SF随想録パンセ - Les Pensées de la Science-Fiction -

- SF重力理論 - Gravity Theory

おおむらゆう

ごぶさたしております。久方ぶりのSF随想録パンセです。

ちなみに誰も指摘しておりませんが、『随想録』は本当はエセー Les Essais で、 パンセ pensée は『瞑想録』(Penses de M.Pascal sur la religion et sur quelques autres sujets. = 『宗教その他若干の主題についてのパスカル氏の思想(パンセ)』)などと呼ばれているものだったりします。 しかも、エセーはミシェル・ド・モンテーニュ Michel Eyquem de Montaigne、 パンセはブレーズ・パスカル Blaise Pascal の著でした。訳は適当ではありませんが、 意味的にはSF/Fantasyについて色々と考えたり、調べたりしたもの、ということでパンセだと思ってくださいませ。

とまれ、久しぶりの今回は、鉄板の重力について語ってみたいと思います。

重力については、第3回「時空のお話」 でもちょっと触れていますが、今回はがっつりちょっぴり重力の話題と行きましょう。


1. いきなり微分・積分

物理の話題についてはどれもそうですが、どうしてもちゃんと説明するために避けることができないのが微分・積分。

でも、方程式を実際に解くなんていうことは教科書にまかせれば良いので、ふーん、そんなもんか、ぐらいに思ってもらえたら成功です。

微分 derivative というのは傾きのこと。

学校でも言われることなのですが、モノの変化の度合いをあらわすための指標となっています。

一番単純でわかりやすいのは、位置の変化量としての速度。

小学校の問題になるんでしたっけ? 移動距離を時間で割ったものが速さになるんですが、それは速度が一定のときにしか成り立ちません。 この速さは時間と速度のグラフで書くとちょうどグラフの線の傾きに相当することがわかります。 逆に傾きを速度だと考えてしまえば、形が複雑になってるグラフについても、そのそれぞれの点での傾きを考えれば良いことになります。

ある時刻で時間の間隔をものすごく小さくしていくことで、その周辺での傾きが一定だと考えられるので(考えるんです!)、それをその時刻の速度とします。

傾きが一定だなんてなんで言えるんだと思う人。その考えは正しいです。 最初はそういうごまかしで便宜的に考えたもので十分ですが、このことは数学的にちゃんと証明してやるべきものです。 もしかしたら、このごまかしのところで挫折する人が大勢いるんじゃないかと思うと残念な限りですが、ある程度は仕方ないのかも。

勉強の時間じゃないので、そういう物だと思ってください。短い区間に区切って計算した割り算の結果だと思ってもらえばいいのかも。

微分の反対が積分です。

積分 integral はぶっちゃけ面積のこと。

これもわかりにくいかもしれませんが、積分の式が関数と小さい量 dx の積からなってることを考えれば楽かも。 ここでも微分と同じく短い区間が出てきます。その短い区間で関数の数値と間隔の幅をかけあわせれば、その範囲での面積になります。 その面積を足し合わせたものが積分となります。計算方法は実は微分よりも面倒なのですが、かけ算だと思えば楽かも。

物事を考えるとき、変化する割合だけがわかってることがあります。第3回でふれた運動の法則から、 加速度(速度の変化する割合 = 速度を微分したもの)は力に比例します。力が時間とともにどのように変化するかがわかるなら、 加速度を積分する(短い時間間隔とかけ合わせてから足すことを繰り返す)ことで、位置や速度がどのように変化することがわかります。

力は、例えばバネの力は、バネを引っ張った距離に比例します。位置で変化する力が加速度に比例するという関係ができます。

位置の関数 $kx$ に対して、質量 $m$ の物体の運動は $$kx = -m\frac{d^2 x}{dt^2}$$ という式になるのですが、 この $d^2 x / dt^2$ というのが微分です。これは $((d/dt)\times(d/dt))x$ のことで、2回微分してることになります。 位置→速度→加速度ですね。この式を微分方程式と言って、物理の問題の多くはこの微分方程式を解くことで解決されます。 バネの運動は中央を境に振動する解になります。(単振動)


2. ニュートンの万有引力の法則

ニュートン Newton は先人の研究結果を元に重力理論を生み出しています。逆に言うと、 ニュートンの法則からそれまでの先人が観測で得た結果が説明できることになります。

ニュートンの万有引力の法則は結構シンプルです。

二つの物体があったとき、その物体に働く力は物体の質量に比例し、距離の二乗に反比例する、というものです。

物体の質量を $m$ と $M$ としたとき、比例乗数 $G$ を用いて、 $$F = \frac{GmM}{r^2}$$ というのがそうです。

1の説明のときは1次元に対して説明したのですが、重力方程式では3次元を考えます。 位置座標 $(x, y, x)$ と中心からの距離 $r=\sqrt{x^2+y^2+z^2}$ を用いると、 $$m\frac{d^2x}{dt^2}=\frac{GmM}{r^2}$$ $$m\frac{d^2y}{dt^2}=\frac{GmM}{r^2}$$ $$m\frac{d^2z}{dt^2}=\frac{GmM}{r^2}$$ となる3本の方程式になります。

ニュートンの方程式は、物体が二つしか無いときは厳密に解けます。 単純に積分するだけでは解けないのですが、微分や積分の公式に変数の置き替えなどを駆使して解けます。

その結果、運動は必ず平面内にあって、軌道は楕円か放物線か双曲線のいずれかしか取り得ません。 円というのは楕円の特殊なものなので、この結果に含まれます。

惑星とか衛星の軌道が楕円だというのはここから来ているのですね。 実際は空には二つ以上の天体があるので、この通りにはなりませんが。 それでも重力の影響を受けるものがどういう風に動くかということを大体理解する上deはこれで十分です。

ロケットみたいなものの運動の場合、重力の他に空気抵抗とか噴射の力などを微分方程式に加えて計算するのですが、 そうなるともはや簡単な方法では解けなくなります。

その場合は細かく刻んでかけ合わせて足すという操作に立ち戻ることになります。 微分とか積分は本来は無限小の領域で計算するのですが、この方法で計算するときは無限小の領域なんて使えないので、 誤差が小さくなる程度の小さい領域を使って計算をします。計算量は膨大になりますが、 この手の計算はコンピューターにとって得意な分野なので、その計算速度の速さを活用して力まかせに解いてしまうのでした。 実際の計算ではもうちょっと工夫して、計算時間が短くて誤差が少なくなるようにした手法が使われますけどね。


3. 相対性理論の世界

時間と空間を同じような土俵に置いてしまおう、という特殊相対性理論(Special relativity, (独)Spezielle Relativitätstheorie)の枠組みでも1の微分方程式は同じに使うことができます。刻んでかけて足す、です。

それが一般相対性理論(General relativity、 (独)Allgemeine Relativitätstheorie)の世界ではもっと厄介なことになります。

ニュートン力学の世界はユークリッド幾何 Euclidean geometry という空間の測りかたが使われます。 その空間をユークリッド空間 Euclidean space といいます。ニュートン万有引力の説明のところでさらっと書きましたが、 距離が $r=\sqrt{x^2+y^2+z^2}$ となるのはそもそもユークリッド空間でしか成り立ちません。

特殊相対性理論の世界ではミンコフスキー空間 Minkowski space というものを使いまして、 ふたつのできごとの間の距離は $s = \sqrt{(ct)^2-x^2-y^2-z^2}$ となります。 時間と空間の符号は状況によって引っくり返ることがあります。距離の測り方は少し変わりますが、微分と積分はユークリッド空間と同じ感覚でできます。

ところが重力があったときにはこの方法が使えなくなるのです。

よく物の本には、一般相対性理論の基本的な考えは等価原理にあると書いてあります。 つまり、加速している状態と重力の中にいる状態は、目隠しされているときに区別がつかないというものです。 加速すると加速による慣性力というみかけの力が生じます。一方で、重力の中で落下運動をすると加速をつけながら落下するのですが、 その時の物体は重量を感じません。加速による慣性力と重力がつりあっているからです。

実はこの表現は誤解を生みます。一定加速度で移動している宇宙船は重力の影響を受けるから一般相対性理論を用いて計算する必要がある、 というものです。等加速度運動をしている物体の運動は別に一般相対性理論を使わなくても解くことができるのです。

では重力を考えたとき何が問題となるのか。

先程物体を落下させると加速が生じると書きましたが、実は重力の中では距離を計算するための物差しの目盛が変わってしまうのです。 そのせいで、微分や積分も上での定義に補正をしてやらないといけなくなります。

ある点のすぐ隣の点での物差しはわかるのですが、遠く離れた場所まで同じ物差しを使うことができなくなります。 距離を計算したいのに、こことあちらでは距離の測り方が変わってしまうということは、 ニュートンの万有引力の方程式もそのままでは成立しないことになります。(そもそもニュートンの方程式は時間と空間は別になっていますし。)

そこで、この物差しの測り方を求めることの方が物事の本質なのだ、と考え、そ の物差しを取り替えながら少しづつ遠くの点まで調べるという方法を取ることになりました。

これがアインシュタイン Einstein の重力理論です。特殊相対性理論の帰結から、 エネルギーと質量の垣根も取り払われているので、アインシュタインの方程式には重力と同時にエネルギーも含まれています。

アインシュタインの重力方程式は一見すると単純な形みたいにも見えます。 $$G_{\mu\nu} + \Lambda g_{\mu\nu} = \kappa T_{\mu\nu}$$

式の左側は重力理論が展開するためのリーマン幾何 Riemannian geometry に支配されたリーマン空間 (正確にはリーマン多様体 Riemannian manifold)の性質から数学的に厳密に求めることができます。 ところが左側はアインシュタインも認めてる通り、泥臭い方法で求めているため全体的な式の形はぶかっこうだというそうです。 $g_{\mu\nu}$ というのが長さを測るためのものさしのような役割があって、その名もずばり計量 metric と言われています。 $G_{\mu\nu}$ はこの計量の複雑な微分や空間の曲率が出てきます。0でない曲率が出てくることから、空間は曲がっている、と表現します。

ちなみに余談ですが、重要なことですが、歪んではいません。リーマン幾何では空間のねじれは無いものとして扱うからです。 曲がった空間を通る光はねじれません。通り道が曲がるだけです。ねじれは捩れテンソル torsion tensor という量で表わされるらしいのですが、 これはアインシュタイン・カルタン理論 Einstein–Cartan theory で使われるみたいですね。 このあたりをまともにアイディアとして取り入れた作品はあまり、というか見たことないので、 物理的解釈からSF的なアイディアまで昇華できれば、この筋の先駆者になれるかもしれませんヨ。

アインシュタイン方程式に戻って、 $\Lambda$ というのがかの有名な宇宙項 cosmological constant のことです。 これ、実は数学的に厳密にこの式を導出しようとすると一般形として普通に出てくる量のようで、 これが0になるようにした状態の方が特別な例ということになります。 アインシュタインはこれを0になるように取りましたが、今は0でない量として扱われています。


4. ブラックホール

アインシュタイン方程式は複雑な形をした微分方程式なものですから、普通の方法では式を変形したり積分しても解くことができません。 (一般解が無い。)

ところが、いくつかの強い制約、つまりどっから見ても同じ形をしてるぞ、みたいな条件を加えると解くことができます。 この条件を満たすとき球対称だと言うのですが、さらに真ん中の天体が回転してなくて電荷も持ってないときに、 アインシュタイン方程式を解いたものが有名なシュバルツシルト解 Schwarzschild solution と呼ばれてるものです。 天体から十分離れた場所の重力は大抵このシュバルツシルト解で説明できて、近似的にニュートンの万有引力の法則と同じになります。

偶然の一致というやつがシュバルツシルト解とニュートンの万有引力の間にあります。 ニュートンの万有引力の法則で得られた楕円軌道は重力によって内側に引っぱられる力と回転による遠心力が吊り合っている状態になります。 遠心力は回転のスピードを上げると変化します。そのスピードがある数値よりも小さいと物体は中心の天体のまわりを一周できなくて落ちてしまいます。 その限界の速度を地球に対しては第一宇宙速度と言いますね。地球表面上でなら約7.9km/sです。 (高度によってこの速度は変わります。) さらにルート2倍のスピードを与えると、今度は地球の回りを飛び出してしまい地球に戻ってこなくなります。 これを第二宇宙速度もしくは脱出速度といいます。さらに太陽系を脱出する速度は第三宇宙速度と言いますね。 さっきちょっと言いましたように、遠心力は中心からの距離が短かいほど強くなり、回る速度も大きくなります。 特殊相対性理論によると、物体は光速を越えることができないとされます。 そこで、この速度の上限の光速が脱出速度になるような距離を求めると、 ずばり、シュバルツシルト解から得られるシュバルツシルト半径というものに一致します。 (偶然の一致なのですが。) シュバルツシルト半径の内側では速度の限界である光の速度でも軌道を脱出することができない、 ということで、光を飲み込む穴の意味のブラックホールと呼ばれるようになりました。 シュバルツシルト半径の球面は事象の地平 event horizon と呼ばれますが、 これは単に座標の取り方の問題だけなのでうまく座標を選ぶとブラックホールに飛び込んだ物体は普通に中心まで落ちていくことがわかります。 ただ、距離0の点だけは特別なところで、計算ができないところになります。いわゆる特異点というやつですね。

中心の天体が回転してる時、球対称じゃなくて軸対称となります。このときのブラックホール解がカー解というやつす。 さらに電荷を持ってるとき、カー・ニューマン解となるそうなのですが、 全ての現実的なブラックホールはこのカー・ニューマン・ブラックホールに変化していくんだそうです。

ブラックホールは何でも吸い込んでしまうようでいて、実はエネルギーを放出しています。ブラックホールは物体を吸い込むのですが、 その過程でエントロピーが増大します。エントロピーが増大すると半径が小さくなることが知られてるのですが、 同時にブラックホールは熱を放射します。結果として、いつの日にかブラックホールは熱(エネルギー)を放出して蒸発すると言われています。 このことはホーキング放射と呼ばれていますね。

ブラックホールと熱やエントロピーの話題は、ブラックホールといえども熱力学の法則を破ることはできないということを意味します。 ブラックホールを熱力学と結びつけた研究をホーキング Stephen William Hawking は行っていました。


5. フリードマン宇宙

最後にアインシュタイン方程式の厳密解のひとつであるフリードマン解について紹介しましょう。

ブラックホールの解では中心の天体を仮定しましたが、ここでは全てが一様、つまりどこを見ても中身は同じという状態を考えます。

すると、計量は空間と時間のそれぞれに分けられて、空間の項には全体的に時間によって変化するパラメーターがかけられていました。 このパラメーターの種類によって、宇宙が膨張するパターンと縮小するパターンそれから大きさの変わらない状態とに分類されました。 宇宙の物質の密度によってこの膨張縮小が分かれるのですが、観測される天体の質量だけではあっという間に宇宙はつぶれてしまうといわれます。 今は見えないところに見えない天体や目に入らない素粒子があるとか(ダークマター)、 真空のエネルギーによるのだとか(ダークエネルギー)言われています。


さて、どうだったでしょうか?

一般に知られている情報だけでも重力に関して色々とありますが、関連情報を調べてみると案外とネタとして使われてないものがあったりします。

物によってはかなり専門的知識が必要になるものがありますが、開拓する余地がある分野でもあるかと思います。

例によって、する人はいないと思いますがコピペはして何かあっても責任は取りませんのであしからず。

ということでおあとがよろしいようで。