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月別アーカイブ: 2月 2011
『華竜の宮』と「リリエンタールの末裔」、『SFが読みたい!2011年版』
『SFが読みたい!2011年版』で、国内編第一位になった『華竜の宮』。上田早夕里さんおめでとうございます。(^o^)/『華竜の宮』著者インタビューは、以下 「アニマ・ソラリス著者インタビュー」 このインタビューで語り切れてないこともあるんですが…… 一つ目は、SFマガジンのインタビューで初めて知ったんですが、和歌山県で発見された「ハテナ」という単細胞生物の記事が「魚船・獣舟」のアイデアの元になってるんですね。(分裂時に、片方は葉緑素を持つ植物型に、もう一方は口を持って動き回る動物型になる。動物型の方は、ある特定の藻類を取り込むと植物型に変異し光合成を行うようになる) 『華竜の宮』の中で、獣舟が「人ならぬもの」を産み出すところがありますが、これはSFファンとしてはとても納得出来るものでした。並はずれた環境適応能力を持つ獣舟が、地球上で一番成功していると思われる人類形態を真似るのは必然でしょう。それと、「ハテナ」と同じく、人間の肉を喰らうことによって、「舟型」から「人型」に変異することも。こういう裏に潜んだ設定を色々推理する楽しさも喜びでしたね。 もう一つは、『SFが読みたい!2011年版』の「SF総括座談会」で鏡明さんが言われている『華竜の宮』ラストに関する“やっぱり最後のあの一文はないと思う。それをなんとかするのがこれまでのSFだったから”という反発。う~ん、たしかに“これまでの”我々オールドファンの読んできたSFはそうだったのですが。ハインラインしかり、クラークしかり。私には、青澄の生き方そのものは、マキのニューバージョンに託されたと感じて、カタルシスを覚えたんですけどね。そういう面から言うと、ハッピーエンドと言えなくもないラストだと思いました。 結局のところ上田さんは、現代文明そのものはそれほど価値のあるモノとは思ってらっしゃらないのではないかという印象があります。小松左京先生あたりだと、人間は間違うかも知れないけれど人類の英知を結集すればそれを乗り越えていけると思われている感じがありますが、上田さんは、人間をそれほど高く買ってない感じを受けてます。特に最近のニュージーランド地震の報道のやり方などを見ていても、ちょっと虚しくなってしまいます。そういう現代文明に対する落胆を前提にすると、あのラストは、また違った意味を持ってくると思うんですよ。マキは思考回路が違うから、当然独自の《心》を持つと思いますし、人間よりは稼働年数も生存範囲も広そうな――しかし青澄に代表される人間の考え方に影響を受けた――思いやりの心を持った電脳意識体と、人間に由来する遺伝子から産み出された適応能力が極めて旺盛な擬似人間(遺伝子データ)。この宇宙に人類が確かに生存したという証として、確かに相応しい組み合わせかも知れません。 今まで大半の現代社会は、環境を変えることによってその繁殖範囲を広げてきたわけですが、魚舟は自己の肉体を変えて環境に適応する能力が旺盛な人間由来の遺伝子を持った生物ですよね。その生物を、人間の欲望から無縁で、肉体的な弱さも持たない人間の良いと思われる面だけ備えた人工生命体が教育して完成する、新しい人類に、上田さんは最後の夢を託しているのではなかろうかと…… 上田さんの最新作として「SFマガジン」2011年4月号に「リリエンタールの末裔」が掲載されてます。真っ先に、マーティンとタトルが競作した『翼人の掟』を思い出してしまった“飛行する”ことに拘った好短篇です。飛ぶことへの憧れと共に、上田さんが語りたかったのは、自分のやったことに責任を持つことの大切さなのではないでしょうか。
BL系『青の軌跡(上・下)』久能千明著
新惑星Σ‐23を目指す惑星探査船のクルーとなった傭兵あがりの三四郎は、当直のその日、コールドスリープから目覚める。長い歳月を要するこの航海は、コ ンピュータにより精神面はもちろん身体の相性も最高と判断された武官と文官の組み合わせ“バディ”達によって運行される。しかし、三四郎の相手として現れ た人物は、万華鏡の瞳をもつ月生まれの美しい男カイだったのだ。驚きも束の間、二人を乗せた船が、突然軌道を外れ始め―。 かなりSF的な設定も作り込んであるBL作品。カイは、他の人間の感情的反応や肉体的反応を自分のものとして感じ、同時に自分の感情や肉体で感じ取った感覚を相手に伝えることができる能力の持ち主。精神的肉体的LOVEが二倍になってしまうという。ちょっとアナクロだけど謎解き要素もあって、SF的な設定や謎解き総てがBLを描くために存在しているという凄い作品です。SF読者のためのBL入門書としては好適かも(笑)
カテゴリー: BL(ボーイズラブ)
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BL系『WEED』『WELL』木原音瀬著
実は、知り合いからSFぽい設定だからと言うことで『WELL』を薦められたのですが、うろ覚えだったので、購入したのが同じ作者の『WEED』だったという(笑) エリート医師の若宮と悪友・谷脇はある雨の夜、一人の男を拾う。一夜限りの刺激的な遊びと、男を無理やり弄んだ若宮たちだったが、一週間後その男・岡田と 偶然自宅で再会してしまう。さらに、あの夜以前にも若宮は岡田に出会っていたと告げられ…。こんなに求めたことはないから、どうしていいかがわからない。 そんな恋に出会ってしまった―。 本格的なBLの本を読んだのは初めてなのですが、なんか凄い……。支配vs被支配の関係が徐々に破綻していく様が見事に書かれていて、背中がぞくっとしてしまった^^; ある日すべての建物が突然崩壊し、多くの人間や動物が死んだ。地上は灼熱の太陽と白い砂漠だけになった。地下にいて助かった幼馴染みの亮介としのぶは、食 べ物がなく酷い空腹に苦しんでいた。このままでは餓えて死んでしまうと焦る亮介に、「亮ちゃんが一緒ならいい」と言うしのぶ。亮介は苛立つが怪我をした身 では動けなくて…。―突如生と死に直面した高校生二人の、切ない愛の物語。 SF的にはそんな凄い設定はありません。読みどころは、ホロコーストもので語られるBL。極限状態における少年の心理の動きが鮮やかに書かれてます。極限状態を突き詰めてしまったために、ややLOVEの面のインパクトが薄れた感じがするので、個人的には、『WEED』の方によりショックを受けたのですが……。
カテゴリー: BL(ボーイズラブ)
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孫に読ませたい(笑)その2『どろんころんど』
北野勇作先生には、我が「アニマ・ソラリス」で何回かインタビューをさせて頂いてるし、著作は全部読ませて頂いてるのですが、この本を読んで、初めて北野ワールドと童話の相性の良さに気がつきました。 アンドロイドの少女アリスが長い休止状態からから目覚めると、そこには地平線の彼方まで広がる泥の海があり、あれだけ大勢いたはずのヒトは姿を消していた。アリスの「仕事」は人間相手に商品説明をすること。その「仕事」を全うするため、商品である亀型子守りロボット、レプリカメの万年1号をお供に、いなくなったヒトを探して、アリスはどろんこの世界に旅だった。 「21世紀、SF評論」の記念すべき第1回目に取り上げられたのがこの本です。 的確な評論・評価は、「21世紀、SF評論」にゆずるとして、『どろんころんど』の魅力は、やはり娘を思う親心かな。一家に一台レプリカメ!欲しいですよね。2011年版「SFが読みたい!」国内編で第二位に選ばれたのもむべなるかな(^o^)/ 北野さんの作品では、登場人物たちがかなりのほほんとしていて(笑)、自分が本物の人間どうかとか、ほとんど気にしない。アイデンティティの問題は、SFでは主要なテーマとなるくらい重要な問題なのですが、この視点のずれさ加減そのものが、北野さんの作品をSFたらしめていた根底だと思うのですね。それが、「21世紀、SF評論」に書かれている通り、カメの万年1号=娘を守る父親の視点から書かれたことによって、少し変わってきてはいるのですが、わけわかんないけど面白い北野勇作ワールドは、ますます絶好調ですねヽ(^o^)丿
カテゴリー: 作家別, 北野勇作, 孫に読ませたい(笑)
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孫に読ませたい(笑)その1『「希望」という名の船にのって』
最初なので、なぜ孫なのかを。それは、三人の息子たちをSFファンにするのを失敗したから(汗;) 発端は、息子たちと同じSFを読んで、感想を言い合えたらSF者としての冥利に尽きると思っていたわけですが、SFを読まない大人になってしまって。 ラノベ、アニメ、SF映画、ゲームはやるんですが…… で、孫が出来たのでその失敗を取り戻すべく計画を立てているわけです(笑) 『「希望」という名の船にのって』森下一仁著、きたむらさとし画 ’10/7月刊、ゴブリン書房、1500円 粗筋:20XX年、地球に正体不明の病原体が広まり、人類は絶滅の危機におちいっていた。病原体から逃れて、いつ果てるともない新しい地球を求める旅に出発した41名の人々がいた。12歳のヒロシは、地球のことを知らない「船生まれ」の子供。ある日、人間しか居ないと思われていた船内に、他の動物が居ると聞いたときからヒロシを取り巻く世界は大きく変わり始めた……。 ヒロシと子ども達が理詰めで船内の矛盾を解きほぐしていく課程が良いですねぇ。こんな息子が欲しかった(笑)オールドSFファンなら真っ先に、世代型宇宙船の世界を描いたハインラインの『宇宙の孤児』を思い出すことでしょう。対象年齢は、たぶん小学校高学年。待ち遠しいことよ(笑) 「アニマ・ソラリス」の著者インタビューの時に読ませて頂いた片理誠さんの『終末の海』も、同じく理系の子供が活躍するジュヴナイル小説で、こちらもお薦めできます。 http://www.sf-fantasy.com/magazine/interview/101001.shtml
カテゴリー: 孫に読ませたい(笑)
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