『異類訪問譚 ~みんな、うちにやってくる~』ブックレビュー
インタビュアー:[雀部]
散りし花の残り香に
『散りし花の残り香に』
  • 蒼桐大紀著
  • 祀色工房
  • 1660円(税込)
  • 2026.5.7発行
【収録作】
「散りし花の残り香に」
 閉鎖環境における管理社会の隠された真実と女子大生二人の心の交流の行方は
「もう帰れない夏の日に」
 悲劇を繰り返さないために祈りを込めた二人の思い出……
「 まだ知らない」
 二人の掛け合いが面白い、ポストアポカリプス・メカアクション・コメディ
「終わる眠りの暇に『おはよう』」
 静かに終わり行く世界で出会った少女たちが見出した絆の形とは
雀部 >

今月のブックレビューは、蒼桐大紀先生の『散りし花の残り香に』です。
 『あおとりどり』(2025/5/11)と『よいあめふわり』(2025/11/23)に続き、三冊目の紹介となります。
 コンスタントに作品集を刊行されていますね。

蒼桐 >

今回も取り上げていただきありがとうございます。
 もともとSF作品集は『あおとりどり』の次に作る予定だったのですが、急遽『よいあめふわり』を作ることにしたので、発刊が続く形となりました。
 ちょっとハイペースであり、もう少し期間を空けたかったのですが、前回(2026/5/3)の文学フリマ東京42がSFジャンルでの出店だったため、「それならSF作品集がなければダメだろう」ということで作りました。本の規模をもっと小さくするか、期間を1年に1冊くらいに伸ばすかにしたほうが祀色工房の体力には合っていると思います(汗)

雀部 >

なかなか難しいところですね。
 そういえば、先日『東京銀経社アンソロジー真子と鏡』関係者で、Xのスペースで雑談(?)をしたとき、小林さまから“蒼桐さんは、「文学フリマ」でも女性ファンの人気が凄い”という主旨のお話しをうかがって、そうなのかと感心したのです。
 実は、フリマもコミケにも行ったことはないのですが(汗;)。TV・ワイドショーのニュース等で見て、凄い人出だなあと。

小林 >
以前、文学フリマは東京流通センターを会場にしていたのですが、近年は東京ビッグサイトを会場にしており、入場者数も右肩上がりのようです。
 お手伝いで蒼桐大紀さんにお誘いを受けまして参上しましたら、既刊の『あおとりどり』そして『よいあめふわり』といった百合や名前のない関係性をメインにした短編集は女性人気が根強かったですね。
 もちろんSFをメインにした「散りし花の残り香に」も継続してお買い求めいただいた読者さんが多いです。
蒼桐 >
読者の性別についてはあんまり意識していなかったのですが、文フリという場で実際接してみて、その男女比に驚きました。
 そもそも作中で若い女性を多く書いているのは、自分から遠い存在を書くことでキャラクターと作者を引き離せるようにしているからなのですが、この距離感が女性から見ても適度に生っぽく適度に嘘のあるキャラクターを作れているのかもしれません。キャラクターの活躍を見守りやすいというか。
 これは、蒼桐の作品に通底していることなので、「青春」とか「百合」とか「SF」といったジャンル的な先入観を抜きにして、蒼桐の作品を求めていただいているのかなぁ……と(汗) 
雀部 >

蒼桐先生の作風が好きだから、というのはありそうに思えます。表題作の「散りし花の残り香に」などは、女性に限らず読者の胸に迫るラストシーンだと思いましたし。
 読者との距離が近いフリマの特性を活かして、アンケートハガキを入れておくとか、前作までの感想になりますが、その場でアンケート用紙に記入して貰うとかやってみて欲しいです。←勝手なことを言ってますが(汗;)

蒼桐 >

「散りし花の残り香に」は、タイトル案からあのラストが出てきて、これだ! と思って書きました(そこまで持って行くのが大変でしたが)。
 Googleフォームにアンケートを作って、QRコードなどを印刷した紙を配布する、というやり方はすでにありますね。ただ、読むタイミングは人それぞれですし、イベントという直接販売の場に足を運んでもらって、この上読者に要求するのは気が引けるので、特に考えていないです。

雀部 >
QRコードで読後感を募るとかは、既に実行している作家さんがいらっしゃるんですね。
 「あとがき」を拝見すると、『散りし花の残り香に』は、“なによりも読みやすいSFを意識して書いた”とありなるほどと思いました。ま、けっこう科学関係の用語自体は出てくるのですが(笑)
 ひょっとして、蒼桐さんの女性読者の方々は、これくらいは許容範囲なのかなあと心強く感じました。SFマガジンでも百合特集号がありましたし。
蒼桐 >
 そうですね。科学関係の用語は結構出てきますが、それがなにを意味するかは作中で提示するようにしています。蒼桐の作品を読んでくれる人たちは、おおむね察しが良いので、描写や説明を怠らなければ汲み取ってもらえる、という信頼があります。
 それと『散りし花の残り香に』については、極力SFガジェットを入れないように書いていました。その代わり、(あまり詳しくないのですが)服や香水といった身に着ける物に重点を置いて書きました。 
雀部 >
ちょっと上から目線の言い方になって恐縮なのですが、『あおとりどり』『よいあめふわり』『散りし花の残り香に』と読ませて頂いて、面白さが増してきたなあと感じてます。
 「星新一賞」一般部門において、最終審査に選出されたのもありましたし。 
蒼桐 >
一応、過去を振り返ったときに、自分の成長を感じるマイルストーン的な作品があるので、成長はしているのだとは思います。
 星賞に関しては武石勝義さんと関元聡さんから「それは実力」と言われましたが、最後の一歩が足りないので、抜きん出て受賞してしまうような作品を書けるようになりたいですね。
 あと、本を作り慣れてきた部分もあると思います。一冊の本として見せるときに、どういう作品を集めどういう順に並べるか、そういうことが自分なりにわかるようになってきたことは大きいと思います。これは、東京銀経社アンソロジーから学んだ部分があります。
小林 >
アンソロジーの順番は毎回頭を捻っているところですね。どう並べれば、全体のストーリーができるとか。  蒼桐さんの作品集は作品集で頭を悩ませることはあると思うのですが、『散りし花の残り香に』は他の二冊とは印象が違いますね。
 今までは爽やかな題材を選んできたものを、今度はSFというものもあり、読むときの負荷感を考慮に入れていると思います。
 そのなかでも「終わる眠りのいとまに『おはよう』」を最後に据えたのは、優れた決断だと感じました。
蒼桐 >
東京銀経社に寄稿した三作と星賞関連の作品を除いて、自分の代表作と言えるSF作品はなんだろう?
 と考えると、それはもう「終わる眠りのいとまに『おはよう』」で決まりでした。
 この作品は蒼桐の作風が強く現れているので、最後に置くことで読み終えたときに「こういう作品を書く人なんだ」という印象を本全体の読後感に重ねてもらえれば、というねらいがありました。
 表題作は「散りし花の残り香に」なのですが、作品集の核になっているのは「終わる眠りのいとまに『おはよう』」なんです。
雀部 >
小林さまの感想と蒼桐先生の狙いが一致している!
 『渚にて』(1957、ネビル・シュート著)という古典SFがあります。
 大規模核戦争後に、唯一社会が生き残ったオーストラリアでの物語。放射線の影響が徐々に南下してきていて、もはや人類の滅亡が間近に迫った日常を淡々と描いた名作です。
 この本の冒頭に T.S.エリオットの詩T.S.エリオット作「The Hollow Men」より
このいやはての集いの場所に
われら ともどもに手探りつ
言葉もなくて
この潮満つる渚につどう……
かくて世の終わり来たりぬ
かくて世の終わり来たりぬ
かくて世の終わり来たりぬ
地軸くずれるとどろきもなく ただひそやかに
が引用されていて、あまりにハマっているので当時の読者は皆暗記してました。短いですし。
 「終わる眠りのいとまに『おはよう』」の冒頭の萩原朔太郎の詩もハマっているので、これを思い出しましたよ。ということで、『渚にて』がお好きなオールドファンの方々にもお勧めできると思います。
蒼桐 >
『渚にて』と並べられると「ひえー、畏れ多い!」という思いが先に来るのですが、終末SFとしては同系列になることは改稿時に意識していました。
雀部 >
あ、やはり意識されていたのですね。
蒼桐 >
今回、「エピグラフを使いたいな」と思って、どこから引いてくるか迷ったのですが、作中で未希と結実花が出会うきっかけに使った「Omegaの瞳」を持ってくることにしました。それから、詩にある見立てを作中に持ってきて、ちゃんとなじむようにしたので、最終的にうまくはまったと思います。
雀部 >
なるほど……
 「終わる眠りのいとまに『おはよう』」の作中に、『東キャナル文書』(光瀬龍著)と『スカイ・クロラ』(森博嗣著)と『風牙』(門田充宏著)が出てきて、「おぉ!」と(笑)
 影響を受けられた(お好きな)作品ですよね。
蒼桐 >
おもに好きな作品を本棚から選びました。未希はSFが好きで結実花はファンタジーが好きという設定がありまして、SF主体でなるべく年代を離すにはどの辺がいいかなぁ、と。
 順番は前後しますが、『スカイ・クロラ』は、SFとファンタジー双方の読者の接点になりそうだったのと、十代の頃って好きな本の一節を諳んじたり真似したりすることがあるので、それを当てはめやすい作品だったこともあります。
 『風牙』は私が大好きな小説で、この作品を十七歳の未希から見たとき、どんなところを好むかな、と考えつつ書いたところです。
 あと、日本人作家縛りにして、ビッグタイトルは外してあります。火星の話でも『火星年代記』ではなく、『東キャナル文庫』を持ってきたのもそういうわけで、ほかの候補としては『十八時の音楽浴』がありました。
雀部 >
「十八時の音楽浴」(1937年)はさすがに古めかしいかな。
 直接関係ないのですが、 「海野十三展」のレポートあります。
蒼桐 >
おお、興味深いです。>海野十三展
 こうした選書になったもうひとつの背景は、未希の一人称で物語が進行する上で、地の文に彼女がこれまで読んできた本の影響が出ると思ったからです。だから、作者と主人公の最大の接点は、ともに秋山瑞人作品が好き、というところにあります。作中にはわざとそれっぽい言い回しを入れてあります(笑)
雀部 >
秋山先生にはインタビューしたのに、わからない(大汗;)
 門田先生にもインタビューしているけれど、こちらから影響受けられたというのはわかります←たぶん(汗;)
 一番笑ったのは、「まだ知らない」なんですよ。戦闘シーンが多いけど、これって蒼桐先生には珍しいラブコメですよね(笑)
蒼桐 >
そうです(笑)自分なりに直球のコメディをやりました。そもそもギャグやコメディがあまり得意ではないのですが、ときどきこういう話を思いつくことがあります。
 「散りし花の残り香に」を書き上げたとき、このままだと一冊の本として読んだときに息抜きをする間がないと思ったんです。そこで、なにか軽く読める作品でカラッとした読後感の作品はないかな、と思ったとき「まだ知らない」を思い出して三作目に配置しました。
雀部 >
深夜アニメもよく見るんで、SF風味のラブコメも大好きなのです(汗;)
 SF作品集の続報をお待ちしております。
[蒼桐大紀]
「あおぎりたいき」。1980年生まれ。エンタメ寄り作家。 2003年頃から執筆活動を開始し、小説、詩、歌詞(作詞)などを発表していたが、病気により休筆。2020年から執筆活動を再開し、SF、青春、百合、ファンタジーといったジャンルの作品を書くようになる。2024年『カンナ~いつか君と奏でた唄』でノベルアップ+年の差恋愛短編小説コンテスト佳作入選。このほか『東京銀経社アンソロジーいつかあの空を越えて』『SFG 2023 Vol.06』などSFのジャンルから進出中。個人サイト:「祀色工房 STUDIO SHISIKI
[雀部]
1951年生、歯科医、SF者、ハードSF研所員、コマケン所員、元ソリトン同人
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