| TOP Short Novel Long Novel Review Interview Colummn Cartoon BBS Diary |

Author Interview

インタビュアー:[雀部]

『時間はどこで生まれるのか』
『時間はどこで生まれるのか』
> 橋元淳一郎著/原研哉装幀
> ISBN-13: 978-4087203738
> 集英社新書
> 660円
> 2006.12.19発行
 なぜ時間は過去から未来に流れるのか。なぜ過去は定まっているのに、未来は未知なのか。相対性理論や量子論などの物理学を踏まえたうえで、こうした素朴な疑問に答えた時間論。人間が日常的に感じる時間の性質を解き明かそうと試みた、人間的時間と物理学的時間を統合する、画期的な時間論。

『0と1から意識は生まれるか――意識・時間・実在をめぐるハッシー式思考実験』
> 橋元淳一郎著/ワタナベケンイチカバーイラスト
> ISBN-13: 978-4150503604
> ハヤカワ文庫NF
> 760円
> 2009.10.25発行
 超高性能コンピュータがあれば、プログラムで「心」を創れるか? なぜ時間は過去から未来に流れるの? そもそも時間って「実在」するの?既存の科学の枠を越えた世界を垣間見られる、面白すぎて目からウロコの極上科学漫才!(SFマガジン連載の『われ思うゆえに思考実験あり』改題)
0と1から意識は生まれるか

『時空と生命』
『時空と生命 物理学思考で読み解く主体と世界』
> 橋元淳一郎著/タケウマカバーイラスト
> ISBN-13: 978-4774140421
> 技術評論社
> 1380円
> 2009.12.1発行
 私とは何か。時間とは、空間とは……。これらは、古来、哲学者たちが何千年もの間考え続けてきた謎である。本書では、これらの謎に迫るべく、時間・空間・生命の関係を、物理学、生命科学、哲学の知見からときほぐしていく。

『時間はなぜ取り戻せないのか』
> 橋元淳一郎著
> ISBN-13: 978-4569775647
> PHP研究所
> 800円
> 2010.1.11発行
 誰でも一度は「過去に戻りたい」「時間よ止まれ」「未来を知りたい」などと夢想したことはないだろうか? だが、考えてみれば、当たり前のように流れるこの時間は、いつ、どこで、どのように始まったのだろうか? そもそも、我々の目に見えない<時間>とは一体何なのか?
 時間の謎は、物理法則だけでは解き明かせない。くしくも、カントが「時間は内観の形式である」と述べているように、その鍵はなんと生命の<意思>にあり、「意思とは何か?」を追究していく先に答えは存在する。むろん実証されたわけではない。あくまで仮説である。そんなことが科学的にいえるかどうか考えながら読み進めていただければ幸いである。
『時間はなぜ取り戻せないのか』

 前々号の続き)
雀部> 共通の時刻は無いというのは、特殊相対論でも出てくるのですが、SFファンにはお馴染みの概念ではあります。
 『時間はどこで生まれるのか』や他の本でも出てますが、光子(というか光)にとっては、距離は無限に縮退しているし、時間は無限に伸長しているので、距離とか時間は存在しないというのは、なるほどと思いました。ということは、光子の絶対質量が0であるように、寿命の長さも0であると考えても良いのですよね?
橋元> 我々の時間概念から言えばそうですね。ただ、光子の立場では時間間隔というものが存在しないのですから、たぶん光子にとっては寿命などというものは理解できないものでしょうね。
雀部> 思考実験としては面白いですよね。
 時間は人間の理性が生み出した後発的な概念であり、余裕のある生活(農耕など)になってから生まれたものであろうと考察されてますが、とするとその頃の我々の祖先は、成長とか老化という概念は持ち得たかも知れないが、それと時間の流れを相関づけるという認識はなかったのでしょうか。
橋元> あくまで想像にしか過ぎません。たぶんほとんどの人にとって、時間の流れなどというものを考えることはなかったのではないでしょうか。ただ、一部、暇があって妙なことを考える(つまり哲学をする)ごく少数の人にとっては、時間の流れというものを漠然と感じていたかも知れませんね。
雀部> 閑な人が学問を発達させると(笑)
 エントロピーが減少する(ひとりでに無秩序→秩序へと向かう)世界では、「意思」ではなく、自然法則が勝手に秩序を生み出すので、自然選択という進化の圧力が働く必然性が無く、我々のような「意思」を持った生命は存在しないということですね。
橋元> まさしく、その通りです。
雀部> ありがとうございます(笑)
 いわゆる“時間の矢”の問題については、本書だけではよく分からなかったのですが、『時空と生命』の「非因果領域に隠れていく未来」のところを読んで、少し分かってきました。極めて短い時間だが量子力論的には十分の長さのある“私に内在する時間の矢”の存在が、過去へと進む光(時間)の存在を隠しているということです。
橋元> まさしく、その通りです。このことはミンコフスキー時空の性質から直感的に分かることなのですが、そのようなことを言った人は、これまで誰もいないようですね。
雀部> 私のような凡人には、直感的には分かりません(爆)
 橋元先生は、「日本時間学会」の会員でもあられるとお聞きしたのですが、そこでは橋元先生の時間論は、どのように受け取られているのでしょうか。
橋元> 「日本時間学会」は成立してからまだ1年少しで、私も会員になってから半年少しですので、どのように受け取られているかまだはっきりはしません。ただ、内容的なことはさておき、先日、学会に参加して、多くの会員の方々から歓迎されていることは実感として感じました。
雀部> あ、まだ出来たての学会なんですね。歓迎されているということは、共感を持って迎えられているということでもあり、実りある学説と認定されていると考えられますね。
 続刊の『時間はなぜ取り戻せないのか』ですが、橋元淳一郎先生のお言葉通り、テーマが共通したこの三冊を続けて読むと、橋元先生の書かれていることがわかってきたように思います。第一章四項の「重力は感じる力ではなく見える力である」は、SFファンにはお馴染みの「無重力状態というのは無い。あるのは無重量状態だけだ」というフレーズと共通項がありますよね。
橋元> ええ、その通りです。
雀部> ひとつ思いついたんですが、月と地球の関係で起こる潮汐力(いわゆる大潮・小潮の変化の元)は、中性子星とかブラックホールに近づいたときには人体に顕著に感じられるほど大きくなるとされてますが、これは重力を感じたことにはならないでしょうか。
橋元> 本質的には同じことで、潮汐力そのものを感じているのではなく、体が引き裂かれようとする痛みを感じている訳です。もし伸縮自在の細胞で出来た人間だったら、体がひゅーと伸びるだけで、別に力は感じないでしょう。
雀部>

 なるほど。「ワンピース」のルフィ君は、潮汐力を感じないんだ(笑)

 第四章の「相対論とミンコフスキー時空」で、光の世界線上の点Aから原点のOまでの長さを0とする方法は良く理解できました。

 OAの時空長の2乗=(10i)‾2 + 10‾2 = -100 + 100 = 0

 時間か空間かどちらかの長さを虚数にしないと、0にならないんですね。

橋元> まったくその通りです。
雀部> 「細胞の秩序集団がエントロピー増大の法則にさからって、共鳴的に相互作用することによって、ミンコフスキー時空の時間軸方向に速度ベクトルが生じる。この時間軸方向(エントロピーが増大する方向)の動きこそが、生命の主体的意志である」という仮説と「主観を持つ、すなわち主体的意志を持つということは、空間的なシステムとしては現れず、時間の流れとして我々生命の内に立ち現れてくる」=「時間の流れこそが実体であり、生きるということなのである」というところも、ストンと腑に落ちました(笑)
橋元> よく理解頂いています。まさにその通りです。
雀部> 第六章の「時間の流れと主体的意志」に出てくる“ファインマンの経路積分”と「我々生命はエントロピー減少の宇宙を(存在するにもかかわらず)見ることがない」のだという主張も面白いですね。ということは、ミンコフスキー時空における非因果領域も、同じことですね。
橋元> その通りです。ただミンコフスキー時空の非因果領域は存在することが確実ですが、エントロピー減少の宇宙は、存在するのかしないのか、今のところは分かりません。そういう意味では、多世界宇宙に近いのかなと思います。
雀部> ご著書の『時空と生命』では、『時間はどこで生まれるのか』と『時間はなぜ取り戻せないのか』の二冊の内容にプラスして、生命や主体的意思についても考察されてますね。
 その中でも最大の考察が、なぜエントロピー減少の宇宙が存在しない――見ることが出来ない――のかという点だと思いました。それは、第五章の最終項に書かれているので、これはひとまず置いておいて、順番に行かせて下さい(笑)
 第二章5項「自己意識の進化と大脳のモジュール群」のお話は、以前のご著書でもある『人類の長い午後』でも出てきましたよね。言語の使用によって五つのモジュール群が相互乗り入れを始めて、<社会的知能>のモジュールに留まっていた自己意識が、他のモジュール群にまで及び始めたのが、文明と文化の出発点と考えられるわけですね。
 それと物理学や数学の発達により、人間が直接知覚できない光の速さの絶対性とか複素数を使った理論により、物質や宇宙についての理解が深まっていったと。そうすると、言語や数学(音楽も?)以外に、非因果領域とかエントロピー減少宇宙を記述する記号が編み出されたら、もっと別な方向からのブレークスルーが起こる可能性があるのでしょうか。
橋元> それは充分ありうると思います。ただ、新しい知の手法というものは、そう簡単に生み出すことが出来るものではありませんから、現段階では可能性はあるということ以上のことは言えないでしょうね。
雀部> わずかながら可能性はあると。
 生殖による子孫存続の手段を持たないバクテリアが、動物よりはるかに強く生を求め死を恐怖するであろうという考察は目から鱗でした。確かに、単なる有機物のスープから散逸構造あるいは複雑系としての小胞が生まれ消えていったに違いありませんが、そこから自然選択によって、能動的に秩序を保つシステムを備えた小胞が生き延び増殖するにあたり生き延びることに快感を見出せるなら、それは大きな力となるに違いありません。
 橋元先生の小説に登場する<モネラ>君たちも、快不快の感覚を持っているんでしょうね(笑)
橋元> もちろんです(笑)。彼らは快不快のみならず、もっと高度の感覚と知性を持っているのです(笑)。
雀部>
エントロピーの等高線と、最大傾斜を登るグラディエント・ベクトル

 <モネラ>たちの活躍は、『神の仕掛けた玩具』で読めます(笑)
 色々な変化を伴うエントロピー模様の中で、“主体的意思が、エントロピーの山を、もっともきつい勾配のルートを選んで、上へ上へと登っていくのが、生きるという意味である”という考察もなるほどと思いました。人間が極めて困難な仕事をやり遂げたときに大きな満足感を得るのは――困難な仕事=エントロピーが増大――という側面もあるのではないかとも思いました(笑)

橋元> それは、まさしくその通りですね。破壊はたやすく、創造は困難です。エントロピー増大は破壊であり、エントロピー減少は創造なわけです。
雀部> 最後に、“人間が、エントロピーが減少したり、さほど増大しない別宇宙を認識しないのは、主体的意思によってエントロピー増大の方向を選んでいるからである”というのも良くわかりました。それが見えるなら、生存競争を勝ち抜いてきた生命じゃないんですね(笑)
 あ、主体的意思を持っていなそうな植物は、もし意思疎通ができたらどういう世界観を持っているか興味がありますね。なんか人間にとって得るところが大きいような気もしますが、基本的に理解不能でしょうね(笑)
橋元> 植物は、我々にとってなくてはならない生命であり、現在の地球環境を守る正義の味方といってもよい存在ですが、主体的意思という観点から言うと、彼らは怠け者なんです。植物の中で一所懸命働いているのは、かつての居候である葉緑体だけであって、その他の部分は、不況下における天下り官僚のごとく、エントロピー増大の恐怖をほとんど感じることなく、のうのうと暮らしているのです。だから、植物の世界観というのは、体験してみると多分、じつに退屈なものではないかと想像します(笑)。主体的意思を失っているのもむべなるかなという気がします。そんな存在だからこそ、我々は植物をどんどん育てて、どんどん食っていくことに、何の罪悪感も感じる必要はないわけです。鶏や肉牛では、そうはいきません。だから、どんどんと野菜や果物を食べまょしう。ベジタリアン万歳!(笑笑笑)
雀部> もし、人間が葉緑体を持っていたら、文化・文明は無かったということですね。
 橋元先生、今回はお忙しいところインタビューに応じて頂き、たいへんありがとうございました。
 執筆中の本、または近刊予定などございましたらお教え下さい。
橋元> こちらこそ、ホラ話にお付き合いを頂き、ありがとうございました。近刊は、あまり面白くありませんが、講談社の単位が取れるシリーズ『力学演習帖』です。とはいえ、遅れに遅れて、つい2,3日前にようやく脱稿したところです。ついでですが、秋からは、「朝日カルチャーセンター」(梅田)で、「西暦3000年の世界」を開講します。これは『人類の長い午後』をベースにした講座です。大阪近郊の方々、よろしくお願い致します。
雀部> 「西暦3000年の世界」とは、楽しみなお題目ですね。一度は聴講に行きたいものです(汗)


[橋元淳一郎]
1947年、大阪生まれ。京都大学理学部物理学科卒業後、同大学院理学研究科修士課程修了。SF作家・相愛大学人文学部教授。日本SF作家クラブ会員・日本文藝家協会会員・ハードSF研究所所員・日本時間学会会員。また、わかりやすい授業と参考書で、物理のハッシー君として受験生に絶大な人気を誇る。
主な著書に、『時間はどこで生まれるのか』(集英社新書)『われ思うゆえに思考実験あり』『シュレディンガーの猫は元気か』(以上、早川書房)『時空と生命』(技術評論社)など多数。
ホームページ
[雀部]
泥縄のにわか時間論ファン。そうとう頭のトレーニングになりますね(笑)
橋元淳一郎先生のオンラインファンクラブ管理人
『神の仕掛けた玩具』著者サイン本、こちらから入手可能です。

トップ読切短編連載長編コラム
ブックレビュー著者インタビュー連載マンガBBS編集部日記
著作権プライバシーポリシーサイトマップ