高丘哲次先生著者インタビュー関連書籍

関連書籍に関しては、高丘哲次先生のTwitter(@TetsujiTakaoka)の固定ツイートを参考にしました。
ネタバレしている箇所が多々ありますので、未読の方はお気をつけ下さい!

「波」4月号新潮社「波」(2020.3.25)、売り切れですが、内容は新潮社のサイトで読めます。今号の表紙は阿川佐和子先生です。

「留守番電話」(エッセイ)高丘哲次著
奥様が癌の疑い有りと診断され、そこからの数日間で創作への取り組み方も変わったと記されています。奥様のその後の経過についても、著者インタビューでうかがっています。


「小説新潮」2020年6月号(2020.5.22)

「円の終端」高丘哲次著
大規模な温暖化と海底の地殻変動が組み合わさった結果、地球の表面は海で覆い尽くされていた。
その空を四億羽の鳥の群れが飛び続けていた。彼らは羽を休める陸地が無いため一生空を飛び続けなければならないのだ。
人間とハクセキレイの遺伝子交雑により生まれた人に近い知性を持つ鳥たち。一羽一羽が脳細胞だとしたら、鳥のさえずりが神経間の伝達を司る集団知性なのだ。
遺伝子の均一化を防ぎ劣性遺伝子が出現しないように、彼らは一年に一度、ツメナガセキレイの集団と逢瀬を重ねるのだった。

「小説すばる」2020年6・7合併号「小説すばる」2020年6・7月合併号(2020.6.17)集英社

「私的偉人伝」(エッセイ)高丘哲次著
“傑王罷りて母の土産話と相成らむ”
中国語を習っている母親が、中国から送ってくれた記念写真の中に、黄金の彫像が顎をそらせて虚空を睨めつけているものがあった。それが「傑王之像」で、彼の高潔な生き様は敵軍も感銘を受けて像が造られたという。


別冊文藝春秋2020年7月号

別冊文藝春秋2020年7月号

「別冊文藝春秋」2020年7月号(6/19)

「新刊インタビュー」(高丘哲次先生インタビュー)
デビューまでの道のりと、『約束の果て 黒と紫の国』がどのようにして着想されたかを語られています。


「野生時代」2020年8月号「野生時代」2020年8月号(2020.7.13)

コラム「告白と赦し」“告白します” 高丘哲次著
高丘先生の犬のうんちにまつわる中学時代の話。


『後宮小説』『後宮小説』酒見賢一著

冒頭“腹上死であった、と記載されている”から始まる、第一回日本ファンタジーノベル大賞受賞作品
時は槐暦元年、腹上死した先帝の後を継いで素乾国の帝王となった槐宗の後宮に田舎娘の銀河が入宮することにあいなった。物おじしないこの銀河、女大学での奇抜な講義を修めるや、みごと正妃の座を射止めた。ところが折り悪しく、反乱軍の蜂起が勃発し、銀河は後宮軍隊を組織して反乱軍に立ち向かうはめに……。


『約束の果て 黒と紫の国』書影

『約束の果て 黒と紫の国』

『約束の果て 黒と紫の国』高丘哲次著、久島優装画
2020.3.25、新潮社、1600円

以下、完全にネタバレしているので、未読の方はお気をつけ下さい!

“すみれは、種子にエライオソームと呼ばれる蟻が好む誘因物質をくっつけていて、運搬行動を誘発し、その種子を散布させる”というのは、元々メインのアイデアひとつではないかと考えていたのですが、著者インタビューでうかがったところ、実は「長編化するにあたり、蟻の集合による大知性体を倒すものは何かと考えたとき、菫に辿り着いたかたちです。」とのことでしたので、元々アイデアとしては持たれていたものが、長編化する際にうまく結実したということみたいです。
この蟻⇔菫の関係性は『約束の果て 黒と紫の国』の構成そのものに深く関わってきているような気がします。
表の帯の煽りに“「悲劇」を超克する鍵は二冊の書物”とあり、裏でも“伝説の国、壙と?南の王を巡る、ある「悲劇」が記されていた”とあります。
この「悲劇」とは何が原因だったのでしょう。それはその王二人が、蟻の識人と菫の識人であったためなのではないでしょうか。
「識人」というのは、神によって創り出された知性体で、ブリン氏の《知性化シリーズ》でいうと「類属(クライアント・レース)」に相当かな。蟻の識人というと蟻の性質を備えたヒューマノイドとの認識で良いかも。
【第一章 旅立ちの諸相】
梁斉河、伍州で「壙国の?九なる人物が、?南国の瑤花にこの矢を捧げるので受け取って欲しい」という意味の銘文が刻まれている“青銅の矢を象った装身具”を発掘し、当該国がいずれの史書にも記録されておらず、わずかに『南朱列国演義』(小説)と『歴世神王拾記』(偽史)に記されているのみだということを知る。
『南朱列国演義』
伍州を統べる壙王・?帝の第四三二〇一王子・真气が、祭祀をおこなうため、はるか南の?南国に赴くところから始まるのですが、?南国の女王である瑤花が、たった一人で出迎えにやってきます
真气は、蟻の識人である?九の一部が操る人間であり、瑤花は菫の識人であったのでそれとは知らず引かれ合ったのではないかと推測。
瑤花は、植物全般を自由に操ることの出来る菫の識人であり、しかも先代の記憶を代々受け継いでいるという、梶尾真治氏の「エマノン」のような設定であることはラストで明らかになります。
瑤花は天真爛漫で身の安全にもかまわない童女ぶりを発揮してますが、それはその知識と圧倒的な能力により、ほぼ恐れる事象がないので危険にも無頓着になってしまったと推測されます。
実は次の『歴世神王拾記』のパートの方が時代が前になるのですが、最初読んだ時は全く気づかず。
『歴世神王拾記』
神と人が交わっていた民神雑糅の時代。伍州の総てを支配する地神は、自らの権能を分け与えて識神(後に転生して識人と呼ばれるようになる)を作り上げた。
?九が最初に登場するとき「性質は愚鈍で烏滸のようにも見えた」「珀嫗の命令によってうごくばかりで、自ら考えて何事かを為すことはない」と書かれていて、これは働き蟻の識人としては至極まっとうな性質だとは思いますが、少し可哀想な感じもします(笑)
で、地神が識神を使役するだけではなく、年に一度その労に報いるために宴礼射儀を催しているのですが、その宴での?九と瑤花の最初の出会いが語られています。この出会いが、?九を弓道に目覚めさせ、ひいては伍州の歴史そのものを変えていくことになろうとは。
権能を持たない普通の人間は沽人と呼ばれ、宴礼射儀が行われる土地には入れないのです。
『南朱列国演義』
真气は、?南国の将来のことを考えて常に目を閉じているのですが、それ故に熊の識人である炎能や蜂の識人である微鳳の正体に気がつきません。もちろん読者も。ここらあたりの構成・進行は、憎いばかりに決まってますね。
『歴世神王拾記』
切磋琢磨し自作ではあるがそれなりの弓と矢を手にした?九は、再び宴礼射儀に参加し第二位になるが、弓を壊してしまう。瑤花は?九を慰め、菫の花を散らした花冠を贈った。そして?九は瑤花に、つぎこそ折れた弓だけではなく矢を贈ることを誓う。
しかし?九は、沽人である商人の禺奇の甘言に乗せられ、その花冠を飛びきり上等な弓と交換してしまいます。
それが「悲劇」の始まりだったとは……
実は、この花冠こそが、その後の歴史を大きく動かすアイテムなのです。
以下、完全にネタバレというか、粗筋を書いてしまっているので、白フォントで隠してます(汗;)

その後、沽人の禺奇による宴礼射儀会場への襲撃、識人たちの殲滅戦があり、その際に?九も薄裂きにされ殺されてしまいますが、43201匹の蟻に転生し、沽人の脳内に潜り込み人を操ることを覚えます。
そして、それが?帝と壙国の始まりとなります。そして最盛期には、伍州の三分の二を統べるところとなる。
一方、伍州の三分の一は、禺奇が統べる国となりますが、壙国との境には広くて深い河があり、お互いに攻め込むことが無理な状態となっています。
その後、壙国と禺国との戦役があり、なんとか壙国の勝利で終わります。
その後の展開としては、壙国からに使いが来て、瑤花を壙国に招く、要は人質として差し出せという金文が届き、やむなく瑤花は壙国に赴くことになります。
瑤花は、微鳳の助けを得て、真气と共に?南国に戻ることが出来ます。
そして、ついに壙国が?南国に攻め込んできます。

ラストで、「大地に咲く菫の花が、一斉に空へと舞い散った。」のは象徴的ですね。
菫の種子を広く散布させるのが蟻の仕事なのだから、ついに瑤花との約束を果たした?九は一緒に遠くに飛んでいくしかないのです。

以上、独断と偏見による『約束の果て 黒と紫の国』ネタバレ解説でした。異論は認めます(笑)

「クアトロプリンセス」と「宇宙駆ける釣りケーキ」進藤尚典著

どちらも、ゲンロンSF講座第三期生の進藤尚典先生のお話しです。
「クアトロプリンセス」
主人公は、人気が無くなってきたアイドル声優たち。かつては少女戦隊ものアニメで一世を風靡した彼女たちも、今は場末のショーに出ても既に需要が無い。鬱々とした毎日を過ごしている彼女たちに明るい未来はあるのか!。
進藤先生の言葉を借りると「ストーリーは「負け犬たちのワンスアゲイン」(注;RHYMESTERの宇多丸さんが映画評でよく使う、ダメダメな登場人物たちが一念発起して大一番の勝負に臨む「ロッキー」のようなストーリーのこと)」。
美人声優が好きな少年たちや、セーラームーンとかプリキュアが大好きな少女達にもお薦め(笑)

「宇宙駆ける釣りケーキ」
自分たちだけの「秘密基地」を見つけた少年たちの冒険。
秘密基地って、子供の頃憧れましたよね。
うちの孫(小5男児、剣道してます)は、釣りの魅力があまり理解出来ないようなので、剣道の試合で宇宙人と戦い、勝利して、宇宙人に剣道を教えて小遣いを稼ぐ話にして読んでやったらけっこう受けました。
主人公の名前は孫の名前、お話しの中の友達の名前は実際の友達の名前にしておくのはお約束(笑)ドラえもんの四次元ポケット的な面白さもありますし、色々応用が利くお話しです。


「推しの三原則」書影

第3回ゲンロンSF新人賞大森望賞受賞作
著者インタビューはこちらから

  • 進藤尚典著/大森望解説
  • ゲンロンSF文庫Kindle版
  • 385円(税込)
  • 2020.6.10発行

平谷美樹先生、2017年度の出版書籍

平谷美樹先生著者インタビュー関連書籍一覧
以下の8冊が、2017年度出版書籍です(『でんでら国』は上下巻なので2冊にカウント)
『江戸城御掃除之者!』2月
『鉄の王 流星の小柄』4月
『草紙屋薬楽堂ふしぎ始末 絆の煙草入れ』5月
(『でんでら国』(上・下)文庫化)6月
『雀と五位鷺 推当帖』10月
『江戸城御掃除之者! 地を掃う』11月
『草紙屋薬楽堂ふしぎ始末 唐紅色の約束』12月

以下は、平谷美樹先生2017年度出版書籍と関連シリーズの紹介です。


『江戸城御掃除之者!』平谷美樹著、平沢下戸カバーイラスト
2017/2/25、角川文庫、640円
江戸城の掃除を担当する御掃除之者の組頭・山野小左衛門は、上司から極秘の任務を命じられる。それは男子禁制の大奥の掃除。七代将軍徳川家継の生母である月光院付きの御年寄・音羽が何年も局に籠もり、局が汚部屋と化しているらしい。
精鋭の配下六人を集め、大奥へと乗り込むが、そこには大奥女中による防衛線が築かれていた……。

『江戸城御掃除之者! 地を掃う』平谷美樹著、平沢下戸カバーイラスト
2017/11/25、角川文庫、640円
江戸城の掃除を担当する御掃除之者の組頭・山野小左衛門は、またも上司から極秘の任務を命じられる。紅葉山文庫からある本がなくなったというのだ。
今回の任務は艶本探しなのか!?疑わしき人物を御風干の掃除に乗じて誘い出そうとするが、同時に黒鍬者たちとの掃除合戦もはじまって……

『江戸城御掃除之者! 玉を磨く』平谷美樹著、平沢下戸カバーイラスト
2018/3/25、角川文庫、680円
「本丸御殿の御掃除を〈御掃除屋 武蔵〉に任せよ」。目安箱に投函された訴状をきっかけに、江戸城御掃除之者と民間掃除屋の御掃除合戦が勃発する!
上野の東叡山寛永寺双子堂を舞台に腕比べが行われることになったが、その裏には将軍位争いに遺恨を持つ尾張徳川家の影が見え隠れしていた。忍び寄る尾張の魔の手……

『鉄の王 流星の小柄』平谷美樹著、遠藤拓人カバーイラスト
徳間文庫、2017/4/15、720円
時は宝暦四年(1754)、鉄屑買いの鉄澤(さなき)重兵衛は下野国の小藩の元・鉄山奉行だった。藩が改易になり、仲間と江戸に出てきたのだ。その日、飴を目当てに古釘を持って来た顔馴染みの留松という子が、差し出したのは青みがかった銀色の光を放つ一振りの小柄だった。それは、希少な流星鉄(隕鉄)を使った鋼で作られていたのだ。しかし、その夜、留松の一家は惨殺され、重兵衛たちは否応なく事件の渦中へ……。

『鉄の王 伝説の不死者』平谷美樹著、丹地陽子カバーイラスト
徳間文庫、2018/9/15、690円
多霧は13歳。歩き蹈鞴衆の橘衆の頭の長女だ。ある日、越後山野領の山中で、大量の惨殺死体が転がる蹈鞴場を見る。生き残りと思われる瀕死の若者を助けるが、手当後、目を離した隙に彼は姿を消した。「逃げろ、俺に関わるな」という一言を残して……。一方、橘衆は覆面武家集団の襲撃を受けていた。彼らの目的は「不死の者」を探すことだった。


『鉄の王 唐金の兵団』平谷美樹著、丹地陽子カバーイラスト
徳間文庫、2018/12/15、790円
多霧たち歩き蹈鞴衆の橘一党は、踏鞴場を求めて出雲にいた。その山中で唐金(青銅)の鎧に身を包んだ猪の集団が、山廻りの侍たちを全滅させるのを目撃。猪を操っているのは謎の唐金の踏鞴衆であった。猪のみならず、熊や狼をも操る唐金の踏鞴衆とは? 戦いに巻き込まれた多霧たちは、陸奥の国から駆けつけた夷月の霊力を持ってしても調伏できない恐るべき呪いと対峙することになる。出雲神話に隠された真実が明らかになる時、恐怖の王が解放される……

『草紙屋薬楽堂ふしぎ始末』平谷美樹著、丹地陽子カバーイラスト
2016/10/15、大和書房、680円
「謎を解いて、見事に怪異を鎮めてみせるよ」
時は文政、江戸の通油町にある本屋・草紙屋薬楽堂に戯作を持ちこんだのは、地味な三筋格子の着物を粋に着こなした、鉢野金魚。薬楽堂に居候する貧乏戯作者・本能寺無念とともに巻き込まれるのは、あやかしの仕業とも囁かれる怪事件……


『草紙屋薬楽堂ふしぎ始末 絆の煙草入れ』平谷美樹著、丹地陽子カバーイラスト
2017/5/15、大和書房、680円
「気の強ぇ女が二人――こいつぁ危ねぇ組み合わせが出来上がっちまったな」
時は文政。江戸の通油町にある本屋、草紙屋薬楽堂の面々に、曲亭馬琴に認められた武家の女、只野真葛が加わった。売出し中の女戯作者・鉢野金魚(はちのきんとと)と貧乏戯作者・本能寺無念(ほんのうじむねん)、もと御庭番の読売屋・北野貫兵衛らとともに、真葛は怪異がらみの噂と企みの背後の闇を探り始めるが……


『草紙屋薬楽堂ふしぎ始末 唐紅色の約束』平谷美樹著、丹地陽子カバーイラスト
2017/12/15、大和書房、680円
「あたしはあんたがどこへ行ったって、必ず見つけてあげる」
時は文政、江戸の通油町にある本屋・草紙屋薬楽堂が特別に誂えた大切な表紙紙が盗まれた。知恵者の売れっ子戯作者・鉢野金魚と貧乏戯作者・本能寺無念は、金魚の遠き友への想いがこもった唐紅色の紙を取り戻すために、現場となった表紙仕立屋・播磨屋を訪ねるが……。

『草紙屋薬楽堂ふしぎ始末 月下狐の舞』平谷美樹著、丹地陽子カバーイラスト
2018/10/15、大和書房、680円
「見えないかい? 月明かりの中の妖しく美しい狐の舞が」
時は文政、ある雨の日、江戸の本屋・草紙屋薬楽堂に持ち込まれたありふれた人情噺の裏には、禍々しくも哀れな狐憑きの噂が……。
推当物を得意とする女戯作者・鉢野金魚と貧乏戯作者・本能寺無念、武家の女・只野真葛、高名な父を持つ女絵師・葛飾応為ことお栄は、切ない出口なしの物語を「一番の結び」に導く大芝居を計画する。


『草紙屋薬楽堂ふしぎ始末 名月怪談』平谷美樹著、丹地陽子カバーイラスト
2019/9/15、大和書房、680円
「次の百物語では必ず怪異が起こる」
時は文政、推当物が評判の女戯作者・鉢野金魚は、武家の女・只野真葛、貧乏戯作者・本能寺無念らとともに、怪異の謎を解き明かすべく、亡魂が現れるという百物語に参加するが……。


『でんでら国(上・下)』平谷美樹著、影山徹カバーイラスト2017/6/11、小学館文庫、上巻610円・下巻540円
時は幕末、陸奥国八戸藩と南部藩に挟まれた小さな国、外館藩西根通太平村。大平村には、60歳になると村での役割を全て解かれ、御山参りをする習わしがあった。それは、食い扶持を減らすための姥捨ての旅とも囁かれていた。しかし、その実態は……。 山に捨てられた老人達が、理想の村を作って生活を営む、そんな国を暴こうとする代官とそれを守ろうとする農民たちのあっと驚く攻防戦が始まる。


『雀と五位鷺 推当帖』平谷美樹著、苗村さとみ装画2017/10/18、ハルキ文庫、680円
家康が幕府を開いて三年目の慶長十一年。江戸はかつてない賑わいにあった。
傾城屋(遊郭)の五位鷺太夫は江戸で三本の指に入る美人の売れっ妓である。その妹女郎の雀はまだ客をとらず、もっぱら五位鷺の身の回りの世話をしている。ある日、呉服屋の主が辻斬りに殺められた。五位鷺は雀に事件を調べるよう命じる。五位鷺は、年寄や奉行が事件について話し合う寄合や奉行が事件について話し合う寄合衆にお茶汲みとして参加し、そこで自分の推当(推理)を披露することで、実力者に気に入られようと企てていたのだが……。

遠隔戦闘もの三作品

マージナルオペレーション

原作:芝村裕吏
漫画:キムラダイスケ
2013.11.22、講談社、kindle版
三〇歳のニート、アラタが選んだ新しい仕事、それは民間軍事会社―つまり、傭兵だった。住み慣れたTOKYOを遠く離れた中央アジアの地で、秘められていた軍事的才能を開花させていくアラタ。しかし、点数稼ぎを優先させた判断で、ひとつの村を滅ぼしてしまう。モニターの向こう側で生身の人間が血を流す本物の戦場で、傷を乗り越えたアラタが下した決断とは―?


バトル グラウンド ワーカーズ

『バトル グラウンド ワーカーズ』
竹良実著
2019.8.30、小学館、kindle版、605円
“失業中に30歳を迎えた平仁一郎は、未知の生命体「亞害体」と戦う人型兵器「RIZE」を遠隔操縦する職に就いた。”
遠隔操縦中に繋がったままRIZEが完全破壊されると、操縦者の生命も失われるので強制離断できるが、その回数に制限があり、そこが読みどころとなっています。
青年誌の〈ビッグコミックスピリッツ〉にて連載中。最近「亞害体」に関して意外な展開を迎えてますが、今週号(24.25合併号)ではさらに??な展開に(汗;)
これ、作者はどう落とし前をつけるのでしょう。興味津々です(笑)


『在宅戦闘員』中条卓著
http://www.sf-fantasy.com/magazine/serials/nakajo/index.shtml
凄腕のゲーマーであるカオル君が迷い込んだ怪しげなゲームサイト。クイズを解いてゲームが進行するにつれ、益々込み入ったディティールが現れ、ゲーム内容も現実さながらの戦闘を模したものに。無事一次選抜を通過したカオル君の元に、ピッタリとフィットしたVR操作機器も送られてきたのだ……

作者の中条卓さんによると「当時から在宅勤務にあこがれていた私は“究極の在宅勤務ってなんだろう!”という、わりとしょーもない自問に対する答えとして在宅のまま戦争に参加する兵士というのを考え出したようです。」とのこと。

江戸幕府役職他(笑)

最近江戸時代の時代小説を読む機会が増えたので、江戸の幕府組織を知るために資料を買ってみました。参考にしたのは上田秀人先生の『武士の職分』です。上田先生ありがとうございます。


『武士の職分』中田秀人著

『武士の職分』上田秀人著、西のぼるカバーイラスト
2016/10/25、600円、角川文庫

役目を減らすことは、役人の席を奪うこと。己の存在意義と既得権益をめぐり、武士たちは熾烈な競争を繰り広げた。世襲を旨とする幕府が、唯一実力主義を徹底した医師。大名・旗本が敵に回すことを最も恐れた奥右筆。親兄弟であろうと罪を暴き、なりふりかまわぬ手柄を求めた目付。人も羨む出世と引き替えに、お手討ちもありえた小納戸等々。
歯科医でもある上田先生の変わった役職についての考察(笑)。実はこの本の前書きに記された資料から、以下の本を購入したのでありました。上田先生には、同業のよしみもあり、ぜひインタビューをさせて頂きたいものです。ファンになった切っ掛けは《奥右筆秘帳》シリーズを読んでからです。


『江戸町奉行』

『江戸町奉行』横倉辰次著、鈴木一誌+武井貴行装幀
2003/11/1、2000円、雄山閣
俗にいう八丁堀風の髪を毎日床屋に結わせ、朝風呂に入り、江戸八百八町を肩で風切って歩く。相撲取り、火消頭とともに江戸三男といわれた与力およびその下役、同心、目明し。彼らの日々の活動と生活を幕末名与力佐久間長敬の記録や豊富な史料によってその実像を紹介する。


『江戸の町奉行』石井良介著

『江戸の町奉行』石井良介著
2011/11/25、1800円、明石書店
大岡越前は本当に名奉行だったのか。町奉行、与力、同心、目明、火盗改、辻番、代官…南北に別れる江戸時代の警察裁判を司る町奉行システムから当時の江戸の治安システム、さらには庶民の日常までを紹介・解説する。
折り込みに、「江戸の朱引絵図」あり。


『江戸幕府』

『江戸幕府役職集成』笹間良彦著
1965/7/10、2500円、雄山閣
江戸時代の武家の社会組織、職制、生活のしきたりなどについて、さし絵を用いてわかりやすく、ていねいに解説。武家社会を知るための入門書。
江戸城勤番武士の生活(勤番の意味;武士の給与;旗本と御家人の生活;大名の生活)
江戸城勤番武士の職制(幕臣の身分の区別;役方の区分;老中支配の諸役;若年寄支配の諸役;幕末動乱期の職制)
「黒鍬頭」将軍が遊獵に使い、平時はもろもろの触達に使ったもので、470人もおり、三名の頭が支配したと記述があります。「御掃除頭」と同じく、台所前廊下席、御譜代で百俵高であるとのこと。


『江戸町奉行所事情』

『図説・江戸町奉行所事典』笹間良彦著
1991/1/25、3800円、柏書房
八百八町にはびこる犯罪と、派手な捕物、牢獄のしきたり、過酷な拷問、刑罰の諸々…。江戸の行政・司法・警察のいっさいを管轄した町奉行所の全貌を、綿密な考証と豊富な図版で再現する。

「《はぐれ名医》シリーズ」和田はつ子著

☆『大江戸ドクター』と《はぐれ名医》シリーズ
「アニマ・ソラリス」の「和田はつ子先生『大江戸ドクター』インタビュー」で、和田先生は、
“わたしの初期の作品に、医者、据物師、同心の三人が力を合わせて事件を解決する《やさぐれ三匹事件帖》シリーズというものがあります。実は『大江戸ドクター』は、彼らの十年後を設定し、医者ー克生中心に描いたものです。ですから三人にはかなりの思い入れがあります。現在、この《やさぐれシリーズ》を改変して、『大江戸ドクター エピソードゼロ』として刊行してはという話をいただいています。”
と発言されています。
この言葉通り、『大江戸ドクター』は、《はぐれ名医》シリーズとして刷新されたとも言えましょう。まあ、これから読まれる方は《はぐれ名医》シリーズ だけ読めば事足りると思いますが、ファンの方は『大江戸ドクター』+『やさぐれ三匹事件帖1,2』と、《はぐれ名医》シリーズを読み比べて、どこが改稿されているかチェックされるのも一興でしょう(笑)


『はぐれ名医事件暦』和田はつ子著

『はぐれ名医 事件暦』和田はつ子著、浅野隆広装画
2014.6.10、幻冬舎時代小説文庫、580円
「江戸に住む辰年生まれの者を、五日の内に殺める」という脅迫状が南町奉行所に届いた。木挽町で治療庵をひらく蘭方医・里永克生は、医学の豊富な知識と並外れた洞察力を奉行所に買われ、相次いで殺された辰年生まれの変死体を検分することに。人付き合いの苦手な医者が、死体から得た僅かな手がかかりを基に真相を明らかにする謎解きシリーズ第1弾。
ベスト時代文庫の『恋刀 やさぐれ三匹事件帖』と『三匹の侍捕り物控』を大幅に加筆修正。再構成したもの。


『はぐれ名医事件暦 女雛月』和田はつ子著

『はぐれ名医事件暦 女雛月』和田はつ子著、浅野隆広装画2015.6.10、幻冬舎時代小説文庫、600円

出産直後に殺された若い女の骸が発見される。赤子が消えているにもかかわらず自死と片付ける奉行所に不審を抱く蘭方医・里永克生。玉の輿を狙った娘達が足繁く通う甘酒屋をつきとめるが、女将はすでに殺され、訪れていた町娘達は行方知れずとなっていた。解明に乗り出す克生の前に立ちはだかったのは、名門武家が糸を引く非道な稼業だった。
ベスト時代文庫の『雪中花 やさぐれ三匹事件帖』を改題し、大幅に加筆修正したもの。


『はぐれ名医事件暦 女雛月』和田はつ子著

『はぐれ名医診療暦 春思の人』和田はつ子著、浅野隆広装画
2015.12.5、幻冬舎時代小説文庫、580円
十年ぶりに江戸に帰還した蘭方医・里永克生 は、神薬と呼ばれる麻酔を使った治療に奔走 していた。舌癌に苦しむ贅沢三昧の両替商、 痔瘻をひた隠しにする人気噺家、梅毒で鼻を 失った大名家のお世継ぎ……。冴え渡る医術 と並外れた洞察力で、一筋縄ではいかない過 去を抱えた患者たちの人生を蘇らせる。
幻冬舎の『大江戸ドクター』を改題したもの。

『糞袋』『蚤のサーカス』『星の綿毛』藤田雅矢著(kindle版)

『糞袋』『蚤のサーカス』『星の綿毛』に関する著者インタビューは、以下で読めます。
http://www.sf-fantasy.com/magazine/interview/040701.shtml


糞袋

『糞袋』藤田雅矢著、
2018.8.28、惑星と口笛ブックス、kindle版、800円
時は江戸、舞台は京都。「肥えとりはん」見習い中のイチは、ひょんな行きがかりから花街のお女郎さんの小水を所望する大店の旦那はんに 頼まれ、その配達係を引き受けることに。やがて糞尿全般スカトロ系事業に関わり、思わぬ運命に翻弄される……
蘊蓄ならぬ「ウンチくぅ」物語。
第7回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作。


『蚤のサーカス』書影『蚤のサーカス』藤田雅矢著、土橋とし子装画
2014.4.16、アドレナライズ、kindle版、495円
さあお立ち会い、世にも珍しい蚤のサーカスだ。1970年、大阪万博が延期された架空の世界が舞台。田舎の虫好き少年二人が、謎の「蚤のサーカス」の団長の罠にかかり、横浜まで解毒剤を取りに行く羽目に。二人はその資金調達のために、巨大な蝶と雌雄が合体した蝶を生み出す計画を実行しようとするが……
蘊蓄ならぬ昆蓄話かも(笑)


『星の綿毛』書影『星の綿毛』藤田雅矢著、菊池健装画
2014.5.1、アドレナライズ、kindle版、495円
どことも知れぬ砂漠の惑星。<ハハ>と呼ばれる銀色の物体の通った後には、緑を貯えた土地が砂漠の中を帯のように延びていき、人間たちはそこにまとわりついて収穫し、暮らしを営んでいた。そうしたムラのひとつに住むニジダマは、その緑の帯の端っこ、再び土地が干からびて砂漠に帰っていくところで、他の子ども達と落ち穂拾いをしていた。
道具を作るというトシという存在にあこがれるニジダマは、ある日砂漠を越えてやってきた交易人の世話をする役に指名される。過酷な環境を耐え抜くために全身の皮膚をウロコで覆った異形の男ツキカゲは、ニジダマの心を見透かしたかのように交易人になって一緒にトシに行こうと持ちかけた……

藤田雅矢先生短編収録電子版『万象』


万象

日本ファンタジーノベル大賞受賞作家21人の書き下ろしアンソロジー、井村恭一表紙画
「ZOO」藤田雅矢著
四国から決死の思いで、京都の動物園に象を見るためにやってきた吾郎は、窓口の料金表を見て途方にくれた。大阪でお金を盗まれたため、ポケットに穴あきの五万円銅貨と一万円のアルミ貨を何枚かしか持ってないのに、そこには「小人五十万円」と書いてあるのだ。園内の掃除を条件にどうにか象を見ることが出来た吾郎の知った驚きの事実とは……
藤田先生以外の収録作:
北野勇作「掌上現象」
南條竹則「動物園にて」
井村恭一「直し屋」
山之口洋「ナチュラル・ウォリアーズ」
沢村 凜「優しい手」
涼元悠一「停電の話?カッくんとデンバネ・白い車」
森青花「夢色いろ」
斉藤直子「リヴァイアさん」
粕谷知世「象になりたかった少年」
西崎憲「東京の鈴木」
渡辺球「仕える人々」
仁木英之「千秋楽」
堀川アサコ「からっぽの宇宙」
久保寺健彦「ファーストデート大作戦」
小田雅久仁「よぎりの船」
石野晶「かたわれ」
勝山海百合「ドライブイン・ヘルシンキ」
日野俊太郎「ヒトノムコトリ」
三國青葉「爆裂しすたーず」
冴崎伸「死を降らす星」
斉藤直子「まとめ人日記」
斉藤直子さんの「まとめ人日記」によると、2004年頃に始動した計画だったようだ。藤田雅矢さんは初期の頃からこの計画に参加されていたみたいですね。

藤田雅矢先生電子版著書『植物標本』


植物標本

『植物標本(ハーバリウム)』<植物篇>藤田雅矢著、ウエタケヨーコ装画
2018.8.21、株式会社アドレナライズ、Kindle版、495円
収録作:
「ダーフの島」(SFマガジン読者賞国内部門一位)
ホピ族のカチーナ人形にインスパイアされた作品。
ゲラマ島には、ガラパゴス島にも似た島独自の生物群が存在する。ゲラマ島にのみ棲息する豚に似たゲラマブー、外界とは断絶した独自の文化を持つ土着の住民、ダーフと呼ばれる不思議な小人。久しぶりに島を訪れたヌマタは、刺青をした住民のリュマと再会し、島に上陸するのだが、そこには驚くべきダーフの生態が……
「世界玉」
高校で同級生だった晃司から届いた手紙、それはネパールからだった。そこにはネパールから来た留学生が持っていた掌に乗るくらいの大きさの「世界玉」のことが書かれていた。その中には世界があるという。私は、帰国できなくなった晃司を訪ねてカトマンドゥに向かうことにした。
「口紅桜」
植物園の私宛に届いた四国の虚空寺の和尚からの手紙、そこには山寺にある弱った口紅桜を養生してくれないかというものだった。
「トキノフウセンカズラ」
植物園に勤める私は、近所のフウセンカズラが普通とはちょっと違うことに気がつく。おばあさんにお願いして調べさせてもらうと、その実は中が空っぽだった。おばあさんは気づいてくれたことに喜び、不思議な由来を話し出した……
「植物標本集(ハーバリウム)」
解体される予定の植物園で一番古い木造の温室、そこから出てきたのは南方熊楠や牧野富太郎と並び称される野々山博士の残したハーバリウム(植物標本集)だった。野々山博士は、「ヤマワタリ」や「トビスミレ」など、これまでの植物学の常識を覆すような新種の植物を発表し、しかもその採取場所を明らかにしないことでも物議を醸してた人物だった。
「ブルームーン」
月初めに満月があって、月末にもう一度ある満月ときそれをブルームーンと呼ぶ。土砂降りの雨の夜、たまたま入ったバー「ブルームーン」、そこには同名の青紫の薔薇とカクテルがあった。
「計算の季節」
夏になると、複雑な計算を必要とする科学者たちがやって来る村。畑には多くの電算草が茂り、それを使って複雑なデータ演算が出来るのだ。大型電算機を使う代わりに、電算草と精神感応して必要とされる複雑な計算に没頭する科学者と、それを世話する少年の交流を描いた作品。
「スヴァールバルからの便り」
世界種子貯蔵庫のあるスヴァールバル諸島からの手紙、それは植物とのコミュニケーションを研究しているプラントドリトル研究所で働く旧知の秋野希林さんからだった。
ジュヴナイル小説の『クサヨミ』(http://www.sf-fantasy.com/magazine/interview/140102.shtml)の後日譚。

藤田雅矢先生電子版著書『鬼になる』


鬼になる

『鬼になる』<怪奇篇>藤田雅矢著、ウエタケヨーコ装画
2018.8.21、株式会社アドレナライズ、Kindle版、495円
初出《異形コレクション》、SFマガジン他から
収録作:
「鬼になる」
天保四年、水口村。度重なる飢饉で村民は疲弊していた。医者である宇根次さまの屋敷には異人が出入りし、飢えた子どもを預ければ“一年間”は食べさせてもらえるという噂があった。最後の一行がグサリときます。
「暖かなテント」
サーカスを見に来たマサルは、そこで不思議な体験をする。象やライオンがいるとは思えない、一見するとみすぼらしいそのサーカス団にはある秘密があった。
「引きだし刑」
ダリの《引き出しのあるミロのビーナス》に感化された作品。
「引きだし刑」に処された男が送り込まれる『引きだし等により構築された迷路世界』。そこから帰還したものはまだ居ないが、コードネーム<シーラカンス>という貴重なものを探し出せれば解放されるという。そこは暗黒の世界で、男は辺りを照らす小さな<太陽>とロッカーのカギを渡された。
「幻肢(ファントム)の左手」
火葬場の責任者である俺の左手が疼く。俺は、かつて同級生だった淳と美紀子の三人でよく山登りに行ったものだった。しかし大学時代に登った冬山で雪崩に襲われ、淳は助かったものの左手と左足を失ってしまった。そして美紀子はなんと一年半後に白骨死体となって見つかったのだが……
「釘拾い」
藤田さんの生まれ育った京の町のはなし。
石像寺の釘抜地蔵、釘ではない「釘」を踏んだマーちゃんは、祖母に連れられて百恵ばあちゃんに「釘」を抜いて貰いに行った。その「釘」が見える人は歳をとったら「釘拾い」をすることになるという。
「舞花」
英国のキュー植物園には、高名なノース女史が描いた植物画があり、その中には存在を確認されてない浮遊する植物が描かれていた。植物園が契約している世界を駆けめぐるブラント・ハンターが、その「舞花」を持ち帰ったというが……
「Dovey Junction」
ウェールズ地方を旅行した際に乗り換えた名も無き駅での不可思議な話。
「最後の象」
最新型のドローンを使って像を狩る密猟者。それを暗視ゴーグルで見つめる男の正体と象の秘密とは……
「おちゃめ」
「おちゃめ」を見た日には、ちょっといいことがある……
「銀のあしの象」
象専用パワードスーツをつけた動物園のシルバーは、何か悪いことが起こりそうだと嫌な匂いを感じるのだった。
小学5年生向けた作品。
「歯神社」
第二回大阪てのひら怪談投稿作品。
「鉄塔の記憶」
鉄塔のある風景を詠んだ句集。