を2つに割っての最終戦争にまで発展してしまったこと。

そして相手への憎しみが高まりすぎて、ついに互いの最終兵器を量産してロボット艦隊に積んだ絶滅艦隊を作り上げてしまい、そこからは止めようが無くなり、ついには銀河全体に生きているものがいなくなったという……


「はぁ……戦争がバカと阿呆の論理だというのは理解していたが、それ以上だな、この銀河にいた生命体たちの馬鹿さ加減は。自分が死んだ後にも相手の種族の絶滅を行うというロボット艦隊を作り上げるというのは何と言うか……俺達の存在とは究極の反対方向にある生命体だね。しかし、そうだとするならば。今度こそ互いに信頼し、友好的に付き合うって生命体を、この銀河に生みだす手伝いをしたいと思うんだが」


「あのー、師匠? 言いたいことは理解できるんですが……いくらなんでも、ここには過去にいた不定形生命体の「彼」ことジェシーもいませんが。同じ不定形生命体でライムさんが代わりに?」


「何を言い出すのかな? 郷くん。まあ、あの銀河で使った方法も使えないこともないが……安心しろ、ライム。お前に分裂増殖やれとは言わないから。今回は、ちょっと試してみたい方法があるんだ……」


「私を見て何を考えているんですか? マスター。いくら私のもつテクノロジーが超の付くほどのレベルにあるとしても、その技術でタイムトラベルなど不可能ですよ。時間軸を遡ったり、数秒すら過去に戻ったりも無理ですよ。この宇宙に時間定数がある以上、超銀河団を越えようが時間に縛られる存在であることに間違いありませんから」


まあ、フロンティアの言うことは正しい。

俺の経験上、宇宙の管理者達の如き超越者のレベルならタイムトラベルも可能じゃないかとは思うが今の時点で管理者が何も介入してないということは、彼らにとり時間を調節してまで救う生命体ではなかったと思われる。

しかし、俺の考えている方法は過去に遡るような真似をすることじゃない。


「フロンティア、時間旅行みたいなことは無理でも、お前の主砲なら時間を相対的に停止させることまでは可能だろ? 以前にやった、銀河まるごと時空間凍結砲で包んで銀河の中の相対時間を進めるわけだ……そうすると……自然発生的に各惑星で生命体の発生と進化が観測できるわけ。あまりガルガンチュアの手を入れるよりも、この方が良いと思わないか?」


「マスター……物凄い発想だとは思いますが、それでは生命発生と進化が逐次観測できませんよ。その点は、どうするんですか?」


「今までは双方ともに互いに観測も干渉も不可能なのが欠点だったんだがなぁ……そこで考えたのがフィーアの主砲、グラビトン砲の活用だ。重力レンズの応用でフロンティアの時空間凍結砲で作られた、銀河を包む泡に小さな穴を空けられないか? ということ。フィーア、これって可能か?」


「チーフ自らの久々の依頼ですから、うーん……主砲全力発射でマイクロブラックホール作るよりも難しそうだけど、ちょっと計算してみるね。でも、少し主砲の発射方法を工夫するだけでいけると思うよ」


「そこまで急がなくても良いから、着実に、確実にやってくれ。ガルガンチュア構成の4隻共に主砲がとてつもない威力なんで武器以外の副次効果を期待するには時間がかかるのは覚悟してるよ」


今回はフロンティアとフィーアのコンビでトラブル解決を目指すこととなりそうだ。



それから数週間後……

フィーアの主砲性能調整とフロンティアとの協調作業は準備完了となった。


今回、ガレリアとトリスタンは実作業には加わらず、エネルギー補給と作業全体の監督に回る。

ガルガンチュアがやる作業の中で、あまりに大規模な作業の場合は、こんな風に作業分担する。

これができるのは銀河団宇宙船シリーズの中でもガルガンチュアだけだろう(後の6隻が合体してなければの話だが)


それにしても報告として集まってくる搭載艇からのデータを見る限り、この銀河は死滅している。

容赦のない多量のガンマ線を発生させるミサイルと、こちらも容赦なしの超高熱を浴びせかける太陽エネルギー収束砲。

こんなものを知性体として自立されてもいないロボット艦に積めば、そりゃ、この結果となるのは当然だろう。


「フロンティア、もう搭載艇からのデータは充分に集まった。放った搭載艇をすべて回収し、その後、銀河再生プランを実行する」


「はい、マスター。では、ガルガンチュア搭載艇、回収! 帰還命令を発信しましたので最大1週間後には全機が帰還すると推察します」


「あ、師匠。アイデアがあるのですが、どうでしょう? 搭載艇を少し銀河内部に残しておいて重力レンズで観察対象にならない星区や惑星の情報、その他様々なトラブル報告に備えるというのは?」


郷が意見してくる。

楠見だけでは見落としがあるというのは、こういうことだ。


「いい意見だな、郷。数百機ばかし小型と超小型搭載艇を残して細かな観察対象星区に派遣しようか。じゃあ、フロンティアだけじゃなくガルガンチュア構成の4隻それぞれで100機づつ出して観察部隊を構成するほうが良いな。ガレリア、トリスタンも協力してくれ」


ガレリア、トリスタンも快諾してくれたので数週間後には銀河内に残す観察部隊の編成も完了する。

では……

準備は完了、実行だ。


「ガルガンチュア、予定位置へ移動。その後、フロンティアとフィーアの連携により、この銀河をフロンティアの時空凍結砲で包み、フィーアの重力砲で開けた極小穴より重力レンズの応用で観察窓を作る。銀河内に残る搭載艇群の観察部隊の定期報告も抜かり無く。生命体の再生が自然に行われるのを、こちらは加速された地点から見るようなもの。見落としが無いとは言えないが、まあ、予想では銀河内部時間で数億年も経てば脊椎動物の発生までは行くと思う。そこから知性体が生まれ、星の世界へ行けるかどうかは運次第だが……では銀河再生計画、スタートだ!」


ガルガンチュアは銀河近傍空間を離れ、隣の銀河近傍空間へと跳ぶ。

目的ポイントへ到着すると重力アンカーを使い、しっかりとガルガンチュア本体を固定する。

ここで手を抜くと目標がバカでかいとは言うものの射線のズレが大きくなりすぎてしまい、最悪の場合、目標銀河の半分ほどが射線から外れて時空間凍結砲の射程範囲外になってしまう可能性がある。

宇宙船が主砲の発射台そのものなので射軸がズレるのが最大の誤射となるから、それを回避するには確実に船体を宇宙空間そのものへ固定するしか無い……

まあ、そんなことは物理的に不可能なんだが(今現在でも拡大しつつある三次元宇宙は基本的に不安定な足場しか構築できない。それは宇宙の基本的な構造とも言える)

重力アンカーは目標に対して常に一定の角度と射程を維持することを目標とするため、擬似的には目標銀河とガルガンチュアは常に同じ角度と同じ距離を保っている。


「マスター、フロンティア主砲、時空凍結砲のエネルギーは最大となりました」


「チーフ、フィーア主砲、重力子砲のエネルギーも最大です。重力レンズ効果の最大地点も計算済みです」


「我が主、プラン実行の準備完了です。フロンティアとフィーアの主砲発射トリガーは我が主の手に移りました……」


「ありがとう、プロフェッサー。では……銀河再生計画、発動だ! 時空間凍結砲、及び、重力子砲、最大エネルギーにて発射!」


暗黒エネルギーの塊と、目には見えないが最大一万Gという重力子の塊は、それぞれの目標へ向かってひた走る……

数日後、目標銀河は俺達の時空間から切り離され数百万倍のスピードで流れることとなる。

それを観測できるのは、時空間凍結の泡に開いた極小の穴から漏れる情報を重力レンズにて拡大した映像と、定期的に穴の向こうからもたらされるガルガンチュア搭載艇部隊の報告通信のみ。

巨大なガルガンチュアとはいえ、何も関与できるわけではない。

まあ、生命発生進化を眺めるんだ。

気長にやろう。


1日目。

そこには闇があった。

2日目。

まだまだ亡くなった全生命体に代わる生命など生まれるものじゃない。


1年が経った。

こちらの1年は向こうの数百万年に相当するようで、さすがに変化が見られる。

原始的なバクテリアに相当する生命体が生まれたと搭載艇群からの定期報告が入る。

喜ばしいことだが、まだまだ先は長い。


あ、当該銀河へ近寄る宇宙船がいるといけないので(一応、ブラックホールのような扱いになるので跳躍航法管理コンピュータが危険宙域と判断するとはフロンティアの話だが、危険物に近寄らないよう近隣銀河へ搭載艇を跳ばして注意喚起しておく)当分の間は危険だから当該銀河に近寄ることも禁じますとアピールしておくのは事前に済ませてある。


10年(向こうの銀河じゃ数千万年)も経てば、海を持つ惑星には様々な生命体が誕生していると報告が。

まあ、何の条件が違うのか、こっちじゃ魚類の大躍進しているかと思えば、あっちの星ではカンブリアの生命爆発の前段階、エディアカラ生物群のような奇妙な生命体ばかり……

かと思えば、ある星では正にカンブリア生命体爆発が起きている最中、またある星では生命体らしい生命体ではないが海藻のような生命体が海の中に茂っている。


「ようやく、か。時間加速状態ではあるものの面白い生命進化が見られる状況になってきたわけだ」


楠見は、そう呟く。

神ではない楠見は、ただ銀河の生命発生と進化を見守るのみ。

ただし、この時期に生まれた生命たちは華奢な身体のものが多いので、あまり極端な太陽変動や惑星衝突などが起きないように、できるだけ守ってやってくれとの指示は銀河内に残っている搭載艇群に伝えてある。

ガルガンチュアの搭載艇だけあって、かなり優秀な人工頭脳を搭載している搭載艇たちは、その楠見の指示を守り、数は少ないながらも(総数400隻ほど)あっちこっちへと渡り歩いて小惑星衝突や太陽の不安定化を抑える機器などを打ち込んだりしていた。


100年後。

海から上がった生命体もあり、陸上進化と海中進化に分かれることとなる。

爬虫類にまで進化した星では、酸素濃度の高さと重力の低さから、巨大生物の闊歩する怪獣世界になる。

陸上がパッとしない星では海中が巨大生物の温床となり、あっちでもこっちでも弱肉強食の世界のリアル版が見られる。

おかしな進化をしたなと思うのは海藻ばかりの星。

そこでは食い食われとは無縁の生存競争が見られた……

全てが同種の生命体で出来上がった海と海藻の世界。

その海藻は星の海という海を覆い尽くさんばかりの繁茂を見せている(遠からず、この星の海は海藻に覆われるだろう……動物のいない海藻の星)


「知性をスキルとして持つ生命体は、まだまだ出てこないようだな。もう少しなんだろうが……」


楠見の独り言は遠からず実現することとなる。

まあ、それから宇宙を目指すかどうかというのは別だったりするが。


200年後。


「おお、ようやく知性で現状を変える生命体が出現したか。さて、この生命体が宇宙へ出られるようになるのは、いつなんだろうね?」


見ているだけというのは、さすがに歯がゆいらしい楠見。

しかし今回ばかりは見ていることしかできない。


ここからは重力レンズで細かいところまで観察(とは言うものの、詳細報告は搭載艇群の定期報告頼み)だ。

さすがに知性を持った生命体が誕生すると、そこから文明と技術が加速される。

あれよあれよという間に小さな村、街、都市が出来上がり、それが戦いにより崩壊し、廃墟となる。

時間単位が違いすぎるんで何とも言えない気分になるが、宇宙文明になるまでは滅びも生命体の運命みたいなもの、見ているしか無い。

そのうち巨大な都市が誕生して帝国体制になったのか、周辺を平定し、大きな地域国家が誕生する。

じわじわと勢力を伸ばしていくが致命的な失政をやらかしたらしく、その大都市も廃墟となる。


こりゃ、まだまだ時間がかかるかな? 

と思っていたら……

どうも天才が生まれたらしく一気に都市が出来上がり更に航空機まで飛ぶ世の中に。

しばらくは、そこから技術的なものは進まず、航空機の進歩がプロペラからジェットに進化したらしく、一気に大陸を飛び越して遠くの国家と手を組んだようで。

まあ、そこから一気にロケット発明とまでは行かなかったようで、見ているこちらはイライラするが、手が出せない以上、どうしようもない。


「なあ、プロフェッサー。宇宙への一歩ってのは、そんなに大変なことかね?」


俺が聞くともなしに小声で言うと、プロフェッサーには聞こえたようで、


「我が主、何を今更。地球人だって大気圏脱出できるロケットを作って大気圏再突入できるものができたのは20世紀も後半になってからですよ。地球人類の歴史に残る偉業ですが、そこまでいくのに、どれだけ失敗したと思ってるんですか?」


まあ、そりゃそうなんだけど。

宇宙計画ってのが国家規模の大計画だったのは人類が宇宙に出るようになってからも長いこと変わらなかったと小学校の授業で聞いた。

民間で宇宙ロケットが安全に打ち上げられるようになったのは、ずいぶんと後のことだったらしいね(それでも初期の頃の犠牲者は多数いたんだと。宇宙へ安全に出入りできるようになったのは、実は軌道エレベータが出来てからなんだって)


俺達が注目してた文明は軌道エレベータを作らなかったようで、それでもロケットをバンバン打ち上げて衛星軌道に宇宙コロニーやら宇宙ステーションを作りまくり、そこからすぐそばの衛星へと開発の舞台を移す。

重力が小さかったのも味方して、衛星基地は次第に巨大化し宇宙船工厰ができあがる。


「お? ついに惑星間航行の宇宙船を飛ばすのか?」


どうやら、その計画だったようだが次々と失敗。

くじけるな! 

と思っていると数回目にして、ようやく隣惑星へ。

移民計画が? 

と見ていると、どうも大気が不都合だったようで宇宙船は隣惑星を引き払い、元の衛星へと。

それからは小さな無人探査宇宙船だけが無数に打ち上げられ、星系内の惑星や衛星を全て詳細に調べ上げることに尽力したようだ。

隣惑星への本格的な移住・移民は、その後に行われて、みる間に隣惑星が水を湛えた星になる(テラフォーミングなんだろうなぁ、これって)


と、俺達が見ているのとは別な星で、また宇宙文明に達したものができたと搭載艇群の定期報告が入る。

しかし、跳躍航法を考えだした文明は、どこにも見当たりません、とのこと。


もう少し長い目で見るか……

そう思っていたら、それから数ヶ月(こっちの時間。向こうじゃ数百万倍の速さで時間が流れてるんだった)

ついに跳躍理論を思いつき、そして、それに必要な莫大なエネルギーも制御できるという両方のテクノロジーを達成した星があると報告が! 


計算通りとは行かなかったが(もう少し時間が必要かと思っていたとはフロンティアの言葉。プロフェッサーは、まだまだだと計算していたらしい)まあ、跳躍航法も実現されたと言うことで、そろそろ銀河全体を覆う時空間凍結膜を解除する事にする。

フロンティア自身の兵器につき、凍結解除方法は熟知しているようで簡単に解除される(莫大なエネルギーの相殺になるんだろうが、これについてもフロンティア独自のエネルギー吸収方法で省エネに徹したとのこと。いやー、優秀な船を持って幸せなマスターですな、俺は)


「マスター、凍結解除、完了です。これからは外からの干渉や隣接銀河からの訪問も可能になるわけですが……どうします?」


どうします? 

という問いかけは、これから、この銀河の文明を見守るのか、それとも計画終了で、この銀河を去るのかという俺の意思を問うているのだろう。


「跳躍航法まで発見した文明が出てきたところで計画そのものは終了とする。フィーア、ご苦労さま。重力レンズも不要だから消してくれ。これが残っていると疑似ブラックホールと間違えられる恐れがある」


了解、チーフ! 

との返事を返すと重力レンズを構成していた高重力の塊を消滅させるフィーア。

これほどの手際の良さとは思っていなかったため(重力子砲など出番が少ないからね。どうしてもフィーアに頼む機会が少なくなる)驚きが。


「フフン、どう、チーフ? あたしもなかなか、やるでしょ?」


「そうだな、手際の良さには驚いた。もっと活躍させてやりたいが重力子砲という特殊すぎる主砲がなぁ……」


そう俺が言うと、すかさずガレリアが、


「それを言うなら私のプロミネンス砲は宇宙ではありふれた太陽熱に近いんだぞ。それなのに主はちっとも私の主砲を使ってくれない」


おいおい、太陽表面よりも高い温度の主砲なんて、どう使えば良いんだ? 

殲滅戦争ならまだしも小惑星の衝突阻止に必殺兵器として使えるくらいだろうが。

まあ、そのうちにガレリアの主砲もトリスタンの超大型電磁加速砲も使うことになりそうな予感はするんだがなぁ……


「ここからは搭載艇群の交代と、それに付随する宇宙文明守護の強化かな? 跳躍航法まで至った文明が凶悪なものになるとは思えないが、これから100年ばかし見守ることとしよう」


予想通り銀河の一割ほどを占めるようになった宇宙文明は緩やかな貿易中心のものだった。

それより厄介だったのは、光速を超えることは無いが自星系中心に固い種族優越意識で結ばれた星間文明のひよこ達。


近隣星系で生命体を見つけると即、戦争あるいは強制的な植民地化を執行。

しばらくは見守っていたが他種族の絶滅まで実行しだした為、強制介入することに。


「お前たちは、あまりに精神が未熟だ。成熟するまで自星系を出ること、まかりならん!」


光速すら超えることも出来ないような種族が平和に暮らす他種族を脅かすなど許さん、とキツーイお仕置きを食らわせて数十年で社会体制が替わって平和主義の社会に。

広大な領土を得た銀河文明をふと見ると、こちらは探査と探検に力を注いでいる。

よしよし、予定通り。

とりあえず一番大きな星間文明に連絡をとり、俺達が普及させている銀河規模の救助隊と装備、搭載艇を含めた装備データを渡す。

これが最終目的。


「長い間、夜になると、この銀河にある星の光だけが夜空に見えていました。それが、数百年前から遠くの銀河の光も見えるようになりまして。もしや、それを行った存在に心当たりはありませんか?」


と、政府関係者(天文系の部署らしい)から聞かれたがシラを切り通した。

あまりに超越的なテクノロジーが存在するという事実は、どっちかつーと知らないほうが良かったりする。


「さて、次行ってみよう! 今度も面白い銀河だと良いよな!」


「マスター……トラブルを面白がらないでくださいよ。毎度のこととは言うものの、付き合わされるこっちの身にもなってください」


「おや? 迷惑だと、フロンティア?」


「いいえ、面白いと、最近は思えるようになってきましたけどね。マスターに洗脳されてるって感じはしますが」


洗脳だと?! 

するわけないじゃないか、この俺が。

俺は自分の興味、宇宙の安全、生命体の幸福、この3つで生きてるんだから。


「我が主。自分の興味という点で、もう普通じゃありませんよ」


それはともかく今日もガルガンチュアは銀河を渡り、銀河団を渡り、時によっては超銀河団を渡る。

次の目的地の銀河には何が待つのか?