Book Review
レビュアー:[雀部]&[たなか]
夢見る人形の王国
『夢見る人形の王国:いつかどこかのものがたり(超短編集)』
  • たなかなつみ著、坂上誠表紙
  • うのけブックス、480円
  • 2017.9.18発行、Kindle版
フリーペーパー『コトリの宮殿』の連載「いつかどこかのものがたり」の作品に未発表作を加えた、全65編の超短編集。壊されても壊されても人形を作り続ける表題作のほか、崩壊を目的に造られた奇怪な橋の物語『落ちるための橋』、地の底に沈みゆく男と獣の壮絶な死闘『狩り』、七千本の矢にからだを貫かれた女を描いた『七千の彼女の物語』など、超短編作家たなかなつみのつくる小さな世界を集めた初作品集です。
『たまゆらのこえ: 超短編小説アンソロジー vol.2』
  •  紅坂紫監修、佳嶋装画
  • 2022.4.2発行
  • Kindle版、100円
  • Kindle版は、冒頭の試し読みが出来ます。
300字以内で紡がれる幻想世界、Twitter上で募集した掌編小説をほぼすべて収録。
総勢47名、全132作品の豪華なSFFHアンソロジーが再び生まれる。
たまゆらのこえ
超短編の世界3
『超短編の世界 vol.3』
  • タカスギシンタロ・松本楽志・たなかなつみ編
  • 西岡千晶カバー装画
  • 創英社、1400円
  • 2011.2.7発行
「恋」をテーマに500文字以内で描かれた「ものがたり」を集めました。小説のような、詩のような、俳句のような......不思議な「超短編」の世界へようこそ。

スマホ等で書影・粗筋が表示されない方、たなかさんの超短編が収録された《異形コレクション》の書影は、こちらを見て下さい。

雀部 >
今月の「自作を語る」は、創刊当時からショートショートや超短編を寄稿して頂いているたなかなつみさんです。
 たなかさん、よろしくお願いします。
たなか>

最終掲載時から間があいてしまっていたところに声をかけていただき、本当にありがとうございます。
 どうぞよろしくお願いいたします。

雀部 >

今見たら、第三号(2000年/8月)が超短編特集で、本間先生のミニインタビューも掲載されてます。たなかさんの掲載作品は「第3書庫」「育む」「作家の仕事」「世界を喰らう」「人形」の五作品ですね。

たなか>

はい。貴誌で掲載していただいた初めての作品になります。
 おかげさまで、この機会をきっかけに、こちらに投稿するモチベーションを得て、初めての経験をいろいろとさせていただきました。

雀部 >
こちらこそありがとうございました。たぶん中条卓前編集長と本間先生の関係で投稿して頂いたのでしょうけど、ありがたかったです。
 この当時と最近では書く環境にお変わりはございませんか。
たなか>

2000 年から 2022 年までの 22 年間ですね! やはりかなりの変化があり、いろいろな経験を積ませていただきました。
 まず、超短編まわりの環境自体は、大きく変わったと思います。
 2000 年当時は、本間さんが都度提供してくださる超短編発表の場を逃さないように書くことが、自分にとっては第一でした。
 その後、本間さんが引退されたあとは、当時の超短編投稿仲間と一緒に、続けて超短編を発表できる場を立ち上げるところから始めました。この流れを汲む緩やかなつながりが、現在の狭義の「超短編コミュニティ」(以後「狭義の」を省略して「超短編コミュニティ」とします)です。その後、超短編発表の場を続けていきたいと模索する有志各自で、チャレンジを繰り返しつつの今、ということは言えると思います。現時点での参加者の方がたには、本間さんのお仕事をご存知ない方ももうかなりいらっしゃいます。

雀部 >

本間先生は17号から『見えない旅人』(2001/10)(アニマ・ソラリスでは稀少な有料コンテンツでした)の連載がありました。
 また『超短編SENGEN』(2002/7)では、本間先生にインタビューしてます。“計算シリーズのヒントは認知科学”とかおもしろかったです。

たなか>

『超短編SENGEN』は本間さんの単著で、わたし自身、本間さん作品のファンだったので、わくわくして繙きました。
 超短編にまつわる本間さんの大きなお仕事としては、上記のインタビューでも触れられている『超短編アンソロジー』(ちくま文庫、2002)が、既知の作品や文章などを“超短編として読む”ことを提示されたもので、自分もたいへん刺激を受けました。
 ただ、残念ながら現時点では、前者は出版社のサイトでの紹介なし、後者は出版社在庫なしで、新刊書籍としての流通はないようです。
 2019 年までの超短編コミュニティの活動については、「超短編の折り詰め(仮)」というサイトで「超短編年表」としてまとめられています。この年表は、2019 年に開催された「超短編 20 周年記念イベント――広場・心臓・マッチ箱――」というイベントで、資料として配布されたものです。 

雀部 >
なるほど、これをみると変遷がよく分かりますね。
たなか>
今となっては、掌編への評価を求めて挑戦できる場は潤沢になり、むしろ超短編コミュニティ外に驚くほど広がっていると思います。また、掌編を発表して多くの方の目に留めてもらえる場自体が非常に増え、掌編集が重要な作品集という作家の方がたもいらっしゃる状況で、超短編の発表を目標にできる場は、当時とは比べものにならない豊かさがあると思います。
 そうしたなかで、自分としては、自分たちが立ち上げてきた場も守りつつ、それ以外の場でのチャレンジもマイペースで続けているところです。
雀部 >

ここまで読まれてきて、“そもそも超短編ってなによ?ショートショートとどこが違うの”と疑問をお持ちの方もいらっしゃるかも知れないので一言。
 私の理解では、“超短編小説は、一般的な起承転結を放棄した物語で、物語であることに違いはないけど、オーソドックスな物語の形式をあまり重視してない。
 普通は、読者に内容を理解して貰うために、相応の手順や技巧を駆使しながら書くが、超短編はその部分の規制が、良い意味で緩い。その分、読者の想像力に委ねた部分が多く、誰にでもわかる作品にはならないが、はまる人には、はまる”。

たなか>
そうですね、本間さんを起点とした「超短編」の大きな楽しみ方としては、そういった理解がされていると思います。
 そのうえで、そういった楽しみを大きく内在させているのは、文字数制限によるところが非常に大きいと考えられます。
 超短編コミュニティでは、厳密ではありませんが、ほぼ 500 字以内という字数制限が中心です。上限字数制限なので、本文数字といった短さの作品も含めます。タイトルのほうが長い作品もあります。(笑)
 実際、この文字数では、語れる展開や描写が大きく制限されるので、どの部分をどのように見せてどの部分を省略するかという手順や技巧が、文字数を費やすことが想定されている小説作法とは異ならざるをえません。その結果、「一般的な小説形式とは異なる」という捉え方をされることが多いのではないかと思いますし、そういう点を愛しておられる方も多くいらっしゃると思います。程度の差こそあれ、読者の想像力に委ねる部分が大きくなるのも、字数制限を考えると必然のことで。だからこそ、いろいろな読みを含めた読者の評や感想を募ったり、読む行為まで含めて楽しむ場が発生したりしやすいのではないかと考えています。
雀部 >
内容についての理解は間違っていないようで安心しました(笑)
たなか>
短い作品における文字数制限の考え方については、わたしの目に入ってくるだけでも、他にもいろいろあります。
 川又千秋さんは 300 文字小説を提唱していらっしゃいます。 
 北野勇作さんが提唱されているマイクロノベルは「ほぼ百字」、ツイノベは 140 字程度など、Twitter で書ける量を起点にされている方も多くいらっしゃいます。 
 その他、60 字、200 字、400 字、800 字、1,000 字、1,200 字、1,500 字、1,600 字、2,000 字、原稿用紙 1 枚、2 枚、3 枚…… 自分が見た記憶のある短い作品の字数制限を適当に挙げてみましたが、もっと細かい切り分けもあり、全然追いつきません。キリがないですね。(笑)
 結果的に、ジャンルの捉え方としては文字数制限のみが手がかりで、もちろん場の性格によるそれ以外の傾向もありつつ、グラデーションがかかりながらそれぞれつながっているものだと、自分は考えています。
 さらに、作品のタイトルについても、必ず必要であるという考え方の方も、必ずしも必要はないと仰る方もいらっしゃり、場によって異同があります。
雀部 >
いやはや(笑)
 それだけ多岐多様で魅力に富んでいるということですね。
たなか>

超短編というのはそうした大きな広がりのある掌編分野のひとつの呼び方で、その楽しみ方は多岐にわたるとわたし自身は考えています。
 超短編コミュニティでは 500 字以内で表現できる物語を「超短編」と呼ぶという意識がずっと共有されており、自分にとっての超短編もそこが出発点で、現在の活動の場もそこがメインです。けれども、こちらでの本間さんのインタビューでも上限字数をはっきりとした数字で切ってはおられないように、わたしも上限字数をそう厳しくは見ていません。「超短編」という言葉自体が、超短編コミュニティ外でも広く使用されている言葉なので、字数制限の捉え方には本当にいろいろあると思います。
 そういったこともあり、また、自身がいろいろな文字数に挑戦していることもあって、自分のサイトでは 2,000 字を超えるものまで「超短編」に分類しています。同じぐらいの文字数の作品を「短編」に分類することもあるので、自分自身の切り分け方もかなり大雑把です。外部では「短編」や「ショートショート」として発表したものを、自サイトでは「超短編」として分類することも多いです。
 そんなわけで、「超短編」とは、(1) 狭義の「超短編コミュニティ」ではタイトルを付した 500 字以内の物語であるという意識が共有されており、(2) 広義の捉え方としては、そこまでの厳密な文字数制限には囚われない、とても短い物語、ということになると、わたし自身は考えています。そして、本間さんも仰っているとおり、超短編にはショートショートと重なっている部分がかなりあり、そこをはっきりと区別しようとすると無理が生じると思います。

雀部 >
元々の本間さんの提唱する「超短編」は500字以内だったけれど、厳密な文字制限はないということですね。
たなか>
ただ、通常のショートショートで考えられているほどの長さは、超短編では必要ないと考えられることが多いということは、違いとしては言えるのではないかと思います。自分の感覚的には、「超短編」は 2,000 字~原稿用紙 6 枚程度が上限で、もっとずっと短い作品のほうが主流であり、その上限を超える長さのものを超短編とは呼びづらい。逆に、そうした「超短編」と同程度の短さで「ショートショート」と呼ばれる作品もたくさんあるが、「ショートショート」は長い方向への射程がより広く、より長さをもつものもたくさん存在する。それぐらいの違いはあると思います。そして、この文字数の感覚も、人によってかなりの振り幅があるでしょう。
 こうした文字数制限による描写法の違い自体は存在すると思います。その結果として、雀部さんが述べてくださったような超短編の特徴をもつ作品は多いと思います。ただし、そうした特徴をもたないものは超短編ではないというわけではない、というのが、わたしの考え方です。
 ただし、戦略的にそういった特徴を強調する場も多いと思うので、厄介というか、混乱は生じやすいかもしれません。(笑) ショートショートに関しても、オチが何よりも大事、とされる場や発言が目につきやすいのと同じではないかと思います。上で述べた「もちろん場の性格によるそれ以外の傾向もあり」というのは、そういったことを想定したものです。切り取り方による狭義の「超短編」も狭義の「ショートショート」も存在するので、そこには線が引かれがちだと思います。場によっては選者や編者、主宰者等の意向によって、狭義の特徴が強調されることももちろんあります。でも、それがすべてを網羅した一律の定義にはならないと考えています。超短編=ショートショート、という説明をしておられるところもあるので。
雀部 >
なんか「SFとは何かが、人によって異なる」のと同じだと思えてきました(笑)
 そもそも「超短編」というのはどこから来た言葉なんでしょうか?
たなか>
「超短編」という言葉自体は、本間さんが使用される以前から使われており、上でも述べたとおり、当時も現在も掌編分野で広く使われている言葉のひとつです。
 わたしが初めて遭遇したのは、1994 年に文春文庫から刊行された『Sudden Fiction: 超短編小説』というタイトルだと思います。編者は、ロバート・シャパード、ジェームズ・トーマスのお二方。第 1 巻にあたる『超短編小説 70』は村上春樹さんと小川高義さん、第 2 巻にあたる『超短編小説・世界篇』は柴田元幸さんの訳です。
 このタイトルについては、先に触れてくださった『超短編SENGEN』刊行時の本間さんのインタビューでも述べられていますが、「超短編」って何だろう、と考える際の起点になるアンソロジーだと思うので、あらためてお話しさせてください。
 『超短編小説 70』に掲載されている村上さんの「訳者あとがき」によれば、原題の「Sudden Fiction」の日本語訳として、副題の「超短編小説」が付されました。村上さんによれば、「芸はないけれど、内容はわかる」としてご自身が選ばれた語だそうです。その後、村上さんご自身の作品集として「超短篇小説」という語が冠された『夜のくもざる:村上朝日堂超短篇小説』(平凡社、1995新潮文庫、1998)が刊行されています。 
この「Sudden Fiction」自体も原書刊行時に生み出された言葉だったようです。『超短編小説 70』では、「序」と「覚え書」として、そうしたタイトル決定にまつわる経緯や、各作家による短い作品としての「ショート・ショート」論がかなりの紙幅で掲載されており、いま読んでもとても興味深く、示唆に富んでいます。ここで使用されている「ショート・ショート」という語が包含する広さや、「Sudden Fiction」という新語が付され「超短編小説」と訳された本書 2 冊の掲載作からは、短い作品の捉え方の豊かさをとても感じさせられます。 
雀部 >
「Sudden Fiction」という言葉も面白いですね。本質を突いているかも。
たなか>

なお、『世界篇』のほうは『超短編小説 70』とは異なり、英語で発表された作品のみにとどまらないアンソロジーです。残念ながら現時点では、出版社のサイトからのリンク先で在庫が確認できず、新刊書籍としての流通はないようです。超短編好きとしてはとてもおすすめしたい本なので、非常に残念です。
 柴田さんは、その後のバリー・ユアグローの紹介や、『MONKEY』vol. 9(2016)の「短篇小説のつくり方」という特集内なども含めて、一貫して「超短篇」という語を使用されているように思います。
 この『MONKEY』vol. 9 における「超短篇」には「千字前後」の作品が複数収録されているのですが、その扉で、アメリカでの状況について「昔は星新一ふうにオチがはっきりしたものが多く、short-short と言われていたけれど、最近は呼び名もまちまちで、sudden fiction, flash fiction, micro fiction...」と記されています。彼我ともに短い作品の広がりが続いていることがわかります。
 以上で、“そもそも超短編ってなによ?ショートショートとどこが違うの”という疑問への回答になりますでしょうか。めっちゃくちゃ話が広がっちゃったうえに長くなっちゃってすみません!

雀部 >

いえいえ、詳しい説明ありがとうございました。では、たなかさんご自身はどうだったのでしょうか?

たなか>
自身の超短編を書く環境ということであれば、当初では考えられなかったような場の広がりを、この間に経験してきました。
 まず、2002 年の文学フリマ開始にともない、タカスギシンタロさんが、超短編コミュニティの中心と言えるサークル「超短編マッチ箱」として出展されるようになりました。その場を中心に、タカスギさんの編集による『超短編マッチ箱』などの超短編同人誌が数多く頒布されてきましたが、2012 年から超短編フリーペーパー『コトリの宮殿』の頒布が始まります。この『コトリの宮殿』にて、「いつかどこかのものがたり」と題した超短編の不定期連載の場をいただきました(2022 年 9 月現在の最新号は 35 号)。
 そして、タカスギさんの了承を得て、2017 年から文学フリマ京都にサークル「超短編マッチ箱関西支部」として毎回出展するようになったことは、自身にとっての大きな変化でした。こちらではタカスギさんの「超短編マッチ箱」とは独立した形で、『コトリの宮殿』やその他、自身が参加させていただいた超短編同人誌などを中心に、超短編コミュニティの方がたからの委託も受けて頒布品を展開しています。
 現在「超短編マッチ箱関西支部」は、京都担当のたなか、大阪担当の永子さんが、それぞれ中心と補助を毎回バトンタッチして入れ替わりながら、文学フリマへの出展を続けています。次回は来る 9/25 (日)に開催される「第十回文学フリマ大阪」出展予定です。
 また、やはりタカスギさんが立ち上げられた超短編専門出版社「うのけブックス」から、『夢見る人形の王国:いつかどこかのものがたり(超短編集)』という単著を発表しました。これも 2017 年のことです。 
雀部 >
「うのけブックス」って、超短編専門だったのですね。『夢見る人形の王国』のなかでは、「手の先」「恋ワズライ」「落ちるための橋」「曖昧村」あたりが大好きです。
たなか>
ありがとうございます!
 「うのけブックス」の公式 Twitter の紹介によると、「うのけ」というのは「うさぎの毛のこと。転じてきわめて小さいものごとのたとえ」であり、そこから「うのけブックス」という名称をつけられたようです。
 雀部さんが挙げてくださった作品のうち、「落ちるための橋」「曖昧村」2 作の初出は、上で触れた『コトリの宮殿』です。「落ちるための橋」は自分でもかなり気に入っている作品なので、挙げてくださり、とても嬉しいです。
 「手の先」「恋ワズライ」にも触れてくださり、ありがとうございます。自作のなかではロマンチック寄りの作品ではないかと思います。
 「曖昧村」は、甲斐祐子さんと菱田盛之さんがパーソナリティを務めておられる Podcast 番組「よみラジの時間」vol. 123 で朗読していただきました。朗読者は甲斐さんです。2016 年の番組ですが、今でも公開されているので、あわせてお聴きいただけたらとても嬉しいです。 
 「よみラジの時間」では、2011 年に公開された vol. 1 から拙作を何度も取り上げてくださり、いろいろな方がたに朗読していただきました。たいへん楽しい経験でした。
雀部 >
「よみラジ」では、「曖昧村」「冬の花園」「氷猫」の三作品の朗読があるのですね。凄い!超短編は短いので朗読に適している気がしました。
『夢見る人形の王国』収録作の題材として「穴」が多いような気がしましたが、お好きなのでしょうか?(笑)
たなか>
それについては、『夢見る人形の王国』が発売されてから、ものすごくたくさんの方に指摘されました。(笑)
 そして、指摘されてから自分でも気づきました。多いですよね! 「穴」多すぎです!
 一時期、そのご指摘の数かずにのっかって、「穴」がテーマの作品集という紹介を自身でもしていたことがあります。
 「穴を掘る」というテーマが、何度も形を違えて、あるいは同じ形で浮き上がってくるのは確かです。自身のなかにしつこく巣くっている「穴」問題があるのかもしれません。(笑)
 それ以外に経験させていただいた大きな場としては、井上雅彦さんが監修されている『異形コレクション』(光文社文庫)があります。『未来妖怪』(2008)、『物語のルミナリエ』(2011)の二度にわたり、超短編作品を掲載していただきました。
 英訳していただく機会にも何度か恵まれました。そのうちのいくつかを挙げておきます。
 まず、“The Fastener”(原題:「ファスナー」)をDaily Science Fiction に掲載していただいたのが 2020 年。
 Kelly Matsuura さんの編による Insignia Drabbles シリーズ(BWWP Publishing)では、Vol. 1 の Japanese Fantasy Drabbles Vol. 2 の Southeast Asian Fantasy Drabbles の二度、やはり原作提供の形で英訳作品をいくつか掲載していただきました。これも 2020 年のことです。ちなみに「drabble」は英単語 100 語ちょうどで書かれた作品のことです。数ある掌編形式のうちのひとつです。
 また、2021 年には、Christoph Rupprecht, Deborah Cleland, Norie Tamura, Rajat Chaudhuri, Sarena Ulibarri という 5 人の方の編によるソーラーパンク・アンソロジー Multispecies Cities: Solarpunk Urban Futures (World Weaver Press)にやはり英訳 “A Life With Cibi”(原題:「フードと共に在る暮らし」)を掲載していただき、たいへん貴重な経験をさせていただきました。上記で紹介した拙作の訳者はすべて Toshiya Kamei さんです。 
 メールマガジンという媒体では、「【SFファン交流会】メールファンジン SORAMAME」にて、「超短編幻想:夢見る千文字のバベル」というタイトルで超短編を発表する場を提供していただきました。こちらでは数をテーマにするという縛りをいただき、毎回楽しい苦労を味わわせていただきました。
 直近で参加させていただいたのは、紅坂紫さんが編まれた『たまゆらのこえ:超短編小説アンソロジー vol. 2』です。こちらでは、複数のテーマごとに各 300 字以内で募集された作品が掲載されており、拙作も複数テーマで掲載いただきました。
雀部 >
おっとそれを忘れてました。
 『たまゆらのこえ:超短編小説アンソロジー vol. 2』の中では、「燃え焦がる」や「わたしたちの愛し方」が素敵です。
たなか>
ありがとうございます! 嬉しいです。「燃え焦がる」は他の方からも感想をいただいた作品です。
 自分はあまり短い作品を書くのが得意ではなくて、300 字以内というのはかなり厳しい字数制限でした。楽しんで読んでいただける作品に仕上がっていたとしたら、とても嬉しいです。
雀部 >
あと、紅坂紫さんが訳された外国の超短編が日本のものとはちと違う味でやはり面白かったです。
たなか>
紅坂さんは、創作から翻訳、編集まで、幅の広いご活躍を精力的にされていて、唸らせていただくばかりです。
 本書ではヨアヒム・ヘイジンダーマンズさんの作品を複数訳出されていますが、自分はなかでも「星盲」を非常に興味深く読みました。「見る」ということがどういうことなのか、あらためて考えさせられ、大きな刺激を受けました。
雀部 >
現在、何かのイベント等では見ている人の大半がスマホを掲げていて不気味ですらあります。「星盲」はそういう現代に一石を投ずる意味も感じました。
 現在はどういった活動をされているのでしょうか。
たなか>
今現在、毎回参加を目標に投稿を続けているサイトは、「超短篇・500 文字の心臓」「短編」の二つです。前者がタイトル縛り 500 字以内、後者が自由テーマ 1,000 字以内で各回作品を募集されており、作品を読んだ方による選評や感想を付した投票ができる競作サイトです。
 その他にも、拙作を掲載してくださったいろいろな場や、朗読してくださった方、イメージイラスト等を提供くださった方などがいらっしゃいます。こちらですべてを挙げることはかないませんので、ご興味のある方がいらっしゃいましたら、たなかの個人サイトにて確認いただけたら嬉しいです。わたしの手が及ばず掲載しきれていないものもありますが。
 また、投稿先は記していませんが、自サイトでの発表作品には、チャレンジしたけれども投稿先での掲載にいたらなかった投稿作品も数多くあります。本間さんが選者をされていた ASAHI ネットの「超々短編広場」をはじめ、掲載先が閉じられたので自サイトでの発表に踏み切った作品も多数あります。書く動機を与えてくださった、そうしたすべての場が、自分にとっては「書く環境」であり、書くことに対する考え方を広げ続けてくださってきた大事な場です。書く場をつくり続けてくださっている多数の方がたへ、この場をお借りして感謝申しあげます。
 こちらの「アニマ・ソラリス」でも、何度も短編にチャレンジさせていただきました。貴誌への投稿が自分にとっては短編の書き方における試行錯誤の場であり、大きな勉強の場でした。ありがとうございます。
雀部 >
「アニマ・ソラリス」掲載のなかでは何と言っても「ひとりの女が夢を見る」ですね。最初に読んだ時に非常に感激して、確かmixiで、これは商業誌レベルではないか!とメッセージを送った記憶があります。
たなか>
過分なお言葉をありがとうございます! とても嬉しいです。
 自分でも久しぶりに読み返してみたのですけど、確かにすごいかもしれません!(笑)
 掲載していただいた 2004 年当時とは外部の環境が大きく変化したので、いま本作を新しく読まれる方がいらっしゃったとしたら、当時読んでくださった方がたとは、かなり異なった感想をもたれるかもしれないなと感じました。
 そして、最後になりましたが、自身の超短編にまつわる経験のなかで非常に大きなものとして、『超短編の世界』(創英社)の刊行がありました。タカスギシンタロさんの監修で発行されたシリーズで、三度形になっています。
 2011 年に刊行された『超短編の世界 vol. 3 』では、タカスギさん、松本楽志さんと並んで編者として参加するという、たいへん貴重な機会に恵まれました。
雀部 >
『超短編の世界 vol.3』の著者インタビューでは、タカスギさんと、楽志さんとたなかさんが参加して下さってますね。
たなか>
はい。このときもお世話になり、ありがとうございました。
 このときのインタビューは、タカスギさんと楽志さんのお二人がいらっしゃったので、自分としてはかなり気が楽でした。(笑)
雀部 >
さて、「たなかなつみ自作を語る」の話題の他に、実は本号よりたなかなつみさんの新作が掲載開始されます!
 実のところ、2010年頃から「SF系BL」なるものを読み始めまして、たなかさんがその方面にも詳しいと聞いていたので、BLの新作をお願いしたことがあったんです。
 栗本薫先生の《伊集院大介》シリーズを読んだのもその頃でした。
たなか>
詳しいわけではないと思います。(笑)
でも、雀部さんが挙げておられる木原音瀬さんの《WEED》シリーズ(ビブロス/新装版、リブレ出版、2007)と『WELL』(蒼竜社、2007)は、わたしも大好きです。依存性の高い作品を書かれる方だと思います。登場人物のありよう自体もですし、読み手にとっても。『WELL』は残念ながら絶版のようですが、《WEED》シリーズは電子書籍で販売されています。
 新作については、このたびあらためて雀部さんに声をかけていただき、当時試作した作品を掘り出してイチから作り直すことになり、とても楽しい経験をさせていただいています。SF 設定はほぼ雀部さんに作っていただいているので、実質的に雀部さんとの合作です。自分のなかにある BL 的お約束(あくまで自分流のです)を踏襲しながら、いわゆる全年齢向け展開で、うまく話を転がせていけたらいいなと考えています。連載作品は初めてで、とても緊張していますが、どうぞよろしくお願いします!
雀部 >
SFマガジンでも“百合特集号”や“BLとSF特集号”が出たことだし、読者の皆様も、たなかなつみさんの軽妙なタッチのBL作品『ラブライフ(仮)』の連載を楽しんでいただければこれに勝る喜びはございません。
[たなかなつみ]
 ものぐさな書きもの修行中の超短編や。500~1,000文字程度の超短編を中心に、超短編フリーペーパー『コトリの宮殿』や同人誌、オンライン等で作品を発表中。『夢見る人形の王国』(Kindle 版、うのけブックス)、『超短編の世界 vol. 3』(共編著、創英社)などの著作のほか、Multispecies Cities(共著、World Weaver Press)などに英訳作品が掲載されている。
[雀部]
 1951年生。百合にもBLにも疎いオールドSFファン(汗;)
 次回の「第十回文学フリマ大阪」は、来る9月25日(日)のようです。皆様どうぞよろしく。