カテゴリー別アーカイブ: 創元SF短篇賞関連

高島雄哉先生関連

「ランドスケープと夏の定理」第5回創元SF短編賞受賞作(門田充宏「風牙」と同時受賞)  天才科学者である気の強い姉に、なにかにつけて振りまわされる「ぼく」。大学4年生だった夏に日本でおこなわれた「あの実験」から3年、「ぼく」はまたしても姉に呼び出された。向かった先は宇宙空間――ラグランジュポイントL2に浮かぶ国際研究施設。姉はそこで、宇宙論に関するある途轍もない実験を準備していた……。ゲスト選考委員・瀬名秀明が「(日本SFの歴史を)次の50年に受け渡す傑作」と驚嘆した、新時代の理論派ハードSF。 《機動戦士ガンダム 水星の魔女》 高島先生がSF考証をされている、現在絶賛放映中の《機動戦士ガンダム 水星の魔女》。 高島先生が「cakesに連載された考証についての記事」もかつてはあったのですが、cakesは2022年8月31日に終了したため、《機動戦士ガンダム 水星の魔女》で設定考証をされている白土先生の記事の紹介です。 「レイコの部屋」傑作選 vs.白土晴一さん(設定考証・リサーチャー)-WEB東京創元社マガジン これもとても面白くて、知らなかったこともいっぱいでした(汗;) 「レイコの部屋」

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門田充宏先生著者インタビュー関連本

《記憶翻訳者》シリーズの粗筋は、最初から順番に読んで頂くと分かりやすいと思います。 粗筋は、ネタバレも考慮して、門田充宏先生の「公式サイト」の「WORKS」から大幅に引用してます。雑誌掲載短編、Web掲載短編の粗筋も、公式サイトの「WORKS」にあります。 「風牙」門田充宏著 2014.8.8、東京創元社、Kindle版、220円 第5回創元SF短編賞受賞作 主人公の珊瑚は過剰共感能力者で、彼らは他人の感情に共感しすぎてしまう特異な体質のために、社会生活に支障をきたしてしまっている。珊瑚は、他人の感情と自分の感情を区別できないレベルの能力者故に、過剰共感能力を抑制するインプラントの助けを借りるまで、自我を発達させることが出来なかった過去を持っていた。生きづらさを抱える彼らの共感能力を生かし、本来はその持ち主にしか理解できない記憶を第三者にも分かるようにする“記憶翻訳”の技術を開発したのが九龍という企業だった。珊瑚はその中でもトップクラスの実力を持つ記憶翻訳者に育った。 『風牙』門田充宏著、しおんカバーイラスト 2018.10.31、創元日本SF叢書、2200円、Kindle版1935円 収録作:「風牙」「閉鎖回廊」「みなもとに還る」「虚ろの座」 この『風牙』は、以下の二冊に、改題・分冊・増補されて文庫版になっています。 『記憶翻訳者 いつか光になる』は、「風牙」「閉鎖回廊」+「いつか光になる」「嵐の夜に」 『記憶翻訳者 みなもとに還る』は、「みなもとに還る」「虚ろの座」+「流水に刻む」「秋晴れの日に」 『記憶翻訳者 いつか光になる』門田充宏著、日田慶治装画 2020.10.23、創元SF文庫、Kindle版、920円 「風牙」 インタープリタとは、個人個人によって独自のものである人の心から抽出した記憶データを“翻訳”し、他者に理解可能なよう立体的に再構築する技能者である。業界トップレベルの女性インタープリタである珊瑚が受けた仕事は前例のないものだった。”潜行”する先は、彼女自身の会社の社長の記憶。しかし珊瑚に先立って送り込まれたインタープリタ3人が、何れも社長の記憶の中で正体不明の存在に襲撃され病院送りとなっていた。社長の記憶世界でいったい何が起こったというのか。珊瑚は”統合サポートシステム”の孫子と共に、社長の記憶世界にアクセスする…… 「閉鎖回廊」 珊瑚のもとに、かつて共にインタープリタの導入研修を受け、今はトップクリエイタとなっている由鶴から奇妙なメッセージが届く。「お願い、今すぐ〈閉鎖回廊〉を止めて」。自分が作成した、疑験都市〈九龍〉で最大の人気を誇るコンテンツ、〈閉鎖回廊〉を由鶴は何故止めろと言ってきたのか? 連絡が取れない由鶴の事務所を訪れた珊瑚は、主のいない開発室で、由鶴の過去を巡る九つの記憶が保存されたモジュールを発見する。 「いつか光になる」 九龍の新しい事業、プロモーション用記憶翻訳。その提案者でもあり、記憶データ提供者でもあるハルには人生を賭けた密かな目的があった。ハルと共に新規事業に取り組む珊瑚は、その過程でハルと人生の一部を共有していく。ハルが目指していたものは、そしてその結末は…… 「嵐の夜に」 台風で電車が止まってしまった夜、珊瑚はハルと共にオフィスに泊まることになってしまった。嵐の中、少しだけぎくしゃくしていた二人に訪れる、静かで暖かな時間が…… 『記憶翻訳者 みなもとに還る』門田充宏著、日田慶治装画 2021.2.12、創元SF文庫、Kindle版、950円 「流水に刻む」 疑験都市〈九龍〉の第二階層、二狐。ファンタジイ世界を再現したこの階層に、本来登場しないはずの人間ー少年のNPCが出没する。少年は九龍側の制御を受け付けず、自由に二狐内を行動していた。珊瑚はプレイヤーのひとりとして光の妖精となり、同じくミノタウロスとなった上司の眞角と共に、少年を捕らえるために全力で鬼ごっこを繰り広げることに。果たして少年の正体、そしてその目的は。 「みなもとに還る」 レビューを依頼された疑験都市コンテンツの中で、珊瑚はうなじからどこまでも長く伸びる〈結びの緒〉を生やした子供、マヒロに導かれ、母と名乗る存在と出会う。もういないと聞かされていた母の存在に動揺した珊瑚は、導かれるように〈仮集殿〉と呼ばれる場所へと赴く。そこは、過剰共感能力者たちが肩を寄せ合って暮らす、〈みなもと〉という名の組織の本拠だった…… 「虚ろの座」 探偵の調査結果に従い、私は共感能力を礼賛する新興宗教団体、〈みなもと〉へと入信する。それがただひとつ、失った妻と子へと繋がる道だと信じて。だがそこで私を待っていたのは、考えてもいなかった出来事だった。 「秋晴れの日に」 珊瑚は二ヶ月ぶりに〈みなもと〉の仮集殿を訪れ、都や真尋と再会する。珊瑚には密かに心に決めた、小さな目的があった。 (著者談:こちらは「みなもとに還る」の後日談であり、珊瑚の決心の物語でもあります。) 『追憶の社』門田充宏著 2019.5.11、創元日本SF叢書、2585円、Kindle版1834円 収録作品: 「六花の標」 珊瑚が翻訳した記憶データが、ネット上に無制限に公開され始める。急死した料理研究家・雪肌女の最後の日々と、彼女と一緒に暮らしていた少年・仁紀の記憶――それが雪肌女の遺志だからと、仁紀は自分にとって大切な日々の記憶を公開し続ける。その結果、他人の記憶を覗き見ることを楽しむ人間が多く出る一方、記憶データの翻訳自体や、サービス提供元である企業・九龍に対する批判までが起こるようになってしまう。珊瑚は九龍と仁紀を護るため、雪肌女の本当の意図を探ろうするが…… … 続きを読む

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『就職相談員蛇足軒の生活と意見』松崎有理著、ヒグチユウコ装画

’14/5/31、角川書店、1600円 博士課程修了したものの巷に博士号が溢れているこのご時世、就職できず職安に通う理系女子シーノ。ふと街角で見つけた求職案内に応募し、腰かけのつもりで嘘道家元・蛇足軒の秘書になってはみたものの…… 以下、帯の煽りから引用 シーノ: 27歳女子。〈北の街〉の大学院で博士号を撮るも研究室を追い出され、話の冒頭では無職。コミュ障寸前のシャイな性格&妄想癖あり。職安特命相談員蛇足軒の秘書となるが、腰を据える気はなく引き続き研究者として休職中。 蛇足軒: 〈北の街〉の旧市街に屋敷を構える。〈嘘道〉の家元として日夜実益のかけらもない嘘について思索する一方、〈職安特命相談員〉としてさまざまな難あり求職者に適職を与えてきた。めっぽう甘党で、老舗「あまんざ」の菓子をこよなく愛する。 いちゃぽん: 蛇足軒の飼い金魚。巨大。丸いものならなんでも食べる。 黒耀斎: 蛇足軒のライバルかもしれない。嘘道の秘伝書を狙っているのかもしれない。 「懇切、ていねい、秘密厳守」では不死身の青年が、「悲しき食糧難」では、人間の血を吸いたくない吸血鬼が、「三秒の壁」では三秒後を予知できる能力者が、「人工の心」ではAI搭載自律型掃除機が、「博士浪人どこへゆく」では、 ついにシーノ自身と黒耀斎の就職が語られます。 なぜ、その特殊な能力をもった求職者の就職がうまくいかないか、そしてその驚き(しかも納得)の解決法が見所です。 特に「人工のこころ」の〈ぽにい〉は可愛らしくて萌えます(笑)作者も気に入っているとみえて、次の章にも登場してますねえ。 不思議な、しかしあったかいほのぼのした気持ちになれるお薦めの連作短編集です。

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『筺底のエルピス』オキシタケヒコ著

『筺底のエルピス―絶滅前線―』オキシタケヒコ著、toi8イラスト ’14/12/23、小学館ガガガ文庫、593円 ヒトに取り憑いて人間を殺しまくり、殺されれば(死ねば)死因の因果関係の一番強い相手に乗り移り更にパワーアップして殺戮を繰り返す、「殺戮因果連鎖憑依体」――通称「鬼」。それに対抗し狩る人類側の組織は《門部》呼ばれる。彼らは、通常人には判別不能な鬼のオーラを見ることのできる眼〈天眼〉と、ある範囲内の時間を停める柩〈停時フィールド〉を自由に操る二つの特殊能力を持っているのだ。 「殺戮因果連鎖憑依体」と「封伐員」の設定が絶妙。また《門部》の封伐員のキャラ設定も上手い。どうして封伐員になったか、戦うモチベーションはどこに由来しているかが、ウザくならない範囲で感情移入できるように書かれてます。このバランスの妙が凄いなあと。厳しい戦いの中で、圭と叶が現実と折り合いを付け、頑な心を溶かしていく様の描き方も秀逸で、読み応えがあります。  著者インタビューをお願いしたいところではありますが、創元日本SF叢書から処女短編集が出るような気がするので、それからの方が良いのかなあ……  以下、ネタバレにつき白いフォントで書きますので、反転させてお読み下さい。  一番の設定の妙は、取り憑いた『鬼』の封伐方法。本体は人間を凶暴化し殺戮衝動を起こさせるアーカイブのようなもので、人類が存在する限り誰かに取り憑くという鬼畜設定。対象を殺した封伐員に取り憑いてまた悪行を働かせるので、これを封伐員ごと遙か未来に送り込み、消去する。なぜなら、未来では人類がとっくに絶滅してアーカイブが取り憑く相手が居ないからという…… なぜ未来に送るかという疑問に答えると同時に、人類の行く末も提示するという仕掛け、思わず、う~むお主やるなあと唸りました。いわば定められた負け戦の終末を、幾ばくでも未来に延ばすために彼らは戦っているのです。泣けますねえ。  あと、《門部》の党首代行にして伝説の停時フィールド〈久遠棺〉の使い手、阿黍という圭の師匠がいるのですが、なぜ彼が〈久遠棺〉を封印したかが、物語の展開に大きく関わっています。なるほど、封印というか、確かに使えなくなるわけだ。この設定も上手いぞ!  『筺底のエルピス』の“エルピス”とは、「希望」という意味。あの“パンドラの箱”の奥に残った「希望」ですね。まさにこの本全体の有り様を示した秀逸な題名。また“筺”は停時フィールド“柩”に通じていると思います。  また封伐員の使う特殊能力を、『天眼』と停時フィールド『柩』に限定したところ。これは各人で形態と運用方法が違うんですが、その様々な使い方が面白い。SF好きなら、ポンと膝を叩くこと間違いなし。能力を限定しない方が色々バリエーションを得られるので発想が広がるという一面はあるのですが、敢えて限定した中で工夫する面白さというのは、確かにSF的ではあります。  ラノベ的には、ヒロインはすべからくツンデレというところは外してませんし、ラノベが好きな方にもSF好きにもお薦めできる作品にしあがっております。続刊、刮目して待て!(出してね>ガガガ文庫)

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『うどん キツネつきの』高山羽根子著

『うどん キツネつきの』高山羽根子著、クリハラタカシカバーイラスト ’14/11/28、創元SF叢書、1700円 第一回創元SF短篇賞佳作 収録作: 「 うどん キツネつきの」 「シキ零レイ零 ミドリ荘」 「母のいる島」 「おやすみラジオ」 「巨きなものの還る場所」 創元社のサイン本販売でゲットしました。サインの左横のうっすらしているのは、同梱のお名前にちなんだ”鳥の羽根”です。 『原色の想像力 1』の項でも書きましたが、まあヘンテコな小説です。もちろんSFにおいてヘンテコというのは誉め言葉なんですが。ベイリー氏みたいなお馬鹿な(これも誉め言葉)話とはちょっと傾向が違いますが、変な話ということでは共通点があるのかな?(笑) インタビューさせて頂くことが出来たら、そこらへんも聞いてみたいと思います。  以下ネタバレが入ってますので、fontの色を白に変えてます。反転させてお読み下さい。 「シキ零レイ零 ミドリ荘」  グェンさん:宙に浮く。体の中心が光る。  キクイムシは、喰い跡で叙事詩を紡ぎ出すのかも(笑)  犬=グーグルストリートビュー撮影車 「母のいる島」  優れた視覚神経とそれを活かす運動能力(投擲力とか)の遺伝子  落ちは、たぶん「数で上回る」(笑) 「おやすみラジオ」  情報の洪水を乗り切る方舟と希望を運ぶ鳩  3.11と怪情報・放射脳 「巨きなものの還る場所」  人の作ったでかいもんは、古くなると命を持つ・学天測  オシラサマ(女と馬の姿で一対のご神体)  田中舘愛橘(地震・地磁気の研究)  自分の居場所と一族を想う想い・国引き・沖縄返還・シャガール・3.11  魂は、自分自身の中ではなくて、所属している集団・場所にあるのでは。  凄くヘンテコだけどとても面白い短編集。ヘンテコなことが起きているんだけど、普通に日常生活はおくれるよ的なところあり。そういう点から言うと、北野勇作さんがお好きな方には大推薦。  共通の設定・背景があるかなと思い書き出してみましたが、あまり無さそうではあります。  ゆるやかな心地良いまとまり感はあるんですけどね。  しいて言うなら、SFでは良く語られる「人間とは、つまるところ情報である」という観点からすると、「巨大な情報はそれ自体が命を持つ」と(ビッグデータとは違うけど)  学天測とか巨大ねぶたとか巨大オシラサマとか。  「シキ零レイ零 ミドリ荘」でも何かがデータ集めているみたいだし。  「おやすみラジオ」では、怪情報自体が一人歩きして混乱をもたらしている。  「母のいる島」では、数(情報量)で勝負してるけど(笑)  

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「ミステリーズ! vol.57」2013 FEBRUARY

東京創元社発行、1200円 2013/2/15発行 ヴォルコシガン・シリーズのロイス・マクマスター・ビジョルド女史の短編「ドリーム作家のジレンマ」掲載 「百々似隊商」酉島伝法著・イラスト 第二回創元SF短編賞受賞の酉島伝法さんの最新中編。異様な物語の背景が徐々に明らかになってくる様にドキドキしました。「皆勤の徒」の梗概にあったという恒星間播種船の名前も出てきたり、最後のあれは、生体工学版SEなのだろうか? それとも『グラン・ヴァカンス』的な設定なのか、色々想像するのも楽しいです。 異様な生物たちと想像の埒外の進行で、頭の中がぐちゃぐちゃになり茫洋としてしまう感覚。←それが楽しいのですが。描写も、かつてこれほど想像力を掻き立てられる異生命体があっただろうかと言えるほど、かなりグチャグチャしているのもありますけどね。(笑) 個人的には、映画『デューン/砂の惑星』に出てくる宙航士の異様な姿に通ずるものを感じました。う~、早く次が読みたい、読みたいぞ。

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「彼女がエスパーだったころ」宮内悠介著、小説現代2013年3月号所載

宮内さんは、Twitterで、“ちょい病みエスパー女子が男どもを振り回す内容で、ドキュメンタリーで、そして疑似科学シリーズの二作目。なんだそりゃとは自分でも思います。”と書かれてますが(笑) ちょっとビターな大人の恋愛譚で、考えながら読んでしまいました。美人でスプーンが曲げられる若い女性が、超能力懐疑派の物理学者と結婚するが……というお話。私を含め、世間の人々は多かれ少なかれ何回か苦い涙をこぼしているはずですね。 巻末の近況報告に“スプーン曲げを覚えようと教則DVDを買ったが手つかず”とあって、爆笑。 関係ないけど、西村京太郎先生は、入れ歯制作中だとのこと。しかし、歯科医からするとコメントが意味不明だなぁ。“面白い医者で入れ歯を使う本人より奥さんの方が変な顔に見えるから一緒に歩きたくないという。だから奥さんの気に入るように作るのだそうだ”。う~ん???

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『原色の想像力 2』大森望・日下三蔵・堀晃編

大森望・日下三蔵・堀晃編 岩郷重力+WONDER WORKZ装幀 2012.3.23発行 東京創元社 980円 ISBN-13: 978-4488739027 収録作: ○空木春宵「繭の見る夢」(第2回創元SF短編賞 佳作) 堤中納言物語の「虫愛づる姫君」へのオマージュと思いきや、意外な展開に――まあ創元SF短篇賞応募作ですから(笑)カミさんが国文科卒なので、ちょっと読ませてみたら、雰囲気は非常に出ているそうな。SFは読まない人なので、どういう展開なのかはさっぱりわからなかったようですが。SF界隈でも、笑犬楼さまをはじめとし、いとうせいこう氏や笙野頼子女史、飛浩隆氏など「ことば」そのものが題材の作品が生み出されているし、この展開はありかなと。雅なことばで紡ぎだされるイメージは華麗で、小説世界を堪能できました。なおBLなところもあり、思わぬ事にちょっとドキッとするところも(汗;) ラストの進行そのものは、時代絵巻というよりなんか電脳世界を思わせますね。平安時代の電脳世界、東野司さんが国文科卒だったら……(笑) ○わかつきひかる「ニートな彼とキュートな彼女」 ホームネットワークサーバー機能がついた独身者専用公団アパート。巷では、そこにはいると引きこもりになってしまうと敬遠されていた…… ちょっと洒落たレトロな味の短編。筒井先生の展開は違うけど「お紺昇天」のアパート版といったところかな。こんな気の利いた機能のついたアパート、みんな入りたいと思うけど、更にニート化は進むよ(笑) ○オキシタケヒコ「What We Want」 SFファンには一押し作品。たった一人生き残った大阪弁をしゃべるアメリカ人の女性船長と雇われた異星人の珍道中。この船長はんのキャラが強烈で、可哀想な異星人ちゃんは度重なるストレスで……。ラリイ・ニーヴンの《ノウン・スペース》に出てくる宇宙人も、いい加減地球人にカモられている気がしますが、さらに悲惨かも(笑) ジョン・ヴァーリイ描くところの宇宙人に支配された《八世界》を舞台に、野田昌宏大元帥の描くところの銀河乞食軍団的な柄の悪さ(まあ、こちらは”べらんめえ”口調ですけど)をつけ加えた感じと言えば、あながち間違いではないような(笑) それにしてもオキシさん、「地底種族ゾッドゥリードが通商網に加入した経緯」物語、ぜひ読ませて下さいよ!! ○亘星恵風「プラナリアン」 『原色の想像力 1』に掲載された「ママはユビキタス」の作者、亘星恵風さんの第二弾。ちょっと芸風が違う(?)かな。前作は精神的な愛で、今回は肉体的な愛がテーマと考えるのはちと穿ちすぎか(笑) 設定部分で、傷の治りの早い人間同士を交配して、究極の兵士を創り出す実験というのが出てきますが、これがなかなか考えられて面白い。《リングワールド》シリーズの、幸運の遺伝子を持つ者同士の交配実験に比べれば、まだしも納得できる。ま、ネタとしての面白さでは負けますけど、SFの範疇でしょう(笑)で、傷の治りは段々早くなるのだけど、癌に罹りやすくなり子供が出来る年齢まで生きられなくなってくるというもの着想がいいですねえ。たぶん、癌細胞の旺盛な再生力(生命力)からの連想なのでしょうが、説得力がありますよね。 ○片瀬二郎「花と少年」(第2回創元SF短編賞 大森望賞) 今回一番の異色作。突然頭のてっぺんに花が生えてきた少年と、何もない空中から迫り来る怪獣の話なんですが、この二つが結びつきそうで結びつかないという。 大森望さんが選評で、「選ばれし者、特殊な能力を持って生まれてきた人間が未知の敵と戦う」という図式へのアンチテーゼであると言われてますが、まさにその通りですね。ま、SFとして読むと、真面目なSFファンは怒るかも(笑) 作者も、一般的な超能力じゃなくて、“頭のてっぺんに生えた花”を持ってくることで、“違うのよ”と言ってるような気がします。それともこれは、NHKアニメの「はなかっぱ」からの連想?。ま、どちらにしても脱力系か(爆) ○志保龍彦「Kudanの瞳」(第2回創元SF短編賞 日下三蔵賞) おどろおどろしい超能力(予知)もの。作者の名前は、澁澤龍彦先生へのオマージュなのかなあ。渋澤先生が書いたSFと言われても納得しそう。主人公のKudan(未来予知のために人工的に創り出された人間もどき)へのほのかな慕情がけっこう好みでした。 ○忍澤 勉「ものみな憩える」(第2回創元SF短編賞 堀晃賞) 前半の導入部の自然さというか巧さは特筆モノ。現実からいつのまにか自分の覚えている過去にもぐり込んでいくという趣向では、重松さんとか平谷さんの作品を思い出しますが、忍澤さんも上手いなあ。で、そのままと思いきやパッと視界が開けるようなラストも良くできてます。小松左京先生が「こういう宇宙」で書かれた鮮やかな場面転換を見るようでした。 ○酉島伝法「洞(うつお)の街」(第2回創元SF短編賞 受賞後第1作) つまるところ異様な世界でうごめく異様な生命体の話。椎名誠さんのSF三部作でやったグロテスクな異世界の更に上を行く異様さが読みどころ。梗概には、恒星船が舞台だと書かれているそうなので、それをふまえて読むとさらに面白く読めます。 短篇賞受賞作の「皆勤の徒」の選評で、分かりにくいとか、読者がどこへ連れて行かれるか不安であるという意見が出ていたのが理由かどうかはわかりませんが、「洞(うつお)の街」は、ちょっと人間に近づいてきた感じもありますね(笑) … 続きを読む

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『原色の想像力』大森望・日下三蔵・山田正紀編集

岩郷重力+WONDER WORKZ装幀 2010.12.24発行 東京創元社 1100円 ISBN-13: 978-4488739010 収録作: ○高山羽根子「うどん キツネつきの」(第1回創元SF短編賞 佳作) 変な小説です。生まれたてのヘンテコな仔犬を拾った三人姉妹の日常を描いた作品。題名もヘンテコですが、読み終えると正に題名通りの短編だったことに驚くという……(笑)読み返さないとわからない伏線が多々あるので、二度読みは必須です。 昔のニューウェーブ作品で、パミラ・ゾリーンの「宇宙の熱死」という短編がありまして、上下二段組みで、片方に熱力学法則を、もう片方に普通のオバサンの日常生活が書いてあって、その対比というか相関具合が格好良かった。 この「うどん キツネつきの」は、その片方(日常生活部分)だけを取り出した短編だと考えると、我々オールドファンにはわかりやすい(笑) つまり、二度目は解説部分を補完しながら読むんですな。うどんと名付けられた仔犬の出自とか、どうやって地球にやってきたか、どういう生命体がどんな文明を持っているかとか、どこに説明を持ってくるかも考えながら読むとまた面白いですね。 基本的には『スター・トレック モーション・ピクチャー』のボイジャーを送り返してきた機械生命体が、何年後かに地球を訪れるみたいな話という理解で良いのかな?(笑) ○端江田仗「猫のチュトラリー」 人間を介護するロボットに猫の鳴き声を日本語に翻訳するソフトを入れたら、ロボットが捨て猫を拾ってきて、あまつさえその猫を人間扱いするようになった……。人工知能におけるコミュニケーション問題を、最愛の妻を亡くした男性と亡き妻の母親のコミュニケーションに投影した洒落た短編。まさに、古い酒を新しい革袋に入れたような。 ○永山驢馬「時計じかけの天使」 「いじめ」問題解消のために文科省が法案化したのは、「いじめ対象型アンドロイド」の導入だった。ということで、いじめにあっている堂島百合の通っている学校に、転校生がやってきた。作者が頭の中で何度もシミュレーションして書いたと思われる、そのアンドロイドと思われる転校生が来てからの学校生活の描写が面白い。周りの人間が人間だと思えば、それは人間であるということを、作者はいじめ問題を通して書きたかったような気がしました。 ○笛地静恵「人魚の海」 光砂により巨大化する瓢箪島の女達を巡る冒険譚←じゃなくて、巨大女性に対する憧れを描いた短編ですよね。で、この巨大女性ってのは、幼稚園とか小学校低学年のころに、女先生に対する憧れを抱くことがあるじゃないですか、母親以外の女性を初めて異性として意識する頃が。幼稚園児にとって先生というのはとても大きい存在じゃないですか。その感性を大人になっても持ち続けられている作家の方なのかなと思い読み直すと、面白かった。本当のところはよく分からないけど(笑) ○おおむら しんいち「かな式 まちかど」 ひらがなが一個ずつ自意識を持った世界の話(二次元の世界)。字面を見た印象だけで性格付けしてあり、これが爆笑もの。まあ読んで納得のこの性格設定だけでも傑作です(笑)こじつけもあるけど、なるほどそう来たかとニヤリ。かんべむさしさんが昔書いた傑作と言われたら信用しちゃうな。←あ、お名前がひらがなだ(笑) ○亘星恵風「ママはユビキタス」 唯一の宇宙(?)SF。実質的な登場人物は世代型宇宙船に一人だけ生き残った少女の話なので、「リスの檻」的小説といっていいかも。広く薄く遍在するママのイメージに、ちょっと頭がクラクラした。元々の設定は、『ヴァレンティーナ』とか『そして人類は沈黙する』とかのWeb上に遍在するAIなんだけど、それとママと「彼」の愛、主人公と「母さん」の親子愛を結びつけたところが非常に上手く書けてる。また、脳をシミュレートすると一万年かけて、やっと一時間を生きた気がするというところも、SFファンにはたまりませんなぁ(笑) ○山下 敬「土の塵」(第1回創元SF短編賞 日下三蔵賞) ひょっとして作者は理系版「たんぽぽ娘」を書こうとしたのかな。切ない恋心は良く出ているんで、タイムスリップ・ロマンスがお好きな方にはお薦め。タイムトラベルに関するところは色々工夫されていて面白いんだけど本当に、書きたかったのは主人公と“まりあ”のロマンスなんじゃないかなぁ。 ○宮内悠介「盤上の夜」(第1回創元SF短編賞 山田正紀賞) インタビューがあるんで、よろしくお願いします。 SFファンには、囲碁版『歌う船』と説明しておこう(笑) http://www.sf-fantasy.com/magazine/interview/120801.shtml http://www.sf-fantasy.com/magazine/interview/120901.shtml ○坂永雄一「さえずりの宇宙」(第1回創元SF短編賞 大森望賞) エッジの効いたカッコイイ作品。よく分からないけど、なんか凄い(笑)円城塔さんの短編に似た雰囲気のものがあった。オールドファンには、石原博士の『宇宙船オロモルフ号の冒険』の、よく分からないけどなんか凄い闘いが行われている感を思い出していただければ、あながち外れてはいないと思います(笑) ○松崎有理「ぼくの手のなかでしずかに」(第1回創元SF短編賞 受賞後第1作) こちらもインタビューがあるので、よろしくです。 … 続きを読む

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