高本淳氏追悼コメント

堀晃

高本淳さんの訃報を受けて、寂しさとともに20年前の遭遇を思い出した。 高本さんは私が提唱してスタートしたSF同人誌「SOLITON」の 中核的メンバーのひとりである。

ソリトン発刊はアサヒネットが主催した「パスカル短編文学賞」が 契機になっている。 筒井康隆さんが実質的な選考委員長となったこともあって、 応 募作にはレベルの高いSFが多かった。 SFファンダム育ちの私には、 SFを志す人はたいていSF研かSFファングループにいて、 SF大会に参加するものと思っていたのだが、 ファンダムと無関係な書き手がこんなにいたのかというのが驚きだった。 パスカルは3回で終わる。 私はこんな有力な書き 手が集まる機会はもうないのではないかと思い、 SF同人誌の発行を提案した。 高本淳さんもその時に参加してくれたひとりである。

同人には、この人の読書量はどれくらいなのかと驚かされるメンバーが多く、 高本さんもそのひとり。特にハードSF志向が強く、 掲示板(インター ネット以前のパソコン通信時代であった) での議論でも手強い論客のひとりだった。 私は作品を書くとき、数人の「想定読者」がアタマに常駐している。 この人に読んでほしいと意識している人たち……具体的には、 故倉田卓也さんとか実兄・堀龍之とか、SFの好みが同じで、 褒めてくれるが、ミスがあればやわらかく指摘してくれるタイプである。 高本さんもそのひとりであった。

高本淳さんの「イカルスⅡ」について触れておきたい。

初稿のタイトルは「熱い死の影の谷に向かって」だった。 いくつか指摘したい点があったが、こちらがいう前に改稿された作品が届き、 その時にタイトルをぜひとも「イカルスⅡ」にしたいとの申し入れがあった。

その時にはじめて気づいた。 本作は私のデビュー作「イカルスの翼」へのオマージュでもあるというのだった。 面映ゆい気もする。 灼熱の天体の本影を舞台にする設定は共通するが、 きわめて巧緻に作られた星系、 「スピンアイス」という冷却体、 臨界ギリギリまで吊り下げられた軌道エレベーター等々、 ぎっしり詰め込まれたガジェットに幻惑されて、 拙作など思い浮かばなかったのである。

久しぶりに「イカルスⅡ」を再読して、やはりこれは傑作と思う。 これが書かれた1996年は系外惑星が発見された直後である。 その後ぞくぞくと発見された、 ホットジュピターを代表とする「異形の惑星」を見ると、 高本さんが作り出した惑星がますますリアリティを帯びてくるのである。

「イカルスⅡ」はPDFで再録されるので内容については触れないが、 見事なラストシーンは20年経った今も忘れることはない。

[他のメッセージ]