
百夜のもとに舞い込んだ新たな依頼は、何者かに憑かれ、正気を失った名主の次男の除霊だった。
百夜の心眼は、名主の家を取り巻く黒い霞のようなものを見るが、それは単なる付喪神の仕業ではなさそうに思えた……
インタビュー中に出てきた関連本の情報はこちらにあります→「平谷美樹先生著者インタビュー関連本」
今月の著者インタビューは、5月に『貸し物屋お庸謎解き帖 絵草紙と隠金』を出された平谷美樹先生です。今回もよろしくお願いいたします。
大和書房で6冊目、その前の招き猫文庫(白泉社)の4冊を加えると丁度10冊ということですね。
そうなんですよね。11巻目が出れば、「百夜百鬼夜行帖」をのぞいて、一番長いシリーズになりますか(笑)
そう言えば、エフエム岩手の「夕刊ラジオ 月曜ブックシェルフ」に度々投稿されているウルフ野郎さんも、遡って白泉社の《貸し物屋お庸》シリーズを購入されたとか、以前に阿部アナが紹介されてましたね。
ウルフ野郎さんは正座してラジオを聞いて下さっているそうで。
ありがたいことです。
ファンの鑑ですよね。
ウルフ野郎さんのSNSの投稿に、一昨年に妊娠されてそれから忙しく、ラジオを聴くのが心の癒やしになっているという主旨の記述がありました。
さて、恒例の新刊を出された際のエフエム岩手「月曜ブックシェルフ」へのご出演、今回も聞かせて頂きました。
なんと腰椎すべり症を患っていらっしゃるとか。うちのカミさんも、脊柱管狭窄症で腰が痛くなって、結局手術しました。
色々病を抱えているので、手術はせずに、投薬とリハビリで押さえ込みましょうと言われています(苦笑)
それでも、痛みはなくなって、痺れとちょっとした麻痺が残っているだけですから、気長に治療に励みます。
執筆も、何気に腰に負担がかかりますからご自愛下さいませ。
今回の朗読は、『貸し物屋お庸謎解き帖 絵草紙と隠金』の中から「風鈴を三十」でした。その朗読なのですが、スタジオに朗読用の下書きを書かれて持って行かれていて、いつもは適当に編集してらっしゃるのですが、今回は付け加えた部分があって「ほぉ~」と思いました。
以前はほとんどそのまま読んでいたのですが、地の文がうるさいのでセリフとセリフの間はカットしていますし、耳で聞いて判るように、チョコチョコ手を入れています。 文字で追うのと耳で聞くのは違いますんで。
なるほど。
で、今回ついに、平谷先生の朗読のお相手にして一緒に文士劇にも参加された良き理解者、エフエム岩手の阿部アナウンサーにご参加頂けることになりました。
阿部さま、初めまして。よろしくお願いいたします。
はじめまして。よろしくお願いいたします。 平谷先生とは、2018年の盛岡文士劇で初共演してその際に初めてお会いしているので…もう7年のお付き合いです。
今回インタビューにお声がけいただけて、光栄です!
ということは、文士劇での共演時に、夕刊ラジオへのゲスト出演のお話しがまとまったのでしょうか。
おそらく共演して仲良くなって(語弊があるかな?)、私から「出演しませんか?」とお声がけしたのだと思いますが、いつどのタイミングだったかは忘れちゃいました。
それからは新刊を出されるたびにゲストに来てくれているのですが平谷先生は発売タイミングが早いんですよ!どんどん出版されるので、もうほぼ準レギュラーです(笑)
語弊はないです! なかよくしていただいています。
いや、わたし自身は阿部アナのファンで、リスナーの1人なので、ほかのリスナーさん達に悪いなと思いながら仲良くさせてもらってます(笑)
リスナーのみなさんも平谷先生のことを「リスナー仲間」だとわかっているのでそこは大丈夫かと(笑)
去年の盛岡文士劇、阿部アナのレポートがあります(平谷先生のお姿も)。
文士劇には、参加しての面白さもあると思うのですが、どうでしょうか。
台本を自分ひとりで黙読したときと、出演者で顔を合わせての本読み(演技はナシで台本通りに声を出してみんなで読んでいく作業)のとき、さらに日が経って立ち稽古をするとき…どんどん印象が変わっていきます。お客様に観ていただくものが完成形になるのですが、出演者みんなで作るものですから「いきもの」なんですよ演劇って。だから面白いです。
面白そうではありますが、出演は素人にはハードルが高いです(汗;)
放送の中で平谷先生は、“芝居っ気はない。朗読は演劇と違って暗記しなくても良いから好き”とおっしゃってましたね(笑)
ところで、《貸し物屋お庸》シリーズの一番の魅力は何だとお思いでしょうか。
お庸ちゃんの人柄、だと思います。好奇心が強くて、まっすぐで、情に厚くて…。
だけどホントに口が悪い(笑)いつも朗読でお庸ちゃんを読ませてもらうので口の悪さは黙読したときよりもハッキリとわかります。でも、そこも含めてお庸ちゃんなんですよね。
凄くバランスがとれている気がします。口の悪いお庸ちゃん、大好きです!
《百夜・百鬼夜行帖シリーズ》の百夜は、口が悪いと言うよりもぶっきらぼうかな。
《草紙屋薬楽堂ふしぎ始末》の金魚は、口が悪いです(笑)
黙読と音読や朗読では少し違うと思うのですが、平谷先生は語感などにも気をつけて書かれているのでしょうか。
百夜は江戸の若侍の霊の口を借りていますんで武家言葉です。
お庸の口の悪さについては、理由がありまして(笑)
そろそろ謎解きをと思っています。
お庸の言葉は、大工など威勢のいい兄さんたちの言葉。
薬楽堂の金魚は元遊女ですから、男を手玉に取ってきたお姐さんの言葉。
ただし書き言葉ですので、黙読して判りやすいようになっています。口に出してみると、説明的でちょっと違和感があったりする部分はありますね。
小説なので説明が入るのは致し方ありません(笑)
お庸の口の悪さの謎解きが、待ち遠しいです、
百夜が霊の口を借りてしゃべっていることは毎回すぐに忘れてしまいます(汗;)
「紅い紐球」でも、“左吉の子供じみたからかいを不快に思う百夜もまた、それを許す大人心に欠けているのだった。”とあったので、「修羅場をくぐっているとはいえ、まだ百夜は少女だったよな」と感慨を新たに。←そこも忘れていた(汗;)
平谷先生からは“お庸の口の悪さを嫌う人はけっこう居る”ともうかがっているのですが、大和書房の担当編集者の長谷部さまからも“情にあつくて知恵もあり、美形で口が悪い、しかも純情、というのは女性読者から見ても応援したくなるのでは”と。
私なんかは、もうほとんど孫娘を応援する気持ちで(笑)
平谷先生の著作に出てくる女性主人公は、だいたい気が強くて頼りになるけど、恋には奥手(笑)男目線(SFファン)だと、大好物なキャラ設定なんです(汗;)
それは平谷先生の大好物でもある…ということになるのかしら(笑)
よくラジオで私も話すのですが、平谷先生の作品に出てくる女性は芯がしっかりしてるんですよね。凛としてたり、気が強かったり、いろんな見え方をしますけど。私はイイ女だなぁと思って読み進めることが多いですけれど、そうか…あの口の悪さを嫌う人もけっこう居るのですね。勉強になります。
大好物ですね(笑)対等に話してくれないと面白くない。
でも、わたしが湊屋両国出店の客だったら、お庸と何度も喧嘩してるだろうな(笑)
喧嘩しても常連になって、喧嘩することが楽しくなってるかも。
私もです。きっと喧嘩してます(笑)最終的には何でも相談できてしまうような間柄になりたいなぁ…妄想ですが。
保護者目線でしか見られないのですが、お庸ちゃんは危なかっしくて心配です。それはやっちゃダメとかすぐ言いそうです(汗;)
では、今回の『貸し物屋お庸謎解き帖 絵草紙と隠金』の中ではどの短編がお好きでしょうか。私は話が大きい「絵草紙と隠金」です。まあ大がかりな話はおしなべて好きなのですが(汗;)
大がかりなお話、いいですよね!私は「十六文の貸し物」にグッときました。
人の想いが交錯するお話に引き込まれますね。
ですです。
『貸し物屋お庸謎解き帖 絵草紙と隠金』の中では、題名は秘しますが、生まれずに亡くなったお庸の姉「りょう」の出てくる話は、なぜそういった現象が起きたのか、またそうせざるを得なかった理由は?と論理的に謎解きがあり、(元)SF作家でもある平谷先生の真骨頂ではないかと思いました。
冒頭で「11巻目が出れば、一番長いシリーズになる」とうかがったので「はて10冊続いたシリーズって何だっけ」と思ったら《風の王国》シリーズが全十巻でした。
《風の王国》は、それまで全く知らなかった渤海が舞台で面白かったです。
あれはシリーズというか、「全10巻で」と言われて書いたものですから、実質、1巻みたいなものです(笑)
あれって、実は1巻ものだったのか(汗;)
で、『紅い紐球 百夜・百鬼夜行帖』(2025/3/21)がシリーズ110話目ですね。
何やら含みのある結末になっていますが、これは続編があるのでしょうか。
縄文時代の遺跡から見つかる、朱漆で塗り込められた紐の束を見た時にいつか菊理媛と絡めようと思っていたんです。もう十数年前かな。これからも縄文や弥生がらみの話は書きたいと思っているので、いつかリンクするかもしれません。
その年代が題材になった平谷先生の作品というと『精霊のクロニクル』(2009)を思い出しますね。
そして、菊理媛神というと伊弉諾・伊弉冉の話との関連しているので、もっと前の神話時代の話になるのでしょうか。
菊理媛というのは、はっきりした神格というか役割が判らないのですが、名前を聞いた時に、若い女性の横顔が頭に浮かんだんですよ。
今、まさに亡くなろうとしている病人から苦しみや痛みや、悔恨を聞いて、それを丁寧に、丁寧に赤い糸でくくっていく――。
そういう役割の人物として描いてみたいなと。まだストーリーは思いついていませんが。
今、構想している小説に使えるかもしれないなとは漠然と考えてます。
新たな人情物のベースになりそうですね。
最近アマゾンのお薦めに『安倍宗任伝 前九年・後三年合戦』(2025/7)が出てきます。
これは以前におうかがいした新聞連載小説ですよね。もう一人「津軽為信」も。
『安倍宗任伝』は、太宰府に流された後の話も出て来ます。九州には、宗任が後三年の役に出兵したという伝説が残っているんです。後の藤原清衡と共に戦ったのだそうで。それを元にして「後三年の役」のパートを書きました。
津軽為信は、少年時代編をそろそろ本にすべく画策しようかなと。
そうか!ということは平谷先生にそろそろゲスト出演のお願いをしなくては!
先生の教え子リスナーさんをはじめ、たくさんの方が新刊を待っていると思うので!
よろしくお願いします。
「月曜ブックシェルフ」では、プレゼント本が届いたというリスナーさんからのメールも読んでくれるので、反応が判って嬉しいんですよ。「読んでくれる人がいる」っていう実感があって。
平谷先生がラジオを聴いてくれてるとわかっているから、というのもありますが(笑)
「プレゼントが届きました!嬉しい!大事に読みます!」というリスナーさんの想いはメッセージに乗っかって私に届く(託される)ので、それをきちんとお渡ししないと。リスナーさんにも先生にも失礼だし、ラジオ番組ってそうやってみんなで作っていくものなので。
みんなで作っていくのは大変そうだけど、やりがいもありそうですね。
そういえば雑誌「rakra(ラ・クラ)vol.128」に平谷先生が連載されているエッセイ「さんりく巡礼」、最終回でした。
長い旅でしたが、やっと終わりました。被災地は瓦礫こそなくなりましたが、雑草の生い茂る空き地が目立っています。
人口減少の問題は、被災地だけのものではありませんから、みんなで考えて行かなければと思います。
お疲れ様でした。その長い旅を経て、得たものがまた作品に活きるのでしょうね。
私の信念の一つに「大切なのはできるかできないかではなく、やるかやらないかである」というのがありまして。みんなで「どう動こうか」というところまで考えて、行動に移すところまでもっていけるように、微力ながらラジオから発信していきたいです。こう言うと堅苦しいですが(笑)
うーん。「やるかやらないか」。わたしの執筆もそうだなぁ。どう考えても千枚超えになると判っている作品に取り組む時なんか、資料集めやらプロットの構築やら気が遠くなって、「できるかな……」と、気弱になることがあるんだよね。
誰も信じてくれないだろうけど(笑)
けれど、「やるか、やらないかなら、やるしかないでしょ」で「よっこらしょ」と取りかかる。
すると、面白くなって来て、資料を読み込んでいると新事実も出て来て、色々なことと繋がって、さらに面白くなって。それでずっとワクワクが続く中、いつの間にか物語が終盤まで書き上がっている――。
ラクラで学んだのは「いかに生きるか」だったような気がします。
インタビューをした人たちは、みんな、「自分が出来ること」をしていました。
あの災厄の日以来、ずっと「自分にはなにもできなかった」というのが引け目になっていたのだけれど、「自分が出来ること」つまり、物語作りの中で、旅の中で気付いたことを説教臭くなく提案しているつもりです。
それで、今は引け目がずいぶん薄くなった気がします
平谷先生と阿部アナウンサーには共通した想いがあるのですね。
平谷先生がエッセイの中で特定非営利活動法人SETの活動の紹介と同時に、“被災地の復興には、内陸の市町村の問題解決の大きなヒントがある。”とされていて、更に“「今やりたいこと」を胸に秘めている人たちはどの町にもたくさんいる。だが、秘めているだけでは、何も起こらない。動き出すことが必要なのだ。”と書かれていて、心にしみました。まあ私に出来ることはちょっぴし寄附をするくらいなんですけど(汗;)
もう一つ、平谷先生のエッセイに載っている著者近影、なんかハードボイルド風で格好良いです。
「ラクラ」のカメラマンさん、毎回かっこいい写真を撮ってくれます(笑)
わたしとしては面はゆいのですが、今回撮ってもらった写真、何枚かいただきました。
これからの著者近影とか、遺影に使おうと思って(笑) (著者近影はこちら→)
遺影はまだ早…でも本当に素敵だから使ってもイイかも(笑)
すごくキマってますね! 写真って私はどうも苦手なので、羨ましいです♪
今回はさおりんが入ってくれたので、なんだかいつもよりやる気が出ました(笑)
いやいや、いつも平谷先生はやる気に満ちてますけどね!…こんど高級なお菓子を携えて遊びに行きます(笑)
阿部アナが遊びに来てくれる日を楽しみに、仕事をします(笑)
(笑)
岩手県は同級生が何人か開業しているしで、勝手に親近感を抱いております。一人は岩手県カーリング協会の理事長をやってます(親友です(笑))
平谷先生と阿部アナウンサーのコンビのご活躍に期待します。
平谷先生の新作も期待してお待ちします。