高本淳氏追悼コメント

上田早夕里

高本淳さんの才能と作風を知ったのは、いまから20年ほど前、SF同人誌「ソリトン」に参加していたときのことです。当時の参加者の大半は、数名の例外を除いてまだプロ作家ではなく、私もただの一同人に過ぎませんでした。その交流の中で、高本さんの掲載作と出会ったのです。

堀晃さんが主宰だった影響もあってか、「ソリトン」同人の一部には、見事なハードSFを書ける方が何名もおり、そのうちのひとりが高本さんでした。ある惑星の過酷な環境に置かれた主人公が、たったひとりで知恵と技術によってそこから脱出するという展開は、SF好きなら誰もがわくわくするに違いない鉄板のストーリーで、私はそのときに受けた印象を、20年近く経ったいまでも鮮明に記憶しています。

ご本人自身は、ハードSFの書き手であることについて、照れたような否定的なコメントも出しており、一面、それは真実でもあったのだろうと思いますが、緻密なSF設定ができるその才能がどれほど優れたものであったかは、「Anima Solaris」でのシェアードワールド企画における世界設定の多くが高本さんの手によるものであったことからも明らかです。

美術史や技術史にも造詣が深かったそうで、おそらく、あらゆるものを愛で、軽やかに思考し、そのずっと先を見ていたのが、高本淳という書き手の本質だったのだろうと思います。

Second Life や Japan Open Grid でのバーチャル博物館構築で、大変な功績をあげておられたと聞き及び、その仕事が途絶してしまったことが本当に残念でなりません。きっと高本さんの頭の中には、壮大な計画のすべてが最初から存在していたはずで、それは優れたSFを書く方に共通する資質であり、高本さんも例外ではなかったはずですから。

しかし、作られた成果物の中に、高本さんの精神性は確実に保持されているわけで、インターネットを通して、誰もが、これからも、高本さんの仕事を閲覧し続けることができるなら――それはこの時代の本当にありがたいところで、この環境が、いつまでも長く守られることを、私は心の底から願ってやみません。

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