Author Interview
インタビュアー:[雀部]
『SOLITON 8』
  • 堀晃主宰
  • 発行所SOLITON
  • 680円
  • 1998.6.30発行
  • 堀晃先生主宰の「ソリトン」最終号

表4には、ASAHINETの広告が入ってます。

「ソリトン」は、商用BBSであるASAHINETのSOLITON会議室(掲示板)で色々な議論をしていました。

「10月2日を過ぎても - Genesis SOGEN Japanese SF anthology」
創元日本SFアンソロジー 2018 Kindle版
  • 堀晃著
  • 東京創元社
  • 204円
  • 2018.12.21発行

2018年6月、大阪は地震に見舞われた。7月に西日本豪雨と猛暑と台風12号、8月9月に台風20号、21号。だが私の周囲では、地震も水害もほとんど被害がなかった。マンション理事の私は、そのたびごとに自転車で見回りに出るが……。

「循環 - Genesis SOGEN Japanese SF anthology」
創元日本SFアンソロジー2020 Kindle版
  • 堀晃著
  • 東京創元社
  • 315円
  • 2020.8.31発行

大阪湾の淀川河口から10キロほど上流にある毛馬閘門(南の大川へ分流させるために水面の高さを調節するエレベーター機構)のほとりで語られる、半日たらずの静かな物語。著者自身を思わせる語り手が半生を回想しつつ、水の街・大阪をめぐる歴史と幻視が挿入される。物語の鍵となるのは、毛馬閘門の最初の設計者となった人物と、語り手が二十代のころに会社の片隅で見つけた奇妙な道具。

その果てを知らず
  • 眉村卓著
  • 講談社
  • 1500円
  • 2020.10.20発行
  • 一年前(2019年11月)に逝去された故眉村先生の遺作

今から60年以上前、大学を卒業して会社員となった浦上映生は文芸の道を志し、SF同人誌「原始惑星」や創刊されたばかりの「月刊SF」に作品を投稿し始めた。サラリーマン生活を続け、大阪と東京を行き来しての執筆生活はどのように続いていったのか。晩年の彼が闘病しつつ創作に向き合う日常や、病床で見る幻想や作中作を縦横無尽に交えながら、最期に至った“この世界の真実”とは。


作中にマシスン作の『縮みゆく人間』に言及する場面が出てくるんですが、私がこの本を読んだときの感想そのままで、なんかジンと来ました。見ると早川の銀背で"3201"番なんですね。もっと古いかと思っていました(S43年11月。ちなみに"3001"は『盗まれた街』)

あと陰陽師を祭った神社に参拝するシーンがあり、これもお年始とか七五三で参拝する地元の神社にも、安倍晴明の墓があるのでなんかご縁を感じました……

雀部 >

今回、「アニマ・ソラリス」200号・20周年ということで、堀晃先生にインタビューをお願いしました。

というのは、元々「アニマ・ソラリス」は、堀先生主宰のSF系同人誌「ソリトン」同人が中心となって立ち上げたWebMagazineなのです。

チェックしたら、前回インタビューをお願いしたのは創刊した2000年なんですね。間が空きすぎて申し訳ないです。

それでは、堀先生よろしくお願いいたします。

堀  >

どうもお久しぶりです。200号・20周年とはすごいですね。「宇宙塵」が206号、石原藤夫さんのハードSF研(HSFL)公報が先日200号、ともに40年ほどかけての達成ですから、20年で200号はたいしたものです。活字とネットは違うものの、何よりも途切れることなく発行されているのが立派ですね。

雀部 >

ありがとうございます。そのふたつとは全く比べものにはならないです。途中、間が空いたこともありましたし(汗;)

「ソリトン」については、かつて"kan"さんこと高本淳氏が急逝された時に頂いた追悼コメントにある通りで、非常に評価が高く、1996年と1998年にSFファンジン大賞を受賞してます。

ここらあたりから、ネットの利用が一般的になりSF系同人誌も昔とは変容してきたように思いますが。

堀  >

1996年といえばパソコン通信からインターネットに移行する端境期ですね。「ソリトン」は活字……というか、紙メディアで発行して議論はパソコン通信(掲示板)でやる方式でしたが、その後、だんだんとSF同人誌もネット利用が増えましたね。当時の同人誌やファンジンがどうだったか、よく覚えてないんですが、ネット併用が増えたように思います。SFファンは新しいもの好きですからね。SF大会のプログレス・レポートがネット配信されるとか。「アニマ・ソラリス」はネット誌として創刊してますから、やはり先進的でしたね。

雀部 >

先進的と言っても、WebMagazineは、編集・校正が簡単(刊行後も訂正が可能)だし、活版印刷より格段にコストが低いという面が大きかったからですね。「アニマ・ソラリス」は、初期のころは作家の方にわずかながら原稿料を出したり、ごく一部の有料購読コーナーもあったりましたが、結局続きませんでした。

「SOLITON 8」の巻末で、堀主宰が「もうひとつの招待席・特別篇」の中で、同人誌の運営について赤裸々に書かれています。

かかる費用の面から言うとネット上の同人誌の方が格段に安いのですが、その簡便さが徒となって「文芸のカラオケ化」が生じている、よって質の向上のためには、同人に負担のかかる旧来の方法に戻した方がよいかもしれないと書いてあって、ドキリとしたのは内緒です(汗;)

“古くからのSF同人誌、ファンジンの活動には、注目すべき面がある”と堀先生からうかがいましたが、それはどういったところでしょうか?

堀  >

高本淳さんが亡くなられたのは本当に残念でしたね。ハードSFにとっては最大の理解者がいなくなってしまった感じで。

雀部 >

すぐれた書き手でもあり、鋭い批評家でもあられましたからねえ。残念至極です。

堀  >

実は古くからの同人誌が気になりだしたのは、ぼくより若い物故者が増えてきた事情があります。

まずは西秋生さんです。西さんは夢枕獏さんと同時デビューで、ずいぶん長いキャリアの作家ですが、本業のマーケティング関係で広告代理店から近畿大学教授へという経歴で、SFから遠ざかっている印象でしたが、井上雅彦編「異形コレクション」にユニークなショートショートが載ったんです。「チャップリンの幽霊」と「1001の光の物語」ですが、どちらも近代の神戸を舞台にした傑作です。ぼくもちょうど「京阪神SF」というものを考えてたところだったので……学友が大手前大学の学長で、そちらから阪神間とSFというテーマでの話を依頼されたということですが……西作品には注目しました。そしたら、順序は逆になりますが、西さんはその前に、神戸新聞に連載した『ハイカラ神戸幻視行』を上梓されてたんですね。これは稲垣足穂以降の神戸を舞台とする幻想文学の系譜を紹介するものです。つまり、神戸SFを書く基礎作業をこつこつと進められていたわけですね。西さんは大きな鉱脈を掘り当てたなと思いました。その直後の急逝です(2015年9月)。これはショックでした。いよいよこれからという時期でしたから。

西さんは眉村卓さんを中心とする研究会(チャチャヤンとか名称は色々変わってますが「風の翼」など同人誌も発行してました)のメンバーでしたから、研究会メンバーが中心になって埋もれていた作品も発掘して『神樂坂隧道』にまとめました。西さんの「隠れていた系譜」が読めて、ありがたい出版でしたね。

雀部 >

FukudaMagazineで購入できるみたいですね。(紹介は別ファイルにて)

堀  >

2014年には石飛卓美さんが亡くなってる。石飛さんもユニークな作家でしたが、遺稿『才のままに生きて、努力というものをしなかった小説家の遍(変)歴』がすごい。政治家としての活動など、今まで明らかにしなかった部分まで、苦しい病床で、ユーモアを混じえた文体で書かれた自伝で、石飛作品としては最高傑作ではないかと思います。これを同人誌というのは失礼かもしれませんが、山陰SF創作会が発行に協力しています。石飛さんは地元(米子〜出雲)のファン活動に協力的でしたしね。

雀部 >

故石飛氏は、「第41回日本SF大会(ゆ〜こん)」でも貢献されたみたいですね。山陰SF創作会は、連絡先を探してみます。

堀  >

そして横田順彌氏です(2019年1月)。ヨコジュンはぼくより半年ほど若いんです。

ヨコジュンとは学生時代から、東京と大阪と場所は違いますが、おもにSF同人誌、ファンジンを出してきた間柄です。ヨコジュンはデビュー後も古典SFの研究では同人誌活動と縁が切れませんでしたね。半世紀以上、四捨五入すれば60年ですか。古典SF研究会が「未来趣味」の別冊として横田順彌追悼號を出しましたが、この「未来趣味」も不定期刊の研究誌で、同人誌というには迷うレベルですが、非営利的な活動です。

追悼出版が契機になって同人誌、ファンジンに注目したわけですが、この数年、充実していると思いますね。

雀部 >

故橫田順彌氏にはぜひインタビューをと願っていたのですが、叶いませんでした。

「未来趣味 増刊 横田順彌追悼号」購入しました。(紹介は別ファイルにて)

堀  >

いちばんすごいのが、先に挙げた石原藤夫さんのハードSF研(HSFL)公報です。

創刊から40年……正確には38年かな……年4回の発行で続けられてきたのが、2年ほど前から刊行ペースが急上昇して、年間20冊以上、つい先日200号が発行されました。ハードSF研には日本と英語圏のファンジンを研究している人もいて、個人編集で継続して発行されているファンジンの総ページ数ではすでに世界記録を達成している。もっとも非英語圏には、たとえば南米などにそれ以上のが存在する可能性は否定できないそうですが(笑)。

雀部 >

私もハードSF研の末席を汚しております(汗;)(紹介は別ファイルにて)

最近の刊行ペースはもの凄いですね。ただただ感嘆するばかりです。

堀  >

あ、量的にもすごいのですが「質」の方を話さなければ。

ハードSF研公報の内容は、多彩なメンバーが宇宙科学とかSF資料学、独創的なSF史とか、ともかく多彩ですが、この数年際立っているのが石原藤夫さんによる戦前戦後の「科学小説」の発掘・復刻です。

石原さんの海野十三研究はよく知られていますが、それに続く作家というか、科学者が別名で書いた作品など……具体的には、三苗千秋(この人は海野十三の先輩であったことが判明していますが)、那珂良二、春日迪彦(桶谷繁雄)、上田光雄、志摩達夫、久慈三郎といった作家の作品が復刻されています。

これらは、時系列的には横田順彌さんのやってきた古典SFの研究を引き継ぐかたちになりますが、最近、もっと大きな意味があるのではないかと思えてきました。

最近出た『石原藤夫ショートショート集成』(盛林堂書房)に「新電気未来物語」が収録されています。この第1部12話は雑誌「新電気」に1年間連載されたもので、電気通信関係のアイデアが詰め込まれた傑作ですが、若い技術者の成長物語でもあります。「新電気」は国家資格取得を目指す電気技術者のための受験誌で、作品もそれにふさわしい趣向が凝らされています。

雀部 >

『石原藤夫ショートショート集成 』は、凄いですね。石原先生がこんなにショートショートをたくさん書かれていたとは知りませんでした(汗;)(紹介は別ファイルにて)

堀  >

これを読んで気づいたのですが、先に挙げた復刻作品は、戦前戦後の科学技術誌に掲載されたものが多いんですね。少年向けの科学雑誌も含めてですが。「動く実験室」とか「無線電話」「無線と実験」「ラヂオの日本」「宇宙と哲学」「科学の友」「子供の科學」……など。

戦前戦後のSF通史としては、海野十三から手塚治虫に引き継がれてた精神が現代SFにつながった(長山靖生「日本SF精神史」)というのが定説ですが、科学誌に掲載されたSFも意外に太い鉱脈のような気がしてきます。これらの作品は戦後間もない時期から書かれていますし、その後の瀬川昌男さん、そして石原藤夫さんとつながる訳で、日本ハードSFのもう1本の流れを解明していくのではないか。70年代にはぼくの実兄・堀龍之が「電波と受験」誌にショートショートを連載してました。

このあたりの資料をいちばん収集されているのが石原さんで、ハードSF研公報は目が離せませんね。

雀部 >

「子どもの科學」と「無線と実験」は一時購読してました。日本作家のショートショートを読んだ記憶がありますが、どなただったかは忘却の彼方です(汗;)

堀  >

ぼくも「子どもの科學」……戦後は「子どもの科学」ですね……は読んでました。科学誌では「科学朝日」が空想科学小説に熱心で、SFマガジン創刊前に(1957、8年かな)短編を掲載してましたね。これも忘却の彼方です(笑)。

総ページ数ではハードSF研公報が世界記録更新中ですが、号数の日本記録は半客会(正確には続・半村良のお客になる会)の「赤き酒場」でしょう。現在514号……コンスタントに毎月出てますから立派です。加戸利一さんが編集発行人だから、個人が発行しているとみれば、これも世界記録ではないかと思いますね。最大の特長は「手書き」……投稿原稿はワープロ原稿が多いですが、ともかく第1ページは手書きで、トップに「半村師匠情報」。今もとぎれることなく電子本や翻訳、ドラマ化、朗読などの情報が掲載されますから、たいしたものです。

内容は会員間の消息や読書感想、旅行記、日常雑記などが多いですが、これもファンジンらしくて面白い。最近では竹上昭(野村芳夫)さんの連載「忘れ草」が圧倒的な面白さでしたね。一時期、半村さんのアシスタントを務めてられた方ですが、ファン時代のことから、荒俣宏氏との学生時代の交流、早川時代、半文居時代のエピソードなど、まったく未知のSF史を見る思いで……これは書き足して1冊にならないかなあ。むつかしい事情もあるかな(笑)。このあたりがファンジンのいいところかな。

雀部 >

500号超えは素晴らしいというか驚異です。掲示板「赤き酒場」も稼働中ですね。

「忘れ草」は、日本SF史にとっても得がたい連載でしょうね。

堀  >

さっき挙げた『石原藤夫ショートショート集成 』のは編者が高井信さんですが、高井さんも長年「SFハガジン」を出されてまして、これもファンジンと見ていいでしょうね。

雀部 >

高井信先生にはインタビューをさせて頂きました。ハードSF研公報を拝見すると、精力的に活動されているみたいで、またお話をうかがいたいと思っています。

堀  >

高井さんにはぜひまたインタビューしてほしいですね。ハガジンはハガキにショートショートを印刷した形式のファンジンで、1970年頃に戸倉正三さんが出していた「ミクロSF」が最初の(というか唯一の)ハガキ・ファンジンでしょう。それを復活させたのが高井信さんで、この掲載作がネオ・ベムから色々と出てますね。

『日本ショートショート出版史』はSF大賞の候補になりましたし、ショートショート集では、ご自身の『神々のビリヤード』、山本孝一『ホシヅルの惑星』、尾川健『漢字の夢』、深田亨『海の中の赤い傘』など、傑作がつぎつぎ出てます。

雀部 >

書肆盛林堂が色々出してますね。「ファンジン魂」も買ってみました。(紹介は別ファイルにて)

堀  >

盛林堂は『未来趣味』や『石原藤夫ショートショート集成』の版元ですが、SFやミステリーのマイナーな出版の販売にも協力的ですね。

出版と流通の形態が大きく変わってきたことが大きいのでしょう。オンデマンド出版が増えました。

西秋生さんの『神樂坂隧道』がそうでしたが、チャチャヤング・ショートショートの会が出している『チャチャヤング・ショートショート・マガジン』も通巻10巻まで出ています。ショートショートより短編が多いですが、ここは実力者揃いですね。岡本俊弥さん、雫石鉄也さん、深田亨さん、和田宜久(海野久美)さん、大熊宏敏さん、柊たんぽぽさんら、「星群」や「風の翼」で書いてきて、眉村さん中心に勉強会を続けてきたメンバーですから、レベルは極めて高いです。

マガジンとは別に、別冊でショートショート集(雫石鉄也『ボトルキープ』や深田亨『昭和アパート奇聞録』など)も出ていますし、深田さん、和田さんは、近年「ショートショートの宝石箱」にも収録されていて、もう名手というべきですね。

これらはKindleで無料で読める期間があったりして、要注意です(笑)。

雀部 >

石坪光司氏の作品が載っている「星群 90号」も買ってみました。

岡本俊弥氏は、「チャチャヤング・ショートショート・マガジン」で読んだことがあります。Amazonで、電子本とオンデマンド本が買えるようなので読んでみます。

堀  >

石坪光司さんは星群の中心メンバーで、SFアドベンチャーで実質デビューしている人ですが、「星群」復活号以外にも、眉村さんの講座でずいぶん書かれているんです。まだ公開されてないですが、これから色々出てくるのではないかと思います。

岡本俊弥さんの活躍は凄いです。SF誌が多かった時代からブックレビューを続けられてますし、「星群」「風の翼」以外に、長年活動してきた海外SF研究会のネット誌「THATTA ONLINE」でも創作を続けられてます。近年の創作が『機械の精神分析医』『2038年から来た戦士』『猫の王』にまとまってますが、これは何というか、ファン創作のレベルではないですね。話すと長くなりそうで……岡本さんにはアニマ・ソラリスでインタビューしていただけませんか。特に書評と創作の両立には興味がありますからね。

雀部 >

書評と創作の両立には、私も興味がありますね。

ぜひお願いしたいところです。

堀  >

こうしたSF同人誌、ファンジンの「隆盛」は、ふたつの事情によると思うんです。

ひとつは出版事情ですね。SFマガジンが隔月刊になって、月刊のSF雑誌がなくなった。しかし、SFファンの体質は月毎に何か変化を求めるんですよね(笑)。ぼくの記憶では、『果しなき流れの果に』連載中なんて来月はどうなるのかわくわくしましたし、筒井さんの「マグロマル」「トラブル」からの数年なんて、来月はSFの状況がどう変わるのかハラハラドキドキしましたからね。

短編の発表媒体が限られてきたこともあって、書き下ろしアンソロジーが増えてきました。これらにファンジン、同人誌、オンデマンド出版が並びます。さらにネット通販での購読が主流になると、商業出版もファン出版も、あまり区別がつかなくなってきます。レベルも大きく変わらないとなると、もう混沌としてきて……要するに定期刊行されるファンジンが待ち遠しい気分になってくる訳です。

もうひとつはSFファンの高齢化……といってはまずいかな。今まであげてきたファンジンのメンバーの多くがリタイア世代なんです。ぼくより十年ちょっと若い世代が多いのかな。やっと会社勤めから解放されたという気分が、じつによくわかります。登場人物がそれなりに歳をとってるあたりも、意外にしっくりくるんですね。

ハードSF研公報の200号で森東作さんが「ファンジン雑感」で、(ファンジンの)活動が停止する要因の一つは、「興味」の拡散等によって「やる気」が失われること、と書かれてます。逆にいえば、リタイアするまでSFへの興味も情熱も失わないのは凄いですよね。

それに、技術系で優秀な人は某国から年収○千万でスカウトされるなんて話がありますが、そちらには目もくれずSFに。これは尊敬に値しますね(笑)。

いい面も悪い面もあると思いますが、好きなことをやっと気遣いなしにやれるのというのはいいことではないですか。

雀部 >

すみません、20年前から気遣いなしに好きなことをやってきてます(笑;)

ファンが高齢化してきたので、SFは衰退しているのかと思いきや、大森望先生によると日本SFは隆盛の時代だそうですね。若い書き手がどんどん出てきている。

今回、堀先生の「循環」「10月2日を過ぎても」と故眉村先生の『その果てを知らず』を続けて読んで、底に流れる空気感が肌になじむ感じがしまして……

年齢的なものもあるだろうし、SF作家の書く幻想小説(終活小説?)に共感を覚えました。

小松先生、眉村先生、堀先生、かんべ先生、筒井先生(すいません順不同で)、大阪はSF作家と相性が良いのでしょうか?

堀  >

ぼくのはボケ老人の徘徊SFで(笑)、ただ取材できる「宇宙」が年々狭まってきまして、歩ける範囲がせいぜい5キロ圏内……眉村さんのこの数年の作品が、じつによくわかるんです。

雀部 >

そんなに年が違わないので、そこらあたりは実によく分かります(笑)

堀  >

大阪(関西)とSFの相性というと……これはまた長くなるなあ(笑)。

ぼくの試算では、関西3府県のSF作家密度は関東4都県の1.7倍なんです。これはなぜなのか。じつはここ数年、大阪の創作講座で、ぼくがインタビュアーになって「関西在住のSF作家にその創作法を聞く」という企画をやってるんです。インタビューの最後に「関西とSF」について皆さんに質問しました。答えはまちまちでしたね。先日で一応区切りとしたので、オンデマンドになるか未定ですが、ファン出版のかたちでまとめたいと思ってます。

雀部 >

1.7倍にもなるんですか。想像していたより多いかも。

出版を楽しみに待ちます。私はそれほど大阪に詳しいとは言えないけど(汗;)

堀  >

ひとつ紹介すれば、大阪が体質的に染みこんでいる代表格は田中啓文さんですね。生まれが新世界の近くで、いちばん記憶に残る大阪は「天王寺公園の図書館で夏に上半身裸のおっさんがゴロゴロ昼寝していた光景」だそうで(笑)、これは作品に直結してますね。後に振るばかりですが、ぜひとも田中啓文さんにも再登場を。

雀部 >

田中先生は、最近ミステリから時代小説まで大活躍されてますね。またお願いしてみます。

色々とご紹介いただきありがとうございました。

記念号に堀先生にご登場願えたことはいくら感謝しても感謝しきれません。

本当にありがとうございました。

最後に、堀先生の近刊予定とか執筆中の作品がございましたご紹介ください。

堀  >

自分の作品のことになると、怠慢状態が続いていて話しにくいですが(笑)、20数年でだいぶ未刊行の短編が溜まっているので、まとめようという話がないではないです。これを機会に気合いを入れて、作品を整理しようと思います。

それと、いつか書けるかなと思いながら結局書けない作品については、ハードSF研公報に連載させていただいてるんですが……ぼくなりの『できそこない博物館』ですね……あと数回、その後も石原さんが続けられている限り、新企画をやるつもりです。

まあ、長くてもあと10年ほどですから(笑)。

[堀晃]
1944年兵庫県生まれ。大阪大学基礎工学部卒。'70年「イカルスの翼」でデビュー。宇宙SFを中心に創作を続け、『太陽風交点』で日本SF大賞、『バビロニア・ウェーブ』で星雲賞を受賞。ホームページは、http://www.sf-homepage.com/
[雀部]
1951年生、歯科医、SF者、ハードSF研所員、元ソリトン同人