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Author Interview

インタビュアー:[雀部]&[ダン]&[しお]

歌詠川物語II
『歌詠川物語2』
> 平谷美樹著/北圃政司装画
> ISBN 978-4-88536-576-8
> つり人社
> 2000円
> 2008.3.1発行
 歌詠川にみたび浮上したダム建設構想。川の明日と自らの夢を守るために、リバーキーパーたちは声を上げた。徒手空拳で巨大な力に立ち向かおうとする釣り人に勝ち目はあるのか―?
 「ぼくたちは―綺麗な歌詠川が大好きで、そこで釣りをするのが大好きで、だからこの川を守りたい。それだけでいいんですよね」愛と感動のフライフィッシング小説第2弾!!

『ヴァンパイア 真紅の鏡像』
> 平谷美樹著/Burt Glinn写真
> ISBN 978-4-7584-1108-0
> 角川春樹事務所
> 2500円
> 2008.4.8発行
 銀座のバーで出会った謎の老人が語る、驚くべき物語。この話は真実なのか? 吸血鬼は果たして実在するのか? 新たなる吸血鬼伝説が今、幕をあける。
ヴァンパイア

雀部 >  今月の著者インタビューは、3月1日に『歌詠川物語2』を、4月8日に『ヴァンパイア 真紅の鏡像』
を出された平谷美樹さんです。
 また、インタビュアーとして、『ノルンの永い夢』のインタビューの時ご一緒させていただいた、しおさんとダンさんにも加わって頂きました。
 しおさんは平谷先生の教え子で熱心な読者、ダンさんも古くからの平谷先生の読者で「フライだんだん亭」の管理人をされていて、平谷さんとは釣りを通じた仲間ということで。
 しおさん、ダンさんお久しぶりです。今回もよろしくお願いします。
ダン >  今回もこうして参加させて頂きましてありがとうございます。平谷さん、雀部さん、しおさん、ご無沙汰しております、今回もどうぞよろしくお願いします。
しお >  平谷先生、雀部さん、ダンさん、お久しぶりです。
 最近ガンダムにハマってしまった、しおです。よろしくお願いします。
平谷 >  雀部さん、ダンさん、しおちゃん、ご無沙汰でした。
 専業作家になって一年、やっと本が出ました。
 よろしくお願いします。
雀部 >  一日千秋で待ってましたよ(笑)
 さて、『歌詠2』ですが、カバーはダンさんのアイデアが元になっているとお聞きしましたが、良かったらその経緯をお教え下さい。
ダン >  表紙の件に関しましては、前作の『歌詠川物語』が出版されたあとに、こんな方向性もあったのでは?と、座興で平谷さんに数案お見せしたのです。
 私はそんなことは忘れていたのですが、『歌詠2』の出版も近づいたある日、平谷さんから「ダンさんのアイデアを出版社の方におみせしたところ、気に入ってくれて「歌詠2」で使いたいそうです」との連絡を頂き、ビックリするやら恐縮するやら嬉しいやらで・・・。(笑)
平谷 >  ダンさんの絵を見た瞬間『ああ……。これだったのに』と思いました(笑)
 いえ、『歌詠川物語』のイラストレーターさんも素敵な絵を描いてくれたわけですが、作者の思う方向性としてはダンさんの絵に強く惹かれたのです。
 で、画像を保存して置いて、『2の時は絶対にこれ!』と思い続けていたのでした。
 フライフィッシングをする人で『歌詠川物語』が好きな人ならば、強く頷いてもらえると思います。
ダン >  まるで空中に浮かんでいるように透明度の高いジンクリアの川でペアリングするヤマメ。それを大岩の上からそ〜っと覗き込んでいる様なイメージでした。平谷さんや編集の方と歌詠川を介してひとつになれたようで、すごく嬉しく思っています。
 それにしても本人も消去してしまった画像を保存してくださっていたとは……(滝汗)
雀部 >  《歌詠川物語》は、私のような渓流釣りの門外漢が読んでも、私もやってみたいなぁと、そそられる描写が素敵なのですが、実際に渓流釣りをされている方から見た《歌詠川物語》の魅力とはどういうところでしょうか。
ダン >  里川の雰囲気が漂うのどかな流れから、山が迫り山岳渓流の様相を見せ始める上流部まで、ポイントごとに様々な表情を見せるフィールドはフライ・フイッシャーならずとも川面に立ちたいと思わせる魅力がありますよね。
 ポイント毎にどのよに釣るか、様々な戦略を立てながら魚と戯れる、まさにフライ・フイッシャーにとっての桃源郷です。
 釣りシーンの描写ではフライフイッシャーならではの描写が随所に織り込まれており、実際にその釣り人のとなりに立って、水面を流れるフライを共に息を詰め見つめるようなヴァーチャルな世界に引き込まれてしまいます。
 私としては平谷さんと一緒に釣りをさせて頂いた、実際に岩手県に流れるあんな川や、こんな川がすべて混ぜ合わされて「歌詠川」として勝手にイメージされています。
平谷 >  あの時は、我が家から1時間圏内のM川とN川をご案内したのですが、それらの川も歌詠川のイメージやディティールに反映されています。
 釣りシーンについては、ぼくは高度なテクニックを使えないので単調になりがちなのが難点で……(笑)
 それに、執筆に追われてあまり川に立てなくなって来ていたので、ぼくの中の描写のバリエーションが枯渇気味です(笑)
 なので、今年は頻繁に川に立ち、たっぷりと補給しようと思っています。
ダン >  そうですね、本来のSFはもとより、怖い系、伝奇系、そして釣り系などなど、多岐にわたるフィールドでご活躍ですから、そのぶんたっぷりと心の養生もして頂きたいと思います。
 で、ひと休みしたらまたビシバシ書いてくださいね〜〜!! ( ̄▽ ̄)b
雀部 >  しおさんは、《歌詠川物語》を読まれてどうだったでしょうか。
しお >  子供の頃は、川遊びが好きでしたから、非常に懐かしい感じがしますね。
 釣竿は持ちませんでしたが、網とカマボコを持って、ザリガニを採ってました。通学路が田んぼだらけだったので、用水路で水遊びしながら家に帰るんですよ。
 一度、背中から田んぼに落っこちた事が有りまして(笑)水を張ってる時期だったので、もうランドセルが泥だらけ。どうやって家まで帰ったのか覚えてませんが、さぞかしマヌケな格好だったんだろうなぁ、と。
 岩手には、北上川という、大きな川があるんですが、そこでつかまえたメダカだと思ってた小魚が、実はフナだったりと。日々大きくなっていく姿に、びっくりでしたよ。ん〜、抜けた話ばっかりですね(笑)
 都会育ちの、同い年くらいの人が読んだ感想も、ぜひ聞いてみたいですね。
平谷 >  少し西へ行けば、胆沢川の上流がすごくきれいだよ。
 ダムの上流部だと渓谷の底まで降りていくのに20分くらいかかるけど。
 猿岩隧道を抜けて行く前川なんかもとても綺麗。
雀部 >  『歌詠2』には、渓流釣りの魅力に引き込まれる冴子さんという美人が出てきますが、しおさんは平谷先生から渓流釣りの手ほどきを受けられるとしたら、どうされますか(笑)
しお >  怖い話と、見えないモノの話は抜きでお願いします(笑
平谷 >  今度、岩手に帰ってきたら、一緒に行こうか?
 でも、ぼくの釣りは怖い話と切り離せない(爆)
雀部 >  前回のインタビューの時に、「そのうち専業の作家になったならば、性描写バリバリの小説を書くかもしれません」っておっしゃってたのが『ヴァンパイア 真紅の鏡像』だったんですね。
 で、もう一冊の『歌詠川物語2』は、『歌詠川物語』の続編で、まあ品行方正な(笑)小説ですよね。これだけ傾向が違うと一冊書き終えてから次に取りかかるとか、同時進行にしても、やはり一区切りをつけて気持ちを切り替えてから執筆されるのでしょうか。
平谷 >  『歌詠川物語2』(以下『歌詠2』)は、月刊誌の連載でした。
 連載2回で1本の短編という形でしたから、2ヶ月に1回原稿を送っていました。
 ネタを思いついて書き終わるまでに3日程度でしたから、集中して一気に書き上げていました。
 一方、『ヴァンパイア 真紅の鏡像』(以下『ヴァンパイア』)は、20数年前に書いていた原稿があったので、それを元に書き直し、書き足しをしていました。
『ヴァンパイア』は某出版社に預けてある『冒険小説』とほぼ同時進行でした。
 つまり、去年は全く違うジャンルの小説を3本同時進行していたわけです。
 日常的に『ヴァンパイア』と『冒険小説』。
 時々それを中断して『歌詠2』や、たまに入ってくる短編や、季刊『ササラ』の連載コラムを一気に。
そういう形でした。
 基本的に毛色の違うものを平行して書いていましたから、切り替えはあまり難しくありませんでした。
 量子執筆脳が平行世界で演算してたんですかね(笑)
 とはいえ、一方にのめり込んでいるとなかなかその世界から抜け出せなくて、1日中調子に乗れないことも多々ありましたが。
 なにより、『ヴァンパイア』と『冒険小説』は、編集者さんをお待たせしている作品でしたから、早く書き上げなければという意識が強かったですね。
雀部 >  なるほど。
 さて『歌詠2』は、「FlyFisher誌」の連載を元に加筆されたものだそうですね。『歌詠川物語』は各エピソードの独立感があり、こっちの方が毎月の連載を本にまとめた感じがするのが面白いです(笑)
平谷 >  『歌詠川物語』は、まったくの趣味で短編連作の形で構想し、書いたものでしたので。
 歌詠川とその周辺の人々を「まず書き起こす」という形でしたから、一本一本が独立しているのです。で、その背後に歌詠川が流れていて、最後に一本につながるという。
 それぞれが支流みたいなものですね。
 一方、『歌詠2』の方は、すでに土台があるので、ちょっと小細工をして、短編連作というよりも、長編の形式に偏った形になっています。
 編集者とも『歌詠川物語』の方がバランスがいいね――などとは話していました。
雀部 >  分かります。『歌詠2』が元々長編仕様だということは。
 『歌詠2』なんですが、前作『歌詠川物語』を執筆されていた時から『歌詠2』の構想はあったのでしょうか。
平谷 >  頭の中には『歌詠3』までの構想がありました(笑)
 『歌詠3』についてはどういう形態で発表するか検討中です。
 フライフィッシングは様々なマイナス要素が重なって、必ずしも心地よく楽しめるだけのものでもなくなってきていますので、「悪人を出さない」「完全な予定調和で心地よく」というのが基本ラインです(笑)
 だから歌詠川ではいつでもデカイ魚が釣れますし、ボウズ(魚が一匹もつれないこと)もありませんし、マナーの悪い釣り人もいません。
雀部 >  あ、3も既に準備中だったとは(笑)
ダン >  あははは、あらためて平谷さんは「作家」だったということを思いしらされました。「チラ見せ」されて、もう欲求不満になってしまいそうですよ〜。(笑)
雀部 >  『歌詠2』で、ダム計画をひっくり返すために秘密兵器を投入しますね。これ、ちょっと反則(笑)だと思うのですが、日本の自然な川を守ろうとすると、そこまでやらなきゃ無理になってきているんでしょうか。
平谷 >  歌詠川は幾つもの矛盾点を抱えた川です。それは『歌詠川物語』の1ページ目から随所に織り込んでいます。
 あの反則技は、その中の1つ。主人公たちも言っていますが、彼らが守ろうとしているのは〈自然環境〉ではなく、〈川が好きな人たちが遊べる川〉です。
 自然環境が〈政治のエゴ〉や〈地域のエゴ〉、〈利権に絡む小集団のエゴ〉によって破壊されていく。それと同様に〈川好きの小集団のエゴ〉によって、ダム建設に反対するわけです。
 また、自然環境は保護していかなければいずれ崩壊していくものであるというのも事実で、それを阻止するには〈現存する組織〉では力足らずです。
 決定機関も指示命令系統も、旧態依然とした人々によって牛耳られ、机の上で企画立案するために、現場を良く知る人間ほど絶望感をおぼえる――。そういう機関の末端である学校に20数年在職して、それを嫌と言うほど味わいました。
 また、多くの自然保護団体、動物保護団体がブチ上げる、自然や動物に疑似人格を与えるような極めて感情的な理論、発言にも首を傾げて来ました。
 であれば、フィールドを良く知った人間、そして〈組織〉というものを良く知った人間たちが積極的に参画していけば、いくらかまともな保護ができるのではないか。
 あの反則技は、そういう微かな希望の元に〈物語上で〉成立しているのです。
雀部 >  あの〈川好きの小集団のエゴ〉によってダム建設に反対するってところが、彼等の立ち位置が明確でとても説得力がありました。実際に渓流釣りをされているダンさんは、どうお考えでしょうか?
ダン >  日本のダムって立地的にどうしても深く切れ込んだ渓に建設しますよね。そういうところって一般的に言えば日本の原風景が残るような、人里離れた場所な訳で、そこを流れる渓流は私たち釣り人にとっては渓流魚が釣れるフィールドだったりする訳です。
 私たちのやっている「釣り」は「遊び」ですから、その遊び場を守りたいがためにいくら『反対!反対!』と叫んでも説得力はありませんよね〜。(苦笑)
 釣った魚を殺さず再放流する「キャッチ・アンド・リリース」も、命の大切さや自然保護という観点からのムーブメントではなく、これからも自分たちが遊べる様にというエゴから発生しているのです。釣り人ってなんだかエコっぽいですけどとってもエゴなんですよ。(笑)
 だから、こうして秘密兵器による解決への糸口が、お話しの中だけでも出てきてくれると何だかとっても救われた様な気持ちになってしまいます。
平谷 >  フライフィッシングを始めて1年ほどは、魚を持ち帰って食べてました。
 でも、計算してみると、一年でかなりの数の魚を川から持ち帰っていた事に気付き、
「これを大勢の人がやってたら、魚も少なくなるわなぁ」
 と、思ったわけです。
 ぼくのキャッチ&リリースはそういう具合に「環境云々」というよりもエゴから入りました。
 フライフィッシングの周辺を見回すと、環境保護を前面に押し出してキャッチ&リリースを声高に叫ぶ人が多くて、「それは違うだろう」と(笑)
 で、意地の悪いぼくは、小説でその仮面をひっぺがしたわけです(笑)
 でも、エゴであっても自己の存在理由にまで関わってくるものですから、なんとしても遊び場としての川は残したい。で、秘密兵器の登場となったわけです。
 秘密兵器は視点を変えれば、ぼくたちの身の回りにもまだまだ存在していると思いますが、〈あの生き物〉、ぼくは大好きなので、ああいうことに(笑)
ダン >  平谷さん!平谷さん!それ以上はネタバレですよ〜〜!! (≧∇≦)・゜・。
雀部 >  『歌詠2』は、“「完全な予定調和で心地よく」というのが基本ライン”だったそうですが、『ヴァンパイア 真紅の鏡像』ではそうも行かなかったのではないかと想像してますが(笑)
平谷 >  最初の構想は「暗い・重い・救いがない」ものでした(笑)
 三好くんとの対談にも出てきていますが、20数年前に構想したものです。
 予定調和は初めから考えていませんでした。
 当初、主人公の復讐劇で、空しさだけしか残らない作品になるはずだったのですが……。
 途中で変わってしまいました(笑)
雀部 >  「暗い・重い・長い」だとプログレッシブ・ロックかも(笑)
 そもそも、最初の構想のとき、なぜ“ヴァンパイア”ものを書かれようとされたのでしょうか?
平谷 >  構想した頃はSFよりホラーが好きだったので(笑)
 また、子供の頃からハマープロの「ドラキュラシリーズ」が好きだったこともありまして、「いつかは吸血鬼モノを」
 という気持ちを強く持っていました。
雀部 >  ドラキュラ伯爵役のクリストファー・リーとヴァン・ヘルシング博士役のピーター・カッシングは、当たり役ですね。私も子供の頃よく見てました。うちのカミさんは、怖い話は全くダメなんですが、なぜかハマープロの《ドラキュラシリーズ》は大好きだという(笑)
平谷 >  ぼくは結構、怖がって見てましたよ。ハマープロのドラキュラ。
 今好きなのはフランク・ランジェラがドラキュラをやってローレンス・オリビエがヘルシング博士をやった映画です。
 ドラキュラ映画や吸血鬼映画はだいぶ観ましたね。
 そんな中でちょっと鼻につくのが、吸血鬼たちがみんな貴族意識をもってしまうこと。
 そういうのが反映して、泰彦が濱野のお嬢様を揶揄するシーンが出てきたんです。
雀部 >  庶民の吸血鬼(笑)
 そう言えば、文中に“自分は犠牲者たちとは違う存在であると思いこむことによって精神の安定をはかるので、貴族意識を持つようになる”という意味の描写が出てきたので、成る程と思いました。
 そうかこれが、吸血鬼たちがみんな貴族意識をもってしまう理由なんですね。
平谷 >  スケープゴートと同じです。
 相手が自分よりも格下で取るに足らない人間だと思いこむことによって、人間はどんな残虐なことでもできるようになります。
 善良な市民が、嬉々としてユダヤ人狩りをしてしまう心理ですね。
雀部 >  世界各地の吸血鬼伝説(不死伝説)をお調べになったようですが、『ヴァンパイア 真紅の鏡像』の設定と相反するのでボツになったネタとかはありましたか?
平谷 >  吸血鬼が貴族化するのはブラム・ストーカーの「ドラキュラ」以降で、エリザベートなんかの事件は、吸血鬼伝説とは別の次元のものなのです。
 たいてい、死後に吸血鬼化するのはマイノリティー。
 集落で疎外されていたり、宗教が異なっていたり。
 集落という小集団が形成した「幻想の正義」のために、死後までも疎外される。
 そういう形でしたから、設定とは完全に合っていました。
 不死伝説については、主人公は何かタブーを犯して、その罰で不死になるパターンが極めて多いのです。
 相反するものは見つけられなかったなぁ……。
 あ、でも、執筆の時には「不都合な情報」は完全にカットするので、ぼく自身が忘れてしまっているのかもしれません。
雀部 >  世界的に、吸血鬼伝説は割と共通点が多いと言うことですね。
 平谷さんは、《百物語》シリーズ後書きでも語られているように、なんども不思議な体験をされているそうですが、そのご自身の体験と吸血鬼伝説とでは、何か共通するものがあるでしょうか。
平谷 >  ぼくが集めている怪奇体験にはそういうパターンはあまりありません。
 自分たちが虐げて死に至らしめた者たちに対する罪悪感が吸血鬼の伝説の源ではないかと思います。
 いわゆる、怨霊ですね。
 外国では、神の力を使って滅ぼそうとする。
 日本では、古来から「なだめる」という手法を使うことが多いですね。
 神様として祀ったり、官位を与えたり、話を聞いてから成仏するように説得したり。
 外国と日本ではやはり精神的な土壌が異なるんだと思います。
雀部 >  《百物語》に出てくる恐怖譚と、『ヴァンパイア 真紅の鏡像』の吸血鬼とでは、ダンさんはどちらが好きですか(笑)
 同じ平谷さんが書いたホラーものとして、共通点を感じられたでしょうか。
ダン >  かたや実態のないモノの実録恐怖、かたや定番恐怖キャラの新たな解釈の面白さと、似て非なる物ですから、どちらが好きとは一概に言いにくいのですが。私は基本的に「怖がりたがり」なので百物語に軍配を上げるかも。(笑)
 共通点ですか? そうですねぇ、百物語で蓄積した怖さのエッセンスが、『ヴァンパイア 真紅の鏡像』の随所にフィードバックされているように見受けられましたよ。たとえばアンリエットの登場シーンなど「あ〜、この辺はいかにも平谷さんならではの持ち味だな〜」って感じてましたよ。
平谷 >  第2部まではホラーの味を意識しながら書きました。
 第3部は怖さよりアクション重視。
 吸血鬼の設定は「何でもありって感じで納得しがたい」っていう感想もみつけましたが(笑)
 “小説の中の仕掛け”とすっかり同じ反応なので笑ってしまいました。
 納得するもしないも、「そういう設定の世界」なんですけどね。
雀部 >  その「納得しがたい」という感想を書かれた人はSFファンじゃないのかな。ちょっとSFぽい解釈も出てくるので、SFじゃないことを忘れてしまう(笑)
 ダンさんはいかがでした?
ダン >  見方によってSFであり、伝奇であり、ファンタジーであり、ホラーであり、スプラッターであり、そして「アダルト」でもあり、1冊でいろいろ楽しめるので、あまりカテゴリーにこだわらず、思いきり物語の中に身を委ねた方が得だと思うのですが・・・(笑)
雀部 >  すみません、SFファンはこだわっちゃうんです(汗;)
 “ヴァンパイア”ものって、カテゴリ的にはファンタジーなんでしょうけど、構成的にはSFに近しい感じがしてます。昔からの枠組み(制約とか決まり事とか)の中で勝負しなくちゃいけないところなんか。
 今回『ヴァンパイア 真紅の鏡像』を書かれるに当たって気を付けられたことはございますか。
平谷 >  SFとは考えずに書きました。
 吸血鬼の設定に科学的解釈が少し出てきますが、基本的に〈魔術や超常現象と同義〉と考えていただいてかまいません(笑)
 ぼくの作品は「お茶を濁す程度しか科学設定に触れない」とかお叱りを受けるんですけれども、書く側の創作意図に「それ以上の科学設定」がありませんので、困ってしまいます。
 ずっと以前に「純文学は王道だから、君は純文学を目指すべき」と言われたことがありますが、なんだかそれと同じ事を今でも言われ続けている気がします。
 科学設定に凝って書くときは色々技を考えますけれど(たとえば〈量子感染〉とか)、そうじゃない物語は、ビジョンを見せたかったり、登場人物の生き様や選択を見せたかったりと、見せたい所が違うのです。
 〈刺身定食〉なのに、「天麩羅がついていない!」とクレームを付けられているようなもの。
 だから、第3部に登場人物の台詞でこの小説の読み方を示唆している部分があります(笑)
 執筆にあたって、第1に考えたのは「1400枚を一気読みしてもらえる小説を書く」
 ということでした。
 分厚い本になることは判っていましたので、
「分厚かったけどあっという間に読み終わった」
 という思いと、
「一気に読めたのに、色々深い所があった」
「もう一度読み返したら、別の視点が見えてきた」
 というように読者諸氏に感じてもらえればいいなと。
雀部 >  SFファンが、第一回小松左京賞受賞者の平谷さんの本を取るとき、たぶんSFだろうなと思うのは、しょうがないかも。まあ、読んでいくうちに、SFじゃないやと分かることだし(笑)
 それはそうと、『歌詠2』の冴子さんの愛車はロータス・エリーゼS(英国のスポーツカー)ですよね。あまり日本では見かけない種類のクルマですが、イメージ的に冴子さんにぴったりだと思いました。で、『ヴァンパイア』の方を読むと、こちらにもマニアックなクルマが出てきてちと驚きました――平谷さんがクルマに詳しいとは考えたことがなかったんで(汗)
 これは、『ヴァンパイア』でイギリスのことを調べられた時に、このクルマを使おうと思われたんでしょうか?
平谷 >  『ヴァンパイア』の〈読み方〉については、実は、第3部にある人物の台詞としてちゃんと書いてあるんです(笑)
 車については、結構、マニアックな好みがありまして。
 好きな車は〈日野コンテッサ〉。古い〈117クーペ〉もいいですね。
 〈ギャランGTO〉は高校生あたりにその性能を知って「渋い」と思っていました。
 〈ロータス・エリーゼS〉は冴子が選びそうな車として探し出しました。
 美術畑の人間でもありますから車はデザイン性重視かな。
雀部 >  思ってたよりそうとうマニアックだ(笑)
 コンテッサは、リアドライブの格好いいヤツですね。117クーペは、近所の先生がまだ乗ってます(笑)
 それにしても、GTO−MRなんてSF系の作家の書いた本で見るのは、田中光二さんの『ビッグ・ラン』以来ですよ(笑)じゃ、裕作の愛車、ブリストル(603あたり?)もデザイン重視なんですか。イギリスの少量生産の趣味性の高いクルマということくらいは分かるんですけど。手元にある『自動車アーカイヴ』(二玄社)を見てみると、元航空機メーカーで高級パーソナルカーを作り続けてるんですね。
平谷 >  裕作のブリストルを含め、第1部の車は、20数年前に初稿を書き始めた時の設定です。
 当時、それぞれの性格に合わせて、車選びをしました。ブリストルについては詳しくないんですけど、裕作なら選びそうな車でしょ?
雀部 >  アンティークの買い付けが職業ですから、確かにブリストルはうってつけですね。
 それと、裕作がアクア・スキュータムのコートを着るところがありましたね。実は私も持っているんです(笑)カミさんが割とひいきにしているんですが、そこのお姉さんが“うちの方がダックスやバーバリーより創業は古い”って自慢していたのを思い出しました。ここらあたりも、まさに「神は細部に宿る」です。
平谷 >  昔、光瀬龍師匠にある素人文学者の集まりの席で「嘘のつきかたは平谷くんに学びなさい」と言われて、とても嬉しく思ったことがあります。
 基本的に、知らない分野の物でも調べて、まるで専門家のごとくに書くっていうのが好きです。
「ニューヨークは何年住んでいたんですか?」とか、「車はシトロエンですか」とか、
 アマチュア時代ぼくの小説を読んだ人に言われたことがあって、
「ニューヨークには行ったことがありません」とか、
「シトロエンには触ったこともありません」とか、
 答えるのが快感でした。今でもそれは同じです。
 SF設定でそれをやろうと思ったのが《量子感染》でしたが、いつもそのスタンスで書けば「SF設定が甘い」と突っ込まれずにすむんでしょうね(苦笑)
雀部 >  それは、ハードSFファンとしては嬉しいかも……
 大変でしょうが(笑)
平谷 >  科学設定を「誰にでも判りやすく」説明できるように修行します(笑)
ダン >  この本のカテゴリーや、膨大な資料のバックボーンはともかく、まず驚かされたのが平谷さんにとってははじめてお書きになったであろう「性描写」でした。
 妙齢の女性・しおさんがいらっしゃる前で話しにくいですが、これはかなりのめり込みました。(笑)
 色々なカテゴリーの作品をお書きになる平谷さんですが、またまた新たな面を見せつけられました!
しお >  大丈夫です、なんせワタクシ、昨今言われるところの『腐女子』に分類される生物ですから!!(爆)ばっちこ〜い!です。
雀部 >  おお、それは頼もしい(笑)
平谷 >  《教師を辞めた反動》や《これからは自己規制なしで書くという決意表明》っていうのもありましたが、やっぱり一番の動機は《小説が求めたから》ですね。
 中学生、高校生の頃の男子って非常にアンバランスですから、吸血鬼の力を得れば泰彦みたいに転がっていくと思うんです。性衝動とか支配欲とかを制御しきれずに。
雀部 >  性衝動、確かに強かったです。もう遙か昔のことですが(笑)
しお >  あからさまに描いてあるけど、決して下品ではないんですよね。読み手の想像に任される部分が多いだけに、さらに淫靡さが増すというか、何と言うか。チラリズムとでも言うんでしょうかね??
 それと、「嘘のつき方は平谷先生に学べ」は、ちょっと分かります(笑)中学校の時の先生のお話は、と〜ってもリアルこの上ないものでしたから。
 実際、体験した事のない物を、調べつくして表現するというのは、大変な作業だと思います。今回のイギリスもそうですが、平谷先生の描いた文章を読むと、ぱっと映像がうかんでくるんですよ。物凄く細部まで緻密に描かれているものですから。今の私の仕事は、舞台上に非日常を作り出すのが仕事なワケですが、なかなか上手い事いかないものでして(苦笑)
平谷 >  細部まで描いているのは「映像」が見えているからです。
 以前は「自分が視ているものを、読者にも視てもらいたい」という気持ちで細かく描写していましたが、最近は、少し押さえて読者の想像に任せた方がいいかなと思い始めてます。
 舞台美術なんかも、「省略の美」があるでしょ?
 あるいは細部まで作り込むよりも、省略した方が現実味が出てくるとか。
 絵画や立体造形なんかでも「省略の美」があるんですよね。
 ぼくはこれから、それを学ばなければならないかなと。
雀部 >  『ヴァンパイア』の性描写なんですが、私はあまりいやらしさを感じなかったんです。というか、濃密な性描写なんだけど、どこか乾いた書き方をされているなあと。それによって、吸血鬼によって無理やり惹起された性欲という感じが出ていて上手いなあと。
平谷 >  合意のもとではない行為というのも何カ所かありますけれど、基本的に行為そのものはノーマルの範疇だと思います。
 ただただ、情景描写を描くように行為を克明に写し取るというスタンスで書きました。
 小説の性描写では台詞で読者の感情を煽りますが、往々にして下品になりますし、ぼくの執筆意図から離れてしまいますので、行為中の煽り立てるような台詞は書かないことにしました。
 あれらの場面は、台詞の「あり」「なし」で、まったく印象が異なってくると思います。
「これは、ただのエロではない!」(爆)
雀部 >  行為中の台詞が少ないのは確かに感じました。そうか意図的に減らしたんですね。
 たぶん、最初の読者だと思う奥様が読まれた反応はいかがだったでしょうか。
平谷 >  「いいんじゃないの」って(笑)
雀部 >  あれっ、そんだけですか(笑)
 スカパーでやっているミステリーチャンネルに大森望さん他が出演されている「Mysteryブックナビ」という番組があるのですが、5月の一押しコーナーで、関口苑生さんが『ヴァンパイア 真紅の鏡像』を取り上げられてましたね。
 エロとアクションが素晴らしいとか、『石の血脈』を意識しているんじゃないかとかおっしゃってました。
 私もバーの場面から始まる導入部分なんか雰囲気が似ているかもと思いましたが。
平谷 >  そうなんですよね……。
 実は、まったく意識していませんでした。
 『石の血脈』は読んでいるのですが、ぼくは読むとすぐに細部を忘れるタチなので、「バーから始まる」というのも言われて気がついたという(笑)
 言われてからまだ確かめていないので本当にバーから始まる導入だったのかというのも「へぇそうだったの」という感じです。
 『石の血脈』はすごく面白かったということと吸血鬼を扱っていたということくらいしかおぼえていません。
 なにしろ、自分が書いた小説も書き終わると調べて頭に入れた資料が完全に抜け落ちてしまう人なので(笑)
雀部 >  こういった形でメディアに取り上げられるのは、あまり経験されたことがない――SF系の宿命か(泣)――のではないかと想像しているんですが、ご感想はいかがでしょう。
平谷 >  より多くの人たちの目に少しでも触れることが出来たというのは嬉しいですね。
 でも、書評などでもそうなんですが、
「いや、そこは事実誤認ですよ」
 と反論できないのがもどかしい(笑)
雀部 >  そのもどかしさは、ここで解消して下さい(笑)
 『石の血脈』は意識されてなかったとのことですが、、C・L・ムーア女史の「シャンブロウ」はどうですか?(笑)
平谷 >  ごめんなさい。読んでません……。
 あ、それから《ポーの一族》は部分的にしか読んでいません。
 《ドラキュラ》は途中で断念しています。
 《インタビュー ウイズ ヴァンパイア》は映画のみ。
 《カーミラ》はジュヴナイルで読みました。
 《屍鬼》は読みました。あのページ数がもらえたらとても嬉しかったなと思います。
雀部 >  土俗的な面を含めてホラー的には『屍鬼』のほうが怖いかも。ページ数は、私にはちと長すぎるのですが(笑)
平谷 >  初稿の『ヴァンパイア』第1部、第2部では、隆宣の家族をもっと書き込んでいたんです。
 それからシャングラールの心理描写も。
 書きたいことを全部書き込むと、“部”ごとに1000枚は欲しかったんですが、3巻に分けるわけには行かなかったので、刈り込みました。
雀部 >  個人的には、シャングラールよりは、隆宣の家族のことをもっと知りたいです。裕作は、もっと頑張ってるエピソードが欲しかった。
平谷 >  第1部は、700枚ほどあったものを徹底的に削りましたからね。
 400枚くらいまで削ったんじゃなかったかな。
 出版の縛りは「単行本1冊分にすること」でしたから。
 一般の「家族小説的」な部分はバッサリやってしまったんです。
 非力ではあっても、とてもけなげに生きている家族が、不幸のどん底に引きずり込まれていく様子を克明に描いていたんですけど(笑)
 隆宣が可愛そうで泣いたという感想があったんですが、推敲前のものはさらに可愛そうな話でした。
雀部 >  さらに可哀想な話、読んでみたいです(笑)
 そういえば、アンリエットも出色のキャラクターだと思いますが、蘇ってからの扱いが、ちとあっさりしているように感じました。完全にシャングラールを喰っているというか、『ヴァンパイア 真紅の鏡像』のなかで一番キャラが立っていると思うんですが、エピソード削ったんでしょうか。
平谷 >  あれ以上のことを書くと、マンガのキャラクターみたいになってしまうので、自分自身の中でギリギリのキャラ立てをしました。
 生身の人間だと、あれが限度かなと。
 本当はアンリエットとシャングラールが生きていた時代の小説も独立させて書く予定だったんです。
雀部 >  あの時代のアンリエットの妖女ぶりがもっと読みたかったです。
 そういや人間でしたね、アンリエット。一度復活したので、なんか人間じゃないような気がしてました。
 大人のアニメ用として、隆宣とアンリエットが、二人で冥府魔道に落ちていく番外編希望(笑)
平谷 >  それは、なんだか、凄まじい話になりそうですね(笑)
雀部 >  きっと面白くなると思うんですが(笑)
 で、隆宣とアンリエットの間には子供が出来るんでしょうかねえ。ヴァンパイアの出産シーンは、書かれてなかった気がするんですが、生まれながらの“ヴァンパイア”は、やはり人間から移行したヴァンパイアとは違うと思うんですよ。『ヴァンパイア 真紅の鏡像』では、人間だった時の教育・体験がヴァンパイアになった後でも影響を及ぼす様が描かれてますが、生まれた時からヴァンパイアとして教育を受けるとどういうことになるかとても興味があります。
平谷 >  ヴァンパイアは獲得形質ですから、遺伝しません(笑)
 ですからいわゆる新人類とは異なるんですよね。
 でも、ぼくは獲得形質が遺伝しないことには進化はあり得ないと思っているので、そのうち産まれながらのヴァンパイアも出現するかもしれませんね。
 ただ、1つの意識で1つの世界が発生するでしょうから、かなりややこしいことになるでしょう。
 自我の発生がどの時点で起こるかというのも問題ですね。
雀部 >  遺伝はしないけど、母体内で感染したら出産時には既にヴァンパイアの素質が。それを教育して目覚めさせるんです。遺伝によらない進化が起こるかもしれませんよ(笑)
 まあ、そのうちにミトコンドリアのように、細胞の中でヴァンパイア形質が共生関係するようになったら、遺伝するでしょう(細胞質遺伝)
平谷 >  ヴァンパイア感染は一種の「意識改革」ですから、はたして自我が形成される前の胎児に遺伝するかどうか……。
 あっ、以下ネタバレですが――。
 作中では明確な解説は書きませんでしたが、「銀の弦」と同じように、多重世界にまたがって存在している「自己」が、
どの世界を自分の世界とするかという選択の自由を得る――。
 それがヴァンパイアです。
 作品でそれが説明されないのは、理解しているのが隆宣とシャングラールだけだから。
 彼らは基本的に他者と意志の疎通をとろうとはしません。無意味だと言うことが判っているから。

 第3部に、「納得できるもできないも“この世界”のしくみはそうなっている」
 という台詞が出てくるんですけど、作者からのメッセージなんですよ。
 “この世界”というのは隆宣たちの世界であり、小説世界のことでもあるんです。
 そのまま文章を頭の中で映像化していただければ、1つのエンターティメント映画が脳内で展開する――。そういうお話なんです。
 深読みをしたければ、幾つも鍵を置いてありますので、別の読み解き方も可能ですけれど。
雀部 >  平谷さんのSF系著作を見返してみると、まあ根っ子のところに神が主題の《エリ・エリ》サーガ三部作がありまして、枝葉というか少し別の系列で、『ノルンの永い夢』『銀の弦』と『約束の地』『ヴァンパイア 真紅の鏡像』があると思ったんです。
 前者は“波動関数が収縮する以前(途中)の状態”の物語で、後者は“異質な存在同士は共存できるか”を追求した物語ではないかと思いました。だけどいまの説明ですと、なんとSF系の作品は根っ子が同じというかクロスオーバーしてるんですね。
 出版された時系列では『約束の地』→『ヴァンパイア』なんでしょうが、書き始められたのは『ヴァンパイア』のほうがずっと前ですよね、この異質な存在同士は共存できるか、いやできない、共存しない方が良いのではないかという考えはいつ頃からお持ちになっていたんでしょう。
平谷 >  ぼく自身もよく判らないのですが、すべてが脳で処理されているのだということを知った時ですかねぇ。
 それに歴史を見ても異質な者を排除し続けて淘汰された者たちが今生き残っているっていう感じでしょ。
 世界的な規模から個人レベルまで、人は異質を嫌うんですよ。
 特に一神教を信仰する人々にその傾向が強い。
 つまり、世界のほとんどが異質を疎外する社会である、と。
 まぁ、そんな中でちっちゃな共通点を見つけだし、なんとか理解しようと無駄な努力を続ける人類ってとても愛しいと思いませんか?
雀部 >  それが人間だと思いますね。
 そこからいうと、隆宣よりシャングラールのほうがまだ人間ぽいですね。
 また、超能力者やヴァンパイアには、彼等独自の生き方・規範があり、それを人間が推し量ることは出来ないとする諦念も根底にあるように感じました。これは拡大解釈すれば、例え人間同士でも、他人の生き方を理解するのは難しいということだということですね。
平谷 >  以前のインタビューにありましたね。
 「誤解によって成り立っている」というキーワード。
 他者の生き方を理解することは不可能です。
 自分の認識の範囲でほんの「少し他者と重なるのではないかと思われる部分」を頼りに、理解していると判断するわけです。
 とすれば、小説なんかもそうですよね。
 作者の意図は絶対に読者には伝わらない(笑)
雀部 >  「人間関係が上手くいっているということは、お互いの美しき誤解が根底にあるんだよ」ってヤツですね。
 SFなら、SF作家とSFファンは重なる部分がちょっとは多いのではないでしょうか。いや、多いに違いないと思いたい。SF作家は、SFファンのなれの果てという言葉もあることだし(笑)
平谷 >  ぼくは「いいSFファン」じゃないからな(笑)
 どちらかというと「作家」で読む人でしたから、光瀬龍氏、小松左京氏といった大先達の書いた、作品のファンということになるのかな。
 だからSFも非SFも、書きたいものがたくさんあるんです。
雀部 >  オールドSFファンは、そこらあたりの大御所の作品は必須教養ですから……
 第一部、ロンドンの雰囲気が好きなのですが、平谷さんは行かれたことはおありですか。
 緯度的には北海道より北なので、いくら気象的に暖かいといっても、なんかどんよりした空をイメージしてるんですが、その感じがよく出てました。
平谷 >  ロンドンとパリは大学時代にちょっとだけ旅行したことがあります。
 ロンドンは大好きな街です。
 オカルト風に言うと、前世ではロンドンに住んでいたのではないかと思うほどに、ロンドンの空気はシックリと肌に合いました。
雀部 >  クノッヘンブルク共和国は、ハンガリーとルーマニアに挟まれた小国との設定なのですが、そこだと緯度的には岩手より少し北なんですが、山国だということだし岩手県をイメージされましたか。
平谷 >  岩手はイメージしませんでしたね。
 ぼくの中にある東欧のイメージで書きました。
 もちろん、頭の中には鮮明に映像が見えていましたけど。
雀部 >  例によって見えていたんですね。
 岩手県の出版社から発行されている月刊誌『ラ・クラ』5月号から、「平泉夢想紀行」というエッセイの連載を始められたんですね。
平谷 >  歴史妄想話を史実や神話、民俗学などを絡めて書いています。
 とはいえ、「トンデモ」にならないスタンスで、現実的な解決にしてあります。
 一年間は「平泉」がテーマで、奥州藤原氏に関する一般に知られていないデータを元に書いています。
雀部 >  「ハレ」と「ケ」の入り交じる場所という考察は、非常に興味深かったです。
 東北地方は、SFの舞台としても登場しますが、『吉里吉里人』(岩手と宮城の県境あたり)『寒河江伝説』(山形)『戦争の法』(これは新潟か^^;)、全部日本から独立分離する話だ(笑)
 昔からそういう風土であるのでしょうか。
平谷 >  「ハレ」と「ケ」というより「清浄」と「不浄」と表現した方がよかったかなと。
 「ハレ」と「ケ」では「非日常」と「日常」的な意味合いになっちゃうと後から気付きました。
 なにしろ付け焼き刃なもんで(笑)
 奥州平泉&藤原氏を解き明かしていくのは――それに限らず、歴史推理の手法そのものとでも言いましょうか――SFを書く方法論にすごく良く似ているんです。
 色々な事実、文献などのパラパラなピースを組み立てて、今まで見たことのなかったものを作り出す。
 それが「歴史」であるか「科学」であるかの違いだなって。

 東北が独立する物語というのは、風土が生んだ必然だと思います。
 ずっと昔から現在に至るまで、東北は中央から蔑まれる対象ですから。
 中央の人々は「蔑んでなどいない」と言うかも知れませんが、「方言を笑いのネタにする」ということは「言葉、文化を否定する」ことであり、現在もごく当然のことのように行われている東北蔑視です。
 東北人の中にもそれを強く感じる人とあまり気にしない人がいますが、「東北人は寡黙だ」というイメージは「都会に行くと言葉を笑われるからしゃべらない」というところかに来ています。
 東北人は、地元では陽気ですごくお喋りなんですよ。
 東北独立の物語は、「東北人よ! 自信をもて! 誇りを持て!」という、東北人に当てた強烈なメッセージであり、心に深く刻まれた傷をひとときでも癒せる妙薬でもあると思うのです。
雀部 >  なるほど、私も仙台に7年間住んでいたのですが、寡黙だと感じたことはなかったなあ。
 最後に現在執筆中の作品、または近刊予定がございましたら、教えて下さい。
平谷 >  7月の中頃に、毎年恒例の「百物語」が出ます。今回は第7夜。
 単行本の予定ではないのですが、
 10月の後半から11月あたりから、ちょっと大きな仕事が始まります。
 まだ公表できないんですけど、かなりのチャレンジをする予定です。
 あっ、映画化なんて話ではないですから(笑)
 単行本も今年中にあと一本は出したいなと思っているのですが、プロットが通るかどうか。
 プロットやサンプル400枚ほどを預けてるんですが、現在結果待ちです。
 そうそう今年中にはブログを始めようと思っています。
ダン >  年を重ねて「百物語」ももう7年目ですか・・・。感慨深いですね
 私たちも歳をとるわけだ・・・。(苦笑)
 大きな仕事、、気になりますねぇ。なんでしょう?
 映画化でないならアニメ化とか?うううう・・・、知りたい・・・。
 「ヴァンパイア」あたりはOVAにしやすいと思うんですけどねぇ。
 これから立ち上げる予定のブログでがっちりチェックしておかないといけませんね。w
平谷 >  「ヴァンパイア」は実写で観たいです(笑)
 大きな仕事については、あとからナイショでメールします(笑)
 でも、聞いてもちよっと困ってしまうかも(爆)
雀部 >  『ヴァンパイア 真紅の鏡像』の実写版ですか、18禁になりますよね(笑)
 ブログ楽しみにしてます。
 今回で、著者インタビューは5回目の登場になりました。毎回お忙しいところありがとうございます。次回のインタビュー、楽しみにしてお待ちしてます。


[平谷美樹]
1960年、岩手県生。大阪芸術大学卒
2000年『エンデュミオン・エンデュミオン』で作家デビュー。同年『エリ・エリ』で第一回小松左京賞受賞。以後伝奇ホラー、本格SF小説、実話怪談シリーズを執筆。
2007年、中学教師を辞して専業作家となる。教師時代には夢だった憧れの平日釣行を果たすも、思ったほど釣果が伴わないのが目下の悩み。
[ダン]
都内某広告代理店に勤める傍ら、フライフイッシングをこよなく愛する中年男。女房と子供3人、そしてわんこと暮らしています。
現在は釣りのホームページ「フライだんだん亭」を運営しており、就業時間中もアクセスするため、そのうちリストラされるのではないかと怯える日々をおくっています。
「フライだんだん亭」には、平谷さんの愛犬の画像で載せてありますので、是非一度お立ち寄りください。(笑)
「フライだんだん亭」http://www2.odn.ne.jp/‾dun/
[しお]
中学時代、3年間美術担任が平谷先生でした。現在は都内在住です。
[雀部]
平谷美樹オンラインファンクラブ(http://www.sasabe.com/SF/hiraya/)
平谷美樹さんの肉声とインタビューがWebで聞けます。
「エフエム岩手 野遊びクラブ イーハトーヴ」
歌詠川物語2 作者平谷美樹さんを迎えて〜Part1
http://www.tsurishi.com/club/bangumi/2008_03_14.html
歌詠川物語2 作者平谷美樹さんを迎えて〜Part2
http://www.tsurishi.com/club/bangumi/2008_03_21.html

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